(株)ダイヤコンサルタント東北支社 |
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1.はじめに
秋田県横手盆地東側丘陵部(図-1) に建設中であった道路の切土のり面に小崩壊・亀裂が発生した1)。崩壊箇所を調査した結果、活断層が道路と斜交する方向に通っており、のり面崩壊が活断層による複雑な地質構造を原因として発生したことが確認された。
本稿では、のり面付近の活断層による崩壊性要因とこれに配慮した対策工計画事例について報告する。
図-1 業務箇所位置図
2.地形・地質概要
のり面崩壊箇所周辺は、標高200m前後の丘陵地を最大約13m の高さで切土している(図-2)。切土区間の東側には北北西方向の沢地形が分布し、沢の左岸側には低断層崖などのリニアメントが認められた。
切土のり面周辺の地質は、下位より、新第三系中新統真昼川層の玄武岩溶岩及び同質火砕岩、玄武岩岩脈、第四系更新統栗沢層のくさり礫主体の礫層(高位段丘堆積物)、湖沼性堆積物( 粘性土等) および完新統の谷底堆積物( 砂礫層) より構成される(図-2)。
図-2 業務箇所周辺の地形・地質平面図
3.切土のり面の地質
のり面崩壊の素因となった活断層は、N-S〜NNW-SSE走向で西側上がりの逆断層であり、下部では傾斜72°と高角度であるが上部にしたがい低角度となり、地表付近では傾斜12°となっている(図-3、写真-1)。このように断層面の傾斜の変化が著しいことから、のり面横断方向での断層面の分布が複雑であることが予想されたため、のり肩部でボーリング調査を実施した。
図-3 東側切土のり面 崩壊箇所周辺スケッチ
写真-1 東側切土のり面 崩壊箇所周辺写真
活断層の下盤には栗沢層( 礫層)、湖沼性堆積物( 粘土、有機質土層) が分布し、上盤には下位より真昼川層( 玄武岩溶岩)、栗沢層( 礫層)、湖沼性堆積物( 粘土、有機質土層) が分布する(図-4)。
図-4 地質断面図
本調査地の活断層は、横手盆地東縁部の陸羽地震(1896年) で活動した白岩断層2)と傾斜方向が逆であることから、同断層のバックスラストと考えられる(後掲図-6参照)。
湖沼性堆積物( 有機質土) 及び表土( 有機質土)の計2箇所で14C年代測定を実施した。( 図-5)。湖沼性堆積物の高有機質土で48,410 yBP 以上、表土中の木片で4,130±70yBPの結果が得られ、調査地の活断層は表土に変位を与えていないことから、活断層の最終活動時期は、少なくとも約4,100年前より古い時期と考えられる。
図-5 西側切土のり面 崩壊箇所周辺スケッチ
写真-2 西側切土のり面 崩壊箇所周辺写真
4. 崩壊形態
のり面崩壊は、栗沢層の礫層中に幅約6mの規模で発生し、崩壊部周辺には最大開口幅約3cmの亀裂が多数確認されたことから、崩壊が背後に拡大する可能性が大きいと考えられた。本崩壊は、活断層上盤側の約50°で傾斜する栗沢層の礫層分布域に発生した表層崩壊であり、崩壊面より地下水の湧水が確認された。また、切土面背後にリニアメントである小沢が延長していることが確認された。
崩壊箇所付近では、断層上盤に透水性の礫層が難透水性の湖沼性堆積物および真昼川層に挟まれて高角度で分布し、断層下盤に難透水性の湖沼性堆積物の粘土・有機質土が分布している。このことから、断層上盤の透水性の礫層が水みちとなり、地下水が集水していたと考えられる。さらに、背後のリニアメント沿いの沢から降雨時や融雪時に大量の地下水が礫層中に浸透したこと等を原因として断層上盤の礫層分布域より湧水し、のり面に表層崩壊が発生したメカニズムが考えられた。また、断層面がのり面に対して流れ盤をなすことから、開口亀裂が分布する幅約20m の緩み範囲は椅子型の地すべりに発展する可能性が大きいと判断された(前掲図-4)。
5.対策工検討
のり面対策工は、椅子型をなす緩み範囲を対象として、グランドアンカー工により抑止することとした(前掲図-4)。なお、緩み範囲は全体に開口亀裂が発達すること、第四紀層の固結度が低いために小崩壊の発生が懸念されたことから、切土のり面に対してのり枠工を採用し、枠工をグランドアンカーの受圧板として兼用する計画とした(写真-3)。
写真-3 対策工施行後の状況
現地状況から、崩壊の誘因となった礫層中への地下水の主要な供給源は、のり面北側より背後に延長する沢からの浸透水であると判断されたため、この沢部に延長約30mの排水路工を施工し、沢水の地下浸透を防止した。
6.おわりに
活断層に近接する丘陵地は、バックスラスト等の複雑な地質構造、プリズム堆積物等の軟質な第四紀層の分布、地層の急傾斜部、厚い風化部の存在等の崩壊性要因を有している可能性が大きいことから、建設事業の地質リスクが高い地域と言える(図-6)。
図-6 白岩断層周辺模式断面図
以上から、活断層近傍での建設計画に際しては、地質リスクを低減するために、事前に入念な地質調査を実施することによって、コスト短縮を図ることが可能になると考えられる。
引用・参考文献