(株)新東京ジオ・システム 堀江 四郎 |
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はじめに
山形には美味しい食べ物やお店がたくさんありますが、ここでは、山形の美味しい焼き鳥店を紹介します。
「焼き鳥を主食にして全国を食べ歩いている」という人が「間違いなく日本のベスト3に入る」と断言する店が「焼き鳥・そね田」である。山形駅より徒歩数分の処にある。
もう30数年前の話であるが、入社して間もない頃、上司に連れていかれた店で、焼き鳥の美味しさに感激したことをよく覚えている。今でも、「帰りはSで待っているよ!」とアフターファイブの約束を交わしている。Sとは、「焼き鳥・そね田」の頭文字のSである。仕事中に酒飲みの話も出来ないのでイニシャルで話していた。
「焼き鳥・そね田」は、カウンターと窓際の席を含めて20席、小上がりが4席あり、5時半に開店するとすぐに満席になる人気の店である。気の早い常連の客は開店前から入れてもらって、丁寧に炭を並べているところを眺めながら待っている。開店30分後の午後6時頃には、満席になり立って席を空くのを待つか、他の店に変更するか判断をせまられる。夏の暖かい夕暮れは、店前の路上にビール箱でテーブルと椅子を作り、即席の「焼き鳥・そね田2号店」で酒を飲みながら席の空くのを待っているのである。「焼き鳥・そね田」で飲むのはなかなか至難である。ゆえに、事前に飲み会の準備・打合せが必要なS店なのである。今までの経験では、単身赴任者が帰る「金曜日」とサッカーAマッチ国際試合のテレビ中継がある日は比較的に空いていた。
炭火の準備が出来たところで、「お待たせしました、それでは○○からはいります。」と店主の息子が大きな声で宣言する。焼き鳥の並べ方へのこだわり、団扇さばきも見事である。人気の秘密はやはりその味である。焼き台の上には、さがり−ハツ−あいまち−ふぉぁぐらなど独特のメニューが一応順番に出てくる。それぞれが新鮮で、ジューシーで、それでいていやな脂っぽい感じもない。焼き鳥といっても肉は大振りの豚肉が中心である。
焼き鳥「そね田」店内
筆者はとても、幸せです
焼き鳥は、一口で口の中に入る程の肉と長ネギそれを平たい竹串で突き刺している。平たい竹串により肉と長ネギはしっかり固定され回転しないので非常に食べやすい。それをきれいに並べて備長炭の炭火でじっくりとムラ無く焼く。味付けは、塩と店秘伝のタレの2種類である。
店主と息子さんは炭火の火力調整と串の返しを繰り返しながら、焼き鳥を焼き上げる。一本一本の串に職人の魂が入っているので旨い。
店主の奥さんが「コースで宜しいですか?」「おまかせで宜しいですか?」と注文に来る。お好みの注文も出来るのだが、店の雰囲気や出来具合の流れもあるので、お任せにした方が待つこともなく手際よく出てくる。
おまかせは、焼き鳥9本のフルコースが基本である。メニューは焼き鳥とおしんこのみ、酒は店主のこだわりの日本酒とビールのみである。ビールは、生・瓶ともによく冷えている。お通しのたくあんは、酒飲みにピッタリの非常に塩辛いたくあんである。たくあんをつまみにビールを飲んでいると、焼きたての焼き鳥が盛られた小皿が差し出される。小皿は焼き鳥の種類毎に差し出され、高級料亭のコース料理気分が味わえる。
まずは「さがり」ジュ、ジューシー!抜群の焼き加減、続きも塩焼きの「なんこつ」コリコリで旨い。つぎは、「ハツ」先ほどまで動いていたかのような歯ごたえ。さー、続きまして「あいまち」と「もうせん」のこりこり2連発。タレもいいなあ。甘すぎなくて好み。ホルモンの良いところだけ引き出してくれる。つまり臭みとか全然ないのである。
店内では、相変わらずお客さんに対して老若問わず、カップルには「新婚さん」男性には、「お兄さん」と呼ぶ。60歳ぐらいの老夫婦とおもしき2人が入ってくるなり、「はーい、新婚さんいらっしゃーい」……思わず笑いが起きる。本人達も笑っている。
飲み物の方は、ビールを2〜3杯かきこむと、つぎは熱燗もっきりを注文。特大の徳利から受け皿付のコップ(1合)になみなみと注がれる。豪快である!そして目の覚めるような熱い酒を、背を丸めて、コップに口を近づけて一口飲む、最高の幸せである。
酒は普通の日本酒で、タイプとしては甘めだが、ベタベタしつこくなく、すっきりとした旨い酒である。もっきり酒と一串一串がタイミング良く出てきて、楽しい酒場の宴となる。
そろそろ気持ち良くなってきて、お勘定を頼めばなんと2千数百円!この美味しさ、この楽しさ、ほろ酔いかげんで、この値段だったからもの凄く得した気分。なお、この店には冷房はない。煙もうもうだから、席に座ると団扇をくれる。記念に持って帰られるのである。
今、元気がない山形で一番元気、活気のある店、「焼き鳥・そね田」。その日の仕込みが売り切れると終了。早い時間は8時台で閉店してしまう。皆様、山形にお越しの節は、早めにご来店あれ。