東日本高速道路(株) 米村 功
応用地質(株) 佐藤 円、平出 亜
宮城県と山形県の県境を走る高速道路の一部区間には、道路開通後2年頃より、片切・片盛区間(以下、切盛区間と略す)及び盛土区間の路面に浸水沈下が原因と考えられる変状が発生した。そして、変状卓越区間では、供用開始の7〜8年後に、打換工や切削オーバーレイによる補修工事が順次実施されてきた。しかし、補修工事後に再度亀裂が発生するため、平成16年まで補修工事を繰り返し行ってきた経緯がある。
硬質粘土や泥岩を盛土材として使用した現場において、盛土完了後に浸水が原因と考えられる沈下が発生し問題となるケース1)が知られている。このような沈下は、コラプス2)沈下と呼ばれ、締固めを行った土でも、最適含水比の乾燥側で締固めた土などで生じることが多い。
本論文では、現地状況からコラプス沈下が原因と考えられた道路盛土の変状について、現地調査及び室内試験から変状メカニズムを考察した事例について紹介する。
図-1に切盛区間の横断図及び変状発生箇所の代表例を、写真-1に平成5年に撮影された路面の亀裂状況を示す。変状発生箇所の高速道路は、山地斜面を切土または盛土して構築された区間となっている。盛土区間には旧河川を付替えた箇所もあり、このような箇所では盛土厚が最大約40mに達している。現地における変状の特徴として、路面の縦断方向に多く亀裂が発生すること、亀裂は切盛区間及び盛土区間に多く発生すること、盛土小段には滑動やすべりの兆候が見られないこと、亀裂は補修しても繰り返し発生することが挙げられる。
図-1切盛区間における変状発生位置の代表例
写真-1切盛区間の亀裂補修状況
(平成5年5〜6月撮影)
写真-2にボーリング調査で採取した盛土の代表的なコア写真を、表-1に盛土の土質試験結果を示す。盛土は、周辺の掘削残土が材料で、基質部分が粗粒土主体の土質からなり、全体に硬質な礫や玉石(安山岩主体)を多く混入する。このため、N値は2〜50以上とバラツキが大きい。三軸圧縮試験は、コア試料を密度調整した上でCD条件で行った。本試験では、供試体サイズをφ10cm×H20cmとして、20mm以上の礫を除いて供試体を作成した。結果は、φd=34°、Cd=41kN/m2であった。
写真-2盛土のコア状況
表-1盛土の土質試験結果一覧表
現地状況から、変状のメカニズムの検討事項として、1.盛土のすべり破壊、2.地すべり、3.基礎地盤の沈下、4.浸水沈下を考えた。現地踏査及びボーリング調査ならびに土質試験を行い、上記事項を検討した結果、次に示すことが明らかとなった。
浸水による沈下の度合いを把握する目的で図-2に示す不飽和粗粒土の圧密試験を行った。
図-2不飽和粗粒土の圧密試験例3)
本試験では、コア試料を密度調整し、供試体サイズをφ15cm×H20cmとして、20mm以上の礫を除いて供試体を作成した。図-3に浸水が原因で生じる沈下の検討図を示す。
図-3浸水に伴う盛土の沈下量算定図
本試験では、コア試料を密度調整し、供試体サイズをφ15cm×H20cmとして、20mm以上の礫を除いて供試体を作成した。図-3に浸水が原因で生じる沈下の検討図を示す。
図-4浸水時の沈下量算定結果
盛土全体が浸水した場合、浸水に伴う沈下量は、盛土厚に比例して増加し、盛土厚の約0.9〜1.6%となることが分かった。
検討地区Bにおける地下水位は、常時で盛土下面にあり、降雨後に約3〜4m上昇することが水位観測結果で明らかとなっている。検討地区Bでは盛土がほぼ浸水する場合があり、この時の沈下量は、最大で3〜4cmになるものと推定される。一方、検討地区Aで平成5年〜6年に行った動態観測結果では、年間約0.5cmの沈下が認められた。毎年同程度の沈下が発生していたのであれば、16年間で約8cmの沈下が発生したことになる。沈下量の推定値に差はあるが、これは、浸水時間及び盛土内の浸水域を精度良く把握することで解決できるものと考えられる。いずれにしても、不飽和粗粒土からなる盛土に水が浸透すれば、沈下が促進されることを試験結果は示唆している。
浸水沈下は、雨水または山地からの伏流水が路面下部に浸透した際に発生する。経時的には、切盛区間の路面下部で確認された泥ねい化を初期現象、同様な位置で確認された空洞化を末期現象とみることができる。このような進行性の現象は、路面下部の地盤強度が異なる切盛区間の盛土部が最も発生しやすい条件にあるといえる。
これらをまとめて図-5に示す。
図-5亀裂発生の模式図
浸水沈下の防止対策としては、雨水や地下水を路面に浸透させない遮断工法が考えられる。しかし、浸透域が広範囲であり恒久的対策となり得ないことから、対策の実施は現実的に困難である。現実的対応策としては、変状状況を鑑み、変状卓越区間では路面の沈下状況及び盛土内の地下水位変動をモニタリングするとともに、これらの結果を路面の維持管理に活用していく方針である。
また、亀裂発生後の補修対策として、打換工によるリフレクションクラック図-5亀裂発生の模式図(新しく舗設されたアスファルト混合物層に生じる亀裂で、古い層の目地や亀裂の真上の位置に発生する4))の防止対策が挙げられる。この対策は、亀裂発生後の舗装補修工法として平成16年7月に行われたものであり、施工後約2年半が経過した現在、路面の安定性から工法の有効性が確認された。恒久的対策ではないが、亀裂拡大を防止する有効な舗装補修工法として類似箇所に今後適用していく予定である。