国土防災技術(株)山形支店 長谷川陽一 山科真一 内藤祥志
庄内森林管理署 本城谷貴広
鱒淵沢地すべりは、幅約180m、斜面長約250mの規模である。鱒淵沢に面して、幅約400m、斜面長約1200mの大規模な地すべり地形があり(図1)、今回滑動した斜面は、この大規模地すべりの末端部にあたる。
当該地は、山形県旧朝日村の中心部本郷から南南西に約15kmの鶴岡市荒沢字池の平国有林100林班地内である。林道花戸線と鱒淵林道の交差位置から南に約200〜350m南側の西向き斜面である(図2)。
当該地すべりは平成17年10月の連続的な降雨によって地すべり移動が発生した。地すべりは鱒淵沢右岸部にあたり、下流約1kmには鱒淵集落が位置しており、「地すべりの活発化→鱒淵沢閉塞→土石流発生」による被害の発生が懸念された。
このことから、東北森林管理局では鱒淵沢(地すべり下流部)でのスリットダム施工、地すべり機構調査実施とあわせて、地すべり動態を監視し下流域の被害を最小限に留めるために「地すべり自動観測・自動通報システム」の導入を図り、平成17年10月下旬にはシステム設置に着手して、11月上旬には稼働を開始した。
図1地すべり地形分布図
((独)防災技術研究所:
大鳥川−湯殿山図幅の貼り合わせ)
図2鱒淵沢地すべり位置図
(S=1:200,000酒田図幅)
周辺域の地質層序は表1に示す通りである。また、図3に地すべり平面図を示す。
表1周辺域の地質層序
図3地すべり平面図
図4に自動観測システムの一つである地中変位計の代表的な観測点の累積移動量の経時変化図を示す(降水量と積雪深もあわせて示す)。
平成17年度冬期は例年に比べ積雪量が多く、融雪期には地下水が長期間にわたって供給され、これによって間隙水圧が上昇し、活発に滑動したと考えられる(60mm/day)。融雪期後地すべり活動は小康化したが、7月の集中的な降雨時には再び滑動した。
平成18年度冬期は12月に降雨があるなど暖冬であったため、冬期にも滑動が確認された。暖冬の影響で積雪量が少なかったため、前年に比べ累積移動量が小さくかつ滑動期間が短いが、融雪期の4月には20mm/dayの活発な滑動が確認されている。
当該地すべりは地下水位の上昇で滑動が活発化していることが窺われ、今後も融雪や集中的な降雨などにより滑動が活発化する可能性が高い。
図4累積移動量・降水量/積雪深〜経時変化図
図5にシステム構成図を示す。本地すべり監視システムでは商用電源、有線電話共に整備されている鱒淵集落に現地観測局を設置し、地すべりブロックから現地観測局間に通信ケーブルを敷設した。
自動観測は、監視パソコンを用いて有線電話回路を通して観測機器からデータを回収し、Webページでデータの開示をしている。
自動警報は、現地観測局内に設置した土石流警報盤によって制御し、観測機器(地中変位計およびワイヤーセンサー)からの警報信号を受けると、現地通報として鱒淵集落にパトライト、およびサイレンで発報し、同時に有線電話回路を通して関連機関に電話による通報を行う。
図5システム構成図
地すべりの移動量を観測し安全管理を行うには、管理基準値(判断の基準となる値:閾値)を定める必要がある。当地区の管理基準値はこれまで採用された地すべり地の実績値1)を参考にして表2のように設定した。
表2管理基準値
その後、平成18年融雪期に地すべり活動によって地中変位計の観測値が管理基準値である4mm/hを超過し、実際にレベル3の発報がなされた。発報後の現地の状況を確認したところ、土砂流出等の大きな移動は認められず、鱒淵沢の閉塞はなかった。すなわち、実績値を基に管理基準値を設定したものの、設定した管理基準値は鱒淵沢地すべりの移動特性を反映できていなかったため、発報が空振りに終わる結果となった。
警報の発報が地元住民をはじめとする関係各位に種々の影響を及ぼすことから、警報の精度を高めることが求められた。そこでその時点での詳細調査から判明していた地すべりの個性、すなわち、想定している被災形態および地すべり移動量と移動実態(土砂流出等)の関係、スリットダムの存在などの条件を勘案して、管理基準値を見直した。その内容は、『警報の発報は“土石流センサの切断”のみとするが、地中変位計による地すべりの自動観測は継続し、その他の調査種(地すべり半自動観測、踏査による現況確認など)も補足手段として実行する』というものである。