協会誌「大地」No49

応用地質(株)小松田 孝寿/佐藤 円/佐々木 利明

 

能代河川国道事務所 調査第一課 坂本 悟

 

米代川左岸堤内地で発生した大規模噴砂の調査事例について

1.はじめに

米代川は秋田県、青森県及び岩手県の3県境に位置する中岳(なかだけ)(標高1,024m)にその源を発し、一旦、岩手県を南下した後、その向きを西に変えて秋田県北部を東側から西側に流下して日本海に注ぐ、延長136km、流域面積4,100km2の一級河川である。

平成19年9月16日から18日にかけて停滞した秋雨前線の影響で、奥羽山系を中心に東北地方北部に集中豪雨が降り、米代川下流域では計画高水位を上回る洪水が発生し、6 箇所の水位観測所で既往最高水位を記録した。計画高水位を超えた下流域では、漏水やのり崩れなどの堤防被害が発生し、被害箇所の中には、直径3mを超える大規模な噴砂を伴うパイピング現象が確認された。

大規模噴砂箇所を対象に基礎地盤状況を把握することを目的に、堤防縦断方向において、表面波探査と牽引式電気探査を行った。両手法から得られた探査結果の評価により、漏水の発生しやすい危険箇所(水みち)が物理探査により判別できる可能性があることが分かり、堤防の弱点箇所抽出の有効な調査手段のひとつであることがわかった。

2.大規模噴砂箇所の地質概要と噴砂の特徴

大規模噴砂は、河口より約15km上流の左岸堤防の堤脚水路部と堤内地の水田内で数箇所発生した。また、一連の堤防区間内で最も堤内地盤が低い箇所で発生した。なお、水田地権者の証言では、過去の洪水でも漏水が発生していたとのことで、繰り返し漏水が発生していた可能性が高い箇所であった。

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写真-1 水田部の大規模噴砂

被災箇所の地質断面図を図-1 に示す。被災箇所の堤体は砂質土により構成され、基礎地盤表層には横断方向に連続した緩い砂層が2〜3m程度の厚さで覆っている。更に以深には、透水性の高い砂礫層が厚く堆積し、透水性地盤を形成している。なお、微地形区分では氾濫平野に属する。

大規模噴砂は概ね円形状の噴砂丘を形成し、中央には噴出口が確認された。また、噴砂の表面には波紋が見られ、内水の中で噴きあがり堆積した痕跡と考えられる。図-2 には噴砂と表層を覆う砂質土(As層)の粒度組成を示す。基礎地盤表層に分布する砂質土に比較し、噴砂は、分級化され単一粒度の分布を示すことが分かった。また、液状化を生じやすい砂の粒度分布1) に近似している。

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図-1 大規模噴砂箇所の地質断面図

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図-2 噴砂の粒度組成

3.大規模噴砂箇所の堤防縦断方向調査結果

(1)堤防縦断方向の調査項目

大規模噴砂箇所での縦断方向の地質状況の詳細を把握するために、物理探査を主体とした堤防縦断方向調査を実施した。調査の内容と目的を表-1 に示す。

表-1 堤防縦断方向調査の項目と目的

調査手法 調査目的
表面波探査 堤防縦断方向の連続したS波速度分布を明らかにし、強度特性の縦断変化を把握する
牽引式電気探査 堤防縦断方向の連続した比抵抗分布を明らかにし、土質特性の縦断変化を把握する
スウェーデン式サウンディング 物理探査結果の評価妥当性の確認調査(表層土の層厚確認)
簡易サンプラー 物理探査結果の評価妥当性の確認調査(表層土の土質確認)

なお、簡易サンプラー(写真-2参照)は、スウェーデン式サウンディングの試験孔を利用して実施した。

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写真-2 簡易サンプラー

(2)堤防縦断方向の調査結果

図-3に川裏のり尻部での表面波探査と牽引式電気探査の結果を示す。なお、物理探査は、川裏のり尻部、川裏小段、川表のり尻部で堤防縦断方向に3測線実施した。本論文では、川裏のり尻部での調査結果を代表して紹介する。表面波探査から得られる地盤のS 波速度は土の強度特性に関係し、牽引式電気探査から得られる地盤の比抵抗は土の粒度(透水性)や含水量など土質特性に関係する。このような観点から評価すると以下のとおりである。

@表層の2〜3m間はS波速度100m/s以下の緩い(軟らかい)地層が連続して分布し、噴砂していない上流側の方がより緩い傾向にある。また、上流側に徐々に緩い層が薄くなる傾向にある。

A噴砂発生箇所付近の表層に局所的に比抵抗の大きい部分がみられ、水を通しやすい部分が局所的に存在している。また、噴砂していない上流側の表層では比抵抗が小さく水を通しにくい土質性状になっている可能性がある。

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図-3 表面波探査と牽引式電気探査の結果

スウェーデン式サウンディングの結果を図-4に示す。表層の2〜3m間は、自沈するなど非常に強度の低い層が縦断的に連続していることが確認された。また、最上流の15.8kmの結果では、表層土の層厚が薄くなり、表面波探査結果と良く一致した結果となっている。

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図-4 スウェーデン式サウンディング結果

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写真-3 簡易サンプラー゙結果

簡易サンプラーによる表層土の土質を確認した結果、噴砂箇所では、砂質土が確認され、噴砂していない上流側ではシルトに徐々に変化し、牽引式電気探査の結果と良く一致した結果であった。

次に、表面波探査結果と牽引式電気探査の結果より、図-5に示す評価手法を用いて大規模噴砂箇所の縦断土質特性を解析した(以下、クロスプロット評価と称する)。解析結果は、図-6のとおりであるが、噴砂箇所で局所的に「高透水で緩い箇所」が表現されている。この「高透水で緩い箇所」は、パイピイングによって形成された漏水痕跡(水みち)を捉えたものであると考えることができる。また、川裏小段、川表のり尻での物理探査結果でも同様に「高透水で緩い箇所」が局所的に分布することがわかり、堤防下に連続した漏水痕跡(水みち)を捉えることができた。

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図-5 表面波探査結果及び電気探査結果を
用いた土質評価区分(クロスプロット評価)

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図-6 クロスプロット評価による土質特性区分

4. 大規模噴砂箇所の調査結果に基づく考察

@大規模噴砂は、基礎地盤表層に分布する緩く薄い砂質土(AS)を起源として発生していると考えられる。

Aクロスプロット評価では、局所的に「高透水で緩い」と評価された箇所と噴砂箇所が一致し、パイピングによって形成された「水みち」を捉えている可能性がある。また、堤防縦断方向に数測線の探査を行うことで、堤防下での基礎地盤状況の面的な把握も可能である。

B漏水現象は繰り返し発生し、洪水の度に水みちが拡大している可能性が高い。このような漏水痕跡は、堤防の弱点箇所でもあり、漏水痕跡を効率よく調査する方法として、物理探査が有効であると考えられる。

深層崩壊起因型土石流は、発生事例が少なく、特に水文特性についてはまだ十分に調査、検討されているとは言えない。今後、さらに水文特性と地形、地質状況との関連性を検討し、より適切な抽出手法を開発する必要がある。

5.おわりに

浸透に対する堤防の安全性は、基礎地盤表層に分布する土質特性や縦横断の分布状況によって大きく左右される場合が多い。そのため、堤防を詳細に評価していく上では、堤防縦横断での土質特性を詳細に把握することも重要であり、物理探査を有効に活用していくことで、より高度な堤防評価が可能になると考える。

引用・参考文献

  1. 安田進(1988):液状化の調査から対策工まで、鹿島出版会、pp.77 〜 78

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