東北地質調査業協会 技術委員会
地質調査が施工に及ぼす影響は極めて大きく、対象構造物の品質や経済性は調査の成果に左右される。調査成果をよくする為には量的にも十分な調査を行う必要があるが、調査業務には予算的な制約があり、思う存分に実施できるとは限らない。そこで調査業務には少ない予算で効率よく行うことが求められ、その為には適切な調査計画を立案することが前提となる。現実的に地質調査結果の良否は発注時点での地質調査計画の良否に依存するところが大きく、適切な調査計画のもとに発注されるのが肝要である。その為には計画策定の参考となる指南書的なものが必要となるが、社団法人全国地質調査業協会連合会ではその一環として「地質調査要領」を作成している。
ここではその内容の一部につき要約し、紹介するものである
なお、同要領は建築物、切土、盛土、上下水道、橋梁・高架構造物など対象構造物別にまとめられており、今回は第1 編として建築物を取り上げるものである。
地質調査の計画に察してはその流れを把握しておくことが前提であり、地質調査計画の手順については以下のように示されている。
一般的な建築物を建設する場合に必要な検討項目と地盤情報については以下のように 示されている。
検討項目検討項目 | 必要な地盤情報 |
---|---|
支持層の選定 |
|
支持力 |
|
即時沈下量 |
|
圧密沈下量 |
|
杭の水平抵抗 |
|
低地や埋立地を対象地盤とする場合には上記1)の項目に加えて、以下に示す「液状化」 や「負の摩擦力」についても検討する。
討項目検討項目 | 必要な地盤情報 | |
---|---|---|
液状化 | 簡易判定 |
|
詳細判定 |
|
|
負の摩擦力 |
|
傾斜地を対象地盤とする場合には上記1)の項目に加えて、以下に示す「斜面の安定」や「建物の滑動」などについても検討する。
検討項目 | 必要な地盤情報 |
---|---|
斜面の安定 |
|
建物の滑動 |
|
杭・アンカー の引き抜き抵抗 |
|
高層・免震建物を建設する場合には上記1)の項目に加えて、以下に示す「地震時応答」などについても検討する。
検討項目 | 必要な地盤情報 |
---|---|
地震時応答 |
|
地震力の決定 |
|
掘削などの地下工事を伴う場合には上記1)の項目に加えて、以下に示す「山留め工法」や「根切り底面の安定性」などについても検討する。
検討項目 | 必要な地盤情報 | |
---|---|---|
山留め工法 | 山留め工法 の選定 |
|
土圧・側圧 |
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アンカーの 引抜き抵抗 |
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|
根切り底面の安定性 | ボイリング |
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ヒービング |
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被圧水によ る 盤ぶくれ |
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|
地下水処理 | 必要排水量 の計算 |
|
調査計画の立案に際して、以下に示す地盤については設計・施工上問題となることが多く、特に注意する必要がある。
地盤の種類 | 問 題 点 |
---|---|
腐植土地盤 |
|
広域地盤沈下地帯 |
|
汚染地盤 |
|
造成地盤 |
|
解体跡地 |
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礫質地盤 |
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埋没谷が存在する地盤 |
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活断層に近接する地盤 |
|
調査計画の立案に際して、以下に示す環境については設計・施工上問題となることが多く、特に注意する必要がある。
