東北地質調査業協会技術委員会 |
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わが国は国土の約70%を山地が占め、道路建設事業や土地造成事業をはじめとする様々な事業に伴って、山地・丘陵などの斜面を切り取り、人工ののり面を構築する場合が多い。また、急傾斜対策事業などでは、のり面の下部に構造物を設けたりする場合もある。
ここでは、(社)全国地質調査業協会連合会「地質調査要領」(2003年、(財)経済調査会)から建設工事(主に道路)に伴う地質調査の流れと調査項目、調査におけるポイントを要約して紹介するものとする。
道路建設における設計段階に応じた調査の目的と手順を次に示す。
崩壊地や地すべりなどを生じる恐れのある地域の分布を既存資料や現地踏査で抽出 し、大略の安定度を判定する。
路線上及びその周辺ののり面・斜面に対し、現地踏査、ボーリングや弾性波探査な どにより地質や土質の詳細な調査を行い、計測調査結果も含めて崩壊等の発生機構や 安定度を評価し、適切な対策工の設計を行う。
想定した地盤・設計及び施工条件と異なり、崩壊発生の予兆や異常が見られた場合 に、その原因を明らかにし、ただちに設計・施工法を変更するなどにより災害を未然 に防止することにある。施工時の計測調査は変状の早期発見と安全管理を目的とする。
目視による調査でのり面・斜面の変状の有無を発見し、発見された場合には現地踏 査を実施し、想定される被害などを推定するとともに災害防止対策を提案する。
早急な現地踏査、ボーリングなどによる詳細調査と計測調査を行い、発生機構の検討と復旧対策の設計を行う。
早急な現地踏査、ボーリングなどによる詳細調査と計測調査を行い、発生機構の検討と復旧対策の設計を行う。
短期的安定よりも、応力解放による緩みや降水による吸水膨張、凍害などの影響を 受け、地山の強度が低下する長期的安定が問題となる。特に検討が必要となるのは、次のような場合である。
のり面安定上の問題点と留意点をまとめたものの一例として、表1.1に示すものがある。2.地山のリッパビリティー17−「地質調査要領」を紐解く−第2編切土構造物の地質調査東北地質調査業協会技術委員会(株)新東京ジオ・システム 調査部 瀬野 孝浩
一般に中・大型のブルドーザに装着したリッパによる作業ができる程度を示したも ので、地山の弾性波速度によって掘削限界の目安が示されている。発破掘削ができな いケースでは、その評価が重要になる。
表1-1のり面安定上の問題点・留意点
(設計要領第一集第3章、p3-10〜11、日本道路公団)
一般に盛土材は切土の発生土が用いられる。材料として問題になる土質・岩石材料 は表1.2に示すものが挙げられる。
表1-2盛土材料として問題となる土質・岩石材料(地質調査要領、p45)
一般的には良質な支持層は次の事項を目安に判断しても良い。
対象地区周辺の状況に応じて、土工量やのり面面積を減じることやのり面の形状、工法を工夫し、緑化の質と量の向上を図ることなどを検討する。ただし、のり面・斜面の安定を確保することが第一目的であり、その上で環境や景観への影響を抑えるための対策を講じることになる。
切土部における土質・地質調査の項目は主に次のようなものがあり、それぞれについて的確に把握できる方法をイメージして計画する必要がある。
表2-1調査目的・方法と調査項目の関係(地質調査要領、p48)
図2-1調査項目の具体的イメージ(地質調査要領、p47)
地形は地盤の硬さや風化作用、あるいは構成する岩石の硬軟を反映したものであるほか、崩壊や運搬堆積した場合にも特徴的な地形を形成する。
地形判読では、図や写真に現れた模様、記号、色調、濃淡などをもとに、地表面や地下の状況を推定するものであり、その結果を、地形地質踏査や調査ボーリングなどほかの調査に反映させるとともに、必ず判読結果を現地で確認することが重要である。
地質構成を面的に推定する有効かつ経済的な手法であるが、地表面の観察から地下内部を推定するには自ずと限界がある。特に被覆層があるところでは、必要に応じてトレンチを行うなどして、情報を補足することも必要である。
また、ほかの調査に先立って行い、調査ボーリングなどの位置選定に利用すると効果的である。
P波速度(Vp)から速度区分図を作成し、風化帯の厚さや断層破砕帯の有無、岩盤強度や亀裂の発達度などを推定でき、掘削工法の選定にも利用される。本探査は長大のり面やのり面上方の斜面が長く、かつ崖錐堆積物の分布が予想される地山の概要を把握し、調査ボーリングの最適な位置を検討する場合に有効である。
図2-2弾性波探査の適用例(地質調査要領、p49)
直接地山の状態を観察でき、地層の分布や層厚、断層破砕帯の規模、風化・変質の程度、亀裂の状態、地下水状況など多くの情報を得ることができる。
ボーリングは点的調査であるが、ほかの調査手法と組み合わせることで、のり面全体の地山状況や問題地点(断層確認など)の状況を把握することが可能であり、調査の目的を踏まえた適切な配置計画を行い、効率よく実施することが必要である。
速度検層(P波検層)に代表される、ボーリング孔を利用して行う孔内検層はその目的により表2.2に示す方法がある。
表2-2切土調査に用いられる物理検層(地質調査要領、p50)
岩盤の物理的性質や強度、さらに経時的な風化・劣化特性の把握を目的に、一般にはボーリングコアを用いて行う。
風化土を含む土砂を対象に、主に材料土としての締固め特性などを把握するが、切土のり面内の軟らかい粘土層により安定上問題となる場合は、乱れの少ない試料を採取し一軸または三軸圧縮試験を行うこともある。
地下水関連の調査は表2.3に示すようなものがある。地下水の帯水機構は地質構成と密接な関係があり、地質構成や構造の違いによって、多様な地下水形態を取ることがあり、調査計画の際には留意が必要な場合がある。
表2-3地下水調査(地質調査要領、p51)
のり面勾配の考え方は各機関で多少異なっているが、これは万一崩壊した場合に受ける被害の重さがそれぞれ異なるためであり、当然と言える。図3.1に各機関での岩質、土質別ののり面勾配の基準を比較し示すが、一般に道路関係に比べて鉄道の方が緩傾斜となっている。また、掘削中の安全対策という意味では、労働安全衛生規則があり、施工中の仮設のり面であっても最低限この勾配は厳守しなければならない。
のり面保護工は完成後ののり面が風化・侵食・凍上作用によって崩壊することを抑制するもので、植物やネット、コンクリートなどで被覆するものである。広い意味では、アンカー工や擁壁などの抑止工やのり面排水工も含まれる。
図3.2はのり面保護工の選定の目安を示したものであるが、地質調査では、土や岩の硬軟、湧水状況、耐侵食性、亀裂の状態、落石などに対して把握しておく必要がある。
図3.1各機関でののり面勾配の比較(地質調査要領、p52)
図3.2切土のり面における面保護工選定フロー(地質調査要領、p54)