(株)北杜地質センター 高橋 薫 |
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夏油温泉の大石灰華として、「特別天然記念物」に指定を受けている本邦最大の石灰ドームについてご紹介したい。
天然記念物には、植物・動物・地質鉱物の3部門があり、また、それらは国指定の場合天然記念物と特別天然記念物に分けられる。
指定天然記念物:植物・動物・地質鉱物のうち学術上貴重で、我が国の自然を記念するもの。
特別天然記念物:天然記念物の中で「世界的にまた、国家的に価値が特に高い」もの。
とされている。保護すべき天然記念物に富んだ代表的一定の地域を「天然保護区域」としており地質鉱物の指定は、動物・植物と共に大正8年「史跡名勝天然記念物保護法」により法整備されている。「史跡名勝天然記念物目録」(文化庁)の名勝指定基準11項目の中で、地質鉱物に関連するものは、次の6項目である。
地質鉱物の指定件数は、平成7年2月1日現在207件となっており現在もその数はあまり変わっていない。
天然記念物にはシルル紀から洪積世に至る化石類が最も多く、次いで石灰紀から洪積世までの鍾乳洞を含む石灰岩となっている。
因みに岩手県では、次のような国指定天然記念物が存在する。
即ち15件の国指定天然記念物があり、このうち、2件が特別天然記念物に指定され、その中の1件が夏油温泉の大石灰華である。
東北各県に比較し指定件数は、突出している。
夏油温泉は、和賀川支流夏油川の上流域に開けた秘湯である。狭い谷間に沿って数軒の温泉宿があり、更に夏油川沿いに300m程上った上流右岸河床に、目指す大石灰華が鎮座する。「天狗の湯石灰華大ドーム」と呼ばれており、このドームの下流から夏油川に沿って湯ノ沢との合流点までと、同合流点から湯ノ沢の左岸沿いに蛇の湯の滝に至る河岸沿いの幅30mの区域が、特別天然記念物に指定されているものである。
付近には随所に温泉が湧き出し源泉数は55箇所と言われており、河床の至る所で湯煙が観察される。温泉から沈殿した大小のドーム状鍾乳石状石灰華が見られ、なかでも天狗の湯石灰華大ドームは我が国における噴泉ドーム中最大とされている。
正面から見ると截頭円錐形をなし、高さ17.6m、下底部の直径25m、その頂部は平坦で直径が7.0mもある。
炭酸石灰は純度の高い水には溶けないが、炭酸を溶解した水溶液には多量に溶解する。
炭酸飽和溶液では、常温1の水に1.2gを溶解する。石灰を溶かしている炭酸泉が地表に湧出すると圧力が減少するため溶解した炭酸が分離し、また温度が低下するため石灰の溶解度が下がり、溶かしていた炭酸石灰を湧き口の周囲に沈殿する。
この沈殿したものが石灰華であり粗しょうの塊、または、層をなし、しばしば木の葉や陸生動物の印痕があると言われている。
従って石灰華は化学的堆積岩と言うことになり、CaCO3そのものである。
この付近は、ほぼV字谷を形成し山地は急峻で、谷は未だ下刻の途上にある。地質は後期中新世大荒沢層の火山砕屑岩類である。
所謂グリータフ地帯であり緑色の凝灰角礫岩火山礫凝灰岩、凝灰岩等が壁崖を形成して分布する様は、紅葉の時季など一層見事である。
これ等のグリーンタフは、変質を受けて灰白色、白色等の硅化帯となり多量のパイライトにより鉱染されている。
流紋岩は、地域の中央部よりやや東寄りに大規模貫入岩帯として分布する他、数箇所で岩脈をなす。稀に流理状構造を示す。
地域中央部には、NE系の大規模な断層が5本見られこれ等は全て東傾斜である。
当地域の源泉は大部分大荒沢層から湧出するが一部流紋岩から湧出するものもあり、熱源岩は流紋岩と推定されている。
夏油温泉の泉質は、主として石膏食塩泉系統のものが多く効能もまた、素晴らしいものがある。
標高700mに位置する秘境夏油温泉の発見は、1300年頃と云われている。ある時平家の落人の末裔が、ボスの白猿と深山幽谷で対峙し、その猿に深手を負わせたが、翌年その白猿がこの温泉で湯治し、治癒していたのが発見の由来とされている。
白骨温泉やその他多くの山深い温泉でも、白猿と温泉の発見について物語風に語り継がれていることは、よく見聞きするところである。
でも、平家の落ち武者の末裔が登場するとは、如何にも不思議なことではあるが、これも当地に来てみれば理解出来ないことでもない。
この地に身を潜めたなら、どのように探索しても、絶対に見つかることはない、と思われるからである。
写真は、夏油川の左岸側から今秋撮影したもので、時季が悪く映りが良くないのが残念である。
夏油温泉の大石灰華