川崎地質(株)榊原 信夫
日本海側の海岸斜面および太平洋側のリアス式海岸においては、海岸の急崖部の下部や中腹部に道路やトンネル坑口が位置する場合が多い。
このような海岸に近接した急崖部岩盤斜面では、過去に大規模崩壊が発生しており、道路維持管理上問題の多い箇所となっている。
このような海岸に近接した急崖部岩盤斜面では、過去に大規模崩壊が発生しており、道路維持管理上問題の多い箇所となっている。
一般的に、岩盤斜面の安定性評価においては、亀裂面の地質工学的性状の把握が重要である。特に、
が重要である。
これまで、当該調査地では既往の急崖部のクライミング調査(他社で実施)により、地表部の不安定ブロックが把握されると共に、斜面最下部の汀線付近に海蝕洞が2箇所分布していることが明らかとなっていた。
海蝕洞分布域に連続性のよい高角度亀裂流れ盤亀裂が分布している場合には、大規模な岩盤の崩落に伴って道路の変状や崩落が懸念された。
調査では、海蝕洞の分布位置および形状を把握するため、潜水士による簡易測量、および洋上からの地質観察を実施した後、機械ボーリングの調査箇所を選定し、ボーリング調査を実施した。ボーリング調査箇所は、2箇所の海蝕洞の間で斜面中腹部の県道脇(海側)とした(図1)。機械ボーリングとともに、上述した亀裂性状把握のため、以下の孔内調査を実施した。
図1調査対象斜面の全景写真
図2地質平面図
調査対象斜面には、北部北上帯のやや混在岩化し、劈開面の発達した粘板岩(チャート層狭在)が全体として分布している他に、ひん岩の小規模併入岩が急崖斜面中腹部の県道付近に分布する(図2)。粘板岩の劈開面は斜面に対して約30度の受け盤であり、チャートを層状〜ブロック状に含む。ひん岩は、劈開面に沿って併入している(図3)。
ボアホールスキャナ解析の結果、亀裂面の方向は粘板岩では劈開面と同様に傾斜20〜40度の受け盤である。メランジェ性の小断層(一部粘土含む)も同様に傾斜30〜50度の受け盤をなす。
一方、ひん岩では、数条の流れ盤の開口酸化亀裂が認められた。また、ひん岩/粘板岩境界部の観察結果から、ひん岩中の亀裂は、粘板岩中には連続しないことが確認された。
特に、ひん岩中の開口流れ盤亀裂の連続性については、エアトレーサ試験器((独)土木研究所開発、当社作成器)により、試験的に評価を試みた。
エアトレーサ試験は、ボーリング孔内に煙を圧送し、その煙が開口亀裂から地表に噴出しているか否かを確認し、開口亀裂の連続性を評価する原位置試験である。試験器は土木研究所作成の試験器を参考に、混合器に多少のアレンジを加え作成した。
また試験区間は、一般的にはボーリング掘削の全区間で実施することが多いが、今回の調査では、3〜5mに試験区間を区切って実施した。また、9.5m以深では、地下水位が認められ、通気出来ないためエアトレーサ試験を行うことが出来なかった。試験の結果、コアおよびボアホールスキャナで確認されたひん岩中の流れ盤亀裂では、地表に漏煙はないため、その連続性は低いことが判明した。
図3粘板岩とひん岩の露頭写真粘板岩にひん岩が貫入する。
ボアホールスキャナおよびエアトレーサ試験で確認された斜面安定性に関係する亀裂の解析結果を以下に示す。
斜面安定性について調査を総合的に評価した結果を以下に示す。
図4エアトレーサ試験の概念図阿南ほか、土木技術資料平成15年9月号より
本調査では、精査段階の急崖部の斜面安定性評価として、ボーリング調査と併用したボアホールスキャナ孔壁観察およびエアトレーサ試験による亀裂状況の把握を行った。これらの調査方法を組み合わせた方法は、急崖部の亀裂性崩壊を評価する上で有効な方法であると考えられる。また地質の違いと亀裂性状の違いを考慮することで、より精度のよい解析を行うことが出来る。
また、地下水位以深では、エアトレーサ試験は実施できないが、急崖部での地下水位以深の岩盤は比較的水密性が高く、開口亀裂が連続している可能性は低いと解釈でき、調査上の限界を補う解釈が出来る。
ただし、初期の慨査段階における不安定化ブロックの抽出(絞り込み)の精度が、調査全体としては最も重要であり、踏査で観察しにくい急崖部の地質・亀裂状況を慨査段階で、いかに精度よく把握するかが、今後の課題であると考えられる。
図5調査箇所の模式断面図
図6ボアホールスキャナ解析結果