協会誌「大地」No47

69.古いデータを再利用した三次元地質データベース構築例

地質基礎工業(株)新田 邦弘・鈴木 聡

1.はじめに

昭和初期から40年代頃に、主に資源探査を目的として実施されたボーリングや立坑開削時の地質記録などのデータが存在していた。それらは紙や第二原図の形で残されていたものの、時間の経過とともに劣化し、欠損が進んだり消失したりしていた。またデータが残っていても、どこで調査されたボーリングデータなのかが特定できなくなっているものもあった。これらの調査データは、いくら古いものであっても地質情報としての価値は変らないといって良く、むしろ現在では得ることのできない貴重な情報のほうが多い。従ってこれらのデータが活用されず失われていくことは、大きな損失と考えられた。

今回これらの古いデータを整理する機会が得られたため、データの保存と、それを活かした地下地質の三次元モデルへの加工を行い、今後の活用に向けた地質情報データベースの構築を試みた事例を報告する。

2.データの整理

(1).元のデータ

取り扱ったデータの種類は、福島県いわき市において石炭層を探査したボーリングの柱状図、立坑を掘削したときの地質記録などである。深度は地表から500m〜1000m程度あり、多数の調査が実施されていた。もとのデータの形はほとんど紙のデータであり、全て手書きで墨書きされたものであった。柱状図記号等も非常に丁寧に作成されており、先人のすばらしい技量を実感できるものであった。

当面の保存の手段としては、そのままスキャニングして画像データとして保存したり、柱状図データとして再入力してデジタル化するという方法もあるが、今回はさらに広域地質情報としての活用を視野に入れ、データベースとしての加工を行った。

(2).岩相区分から地層単元区分への整理

地質データベースとする際に、元の柱状図等は岩質・岩相区分が基本単位であるため、広域の地質データを取り扱うには細かすぎる。このため、地層層序単位での区分で再整理を行った。地層単元での整理では、既往地質図の層序区分や柱状図間の層序対比、地表地質図との関係をチェックした。常磐炭田の標準的な層序は表-1のようになっている。整理の後、第一段階として二次元での地質断面図を作成した(図-1)。

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表-1常磐炭田地質層序表

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図-1二次元地質断面作成例(パネル図の一部)

3.三次元地質モデルの構築

地質情報を三次元的な空間データとして取り扱うため、最適化原理による補完法を利用したソフト(georama)を用いて、区域を区分して三次元地質モデルを作成した。

今回は対象とする地層の厚さや基礎データの密度を考慮して2.5km四方のエリアに区分し、その中に存在するボーリング、立坑データ、および事前に作成した前述のような二次元断面図から、空間地質モデルを作成した。

地形は国土地理院による50mメッシュのDEMデータを利用した。

いわき地区の地質は、堆積岩類が比較的単調に重なっているため、地層間の境界面を上下関係と構成地層、断層がある場合には、断層により分断された空間ごとに地層の重なり方を定義することで、比較的容易に補完して三次元地質モデルが作成できた。

これにより任意地点での地層分布が推定され、任意のルートに沿った断面図も描ける。図-2はその一例の三次元地質図である。

4.GISの構築

(1)地図とのリンク

前記の三次元地質データと地図情報とを結び付け、必要な地質情報を「位置」から呼び出せるようGISシステムを試作した。今回は前述のように2.5km四方のエリアに区分した地質モデルとしたため、地図上で対応する矩形のエリアをクリックすると、三次元ブロック図等が表示される形とした(図-3)。その基本的な方法は、フリーソフトによるGISシステムであり文献3)等を参考に試行的に構築したものである。

(2)いわき地区のデータ構築

上記の三次元地質モデルを、隣接区域にも順次拡大して連続して作成し、それらを地図データとリンクさせてGISに取り込む作業を現在実施中である。まだ試作段階ではあるが、これによりいわき地区内のある程度のエリアをカバーした地下地質情報データベースが構築できると考えている。

今後、基礎データの集積ができた範囲をできるだけ網羅できるよう、データを充実させていく予定である。

5.課題と今後の活用方法

今回の試みの基となったデータは、もともと企業活動の中で得られたものであり、現在でも所有権があると考えられることから、そのまま一般に公表することは問題があり、当面は社内利用に限ることになると考えられる。

また三次元の空間地質はあくまで推論 の結果であり、その精度には限界がある と考えられる。

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図-2三次元地質図の作成例

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図-3地形図からの情報呼び出しイメージ

《引用・参考文献》

  1. 地質調査所: 常磐炭田地質図説明書、1957
  2. 福島県: 土地分類基本調査,平,1994、小名浜,1995
  3. 全地連・GUPI編: 実務に役立つWeb-GIS、2005

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