東北地質調査業協会 広報委員長 高野 邦夫 |
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1.地震の概要
平成20年6月14日8時43分、岩手県内陸南部(北緯39度01.7分、東経140度52.8分)で震源の深さ8km 、マグニチュード7.2の内陸地震が発生した。この地震により、岩手県奥州市、宮城県栗原市では震度6強、宮城県大崎市では震度6弱、岩手、宮城、秋田の周辺市町村で震度5強を記録した。気象庁はこの地震を「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」と命名した。
国土地理院の調べでは震央に近い電子基準点で約2.1mの隆起と約1.5mの水平変動が検出されている。各研究機関の解析によれば、地震のメカニズム解は、西北西−東南東方向に圧縮軸をもつ西落ち傾斜の逆断層型とされている。岩手県一関市、宮城県栗原市では地表部に地震断層が現れたが、地表地震断層が地震規模に対して小規模であったことが特徴とされている。また、活断層あるいはリニアメントがこれまでに確認されていない地域で発生した地震であった事が問題提起されている。
2.被害の概要
地震による人的被害は、死者13人、行方不明者10人、重傷者81人、軽傷者370人であり、土石流、地すべり、土砂崩れ、落石などの土砂災害による死亡者、行方不明者が多くを占めている。住家被害は、全壊33棟、半壊138棟、一部損壊2,181棟に及んだ。避難指示は58世帯141人、避難勧告は118世帯346人に対して発令された。人的被害、住家被害は、同様の中山間地で発生した新潟県中越地震に比較すると少ないといえる。
内陸山地部に発生した地震であったため、岩手県一関市、奥州市、宮城県栗原市、大崎市で土砂災害が多発し、県管理道路9区間が全面通行止めとなった。国土交通省調べ(7月30日)による土砂災害の件数を表-1に示す。
岩手・宮城県境付近の磐井川、迫川、三迫川では、土砂災害による河道閉塞(天然ダム)が15箇所で発生し、国土交通省による直轄砂防災害緊急事業として仮排水路などの対策工事が実施された。
荒砥沢ダム上流左岸山腹部の地表地震断層
市道馬場-駒ノ湯線を横断する地表地震断層
荒砥沢ダム上流大規模地すべりによる河道閉塞
三迫川上流右岸の地すべり頭部
三迫川上流地すべりによる河道閉塞
特筆すべきは、本地震により荒砥沢ダム上流で延長約1.4km、幅約0.9km、深さ約150m以上の大規模地すべりが発生し、中越地震と同様に内陸直下型地震によって大規模地すべりが発生することが確認されたことである。
表-1 岩手県・宮城県の土砂災害数
(がけ崩れは秋田県、福島県でも各1件発生)
3.本特集の概要
地震発生直後に土木学会、地盤工学会、日本地震工学会、地すべり学会合同緊急調査団の他、各省庁や大学などの多数の研究者により現地調査が実施されている。
荒砥沢ダム上流大規模地すべりに切断された市道
本特集にあたっては、岩手・宮城内陸地震を精力的に調査された以下の先生方より研究成果をご寄稿いただいた。
ここにご寄稿いただいた先生方に厚く御礼申し上げます。
参考文献
内閣府:平成20年11月19日:平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震について