環境条件 | 問 題 点 |
---|---|
井戸や遊水池が近接する場合 |
|
地盤が汚染されている場合 |
|
構造物が近接する場合 |
|
各種検討に必要な地盤情報を得る為の調査・試験項目は以下のように示されている。
調査・試験の種類 | 得られる地盤情報 | 備 考 | |
---|---|---|---|
現 地 調 査 |
ボーリング
|
土層構成、孔内水位
|
|
標準貫入試験
|
N値
|
||
孔内水平載荷試験
|
変形係数E
|
||
単孔式現場透水試験
|
自由水位、被圧水頭、
透水係数k |
透水係数は算定式により算定
|
|
サンプリング
|
乱さない試料採取による
各種力学定数(間接的) |
固定ピストン式シンウォールサンプラー、
ロータリー式三重管サンプラーなど |
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揚水試験
|
貯留係数S、透水量係数T
|
いずれも算定式により算定
|
|
PS検層
|
弾性波速度(Vs,Vp)
|
動的変形係数、ポアソン比、
せん断剛性率等に換算可能 |
|
常時微動測定
|
地盤の卓越周期
|
地盤種別の判定に利用
|
|
オートマチックラム
サウンディング |
Nd値
|
N値相当
|
|
スウェーデン式
サウンディング |
Wsw、Nsw
|
N値や一軸圧縮強さに換算可能
|
|
オランダ式二重管
コーン貫入試験 |
qc
|
N値や一軸圧縮強さに換算可能
|
|
平板載荷試験
|
極限支持力度qu、
変形係数E |
||
室 内 土 質 試 験 |
粒度試験
|
粒度分布
|
相関式により透水係数の算定も可能
|
含水比試験
|
含水比Wn
|
間隙比、飽和度の計算にも利用
|
|
土粒子の密度試験
|
土粒子密度ρt
|
間隙比、飽和度の計算にも利用間隙比、
飽和度、 粒度試験における粘土分含有率 等の計算に利用 |
|
液性限界・塑性限界試験
|
液性限界Wl 、塑性限界Wp
|
塑性指数による液状化の有無の判断が可
|
|
湿潤密度試験
|
単位体積重量γt
|
支持力、沈下、安定、液状化等
の各種計算に不可欠 |
|
一軸圧縮試験
|
一軸圧縮強さqu
|
一般にC=qu/2 として利用
|
|
三軸圧縮試験(UU)
|
粘着力Cu 、内部摩擦角φu
|
非圧密非排水条件、粘性土に適用
|
|
三軸圧縮試験(CU)
|
粘着力Ccu 、内部摩擦角φcu
|
圧密非排水条件、粘性土に適用
|
|
三軸圧縮試験(CU)
|
粘着力C'、内部摩擦角φ'
|
圧密排非水条件、粘性土に適用、間隙水圧
を測定、 有効応力に関する強度定数 |
|
三軸圧縮試験(CD)
|
粘着力Cd 、内部摩擦角φd
|
圧密排水条件、砂質土に適用
|
|
圧密試験
|
圧密降伏応力Pc 、
圧縮指数Cc 、 圧密係数Cv 等 |
圧密沈下計算に利用
|
|
変形特性を求めるための
繰返し三軸試験 |
せん断剛性率G 、減衰定数h
|
中空円筒供試体を適用した繰返し
ねじり試験による |
|
繰返し非排水三軸試験
|
液状化強度
|
調査・試験の数量や深さの目安は以下のように示されている。
目調査・試験の種類 | 得られる地盤情報 | 備 考 | |
---|---|---|---|
原 位 置 試 験 |
ボーリング
|
地層が傾斜と想定:2 箇所以上
その他:1 箇所以上 |
事前調査で想定した支持層を確認
できる深さまで |
標準貫入試験
|
深さ1m ごとを標準とするが地
層が変化する場合は50cm ごと |
同上
|
|
サウンディング
|
ボーリングの補間程度
|
調査可能深さ(N ≒20 程度)
|
|
ボーリング孔内
水平載荷試験 |
代表的ボーリング孔の各土層に
つき1 箇所以上 |
杭の水平抵抗の検討:杭頭から深さ約5m
又は杭径の5 倍程度、 沈下の検討:床付け面又は支持層直下から 基盤層上面 |
|
平板載荷試験
|
1 〜2 箇所以上、深い床付け面
では基礎根切り施工時に支持力 ・変形係数の確認を目的とする |
予定床付け面深さ
|
|
杭の載荷試験
|
必要に応じて
|
||
PS 検層
|
同上
|
必要とする地層深さ
|
|
地下水位測定
|
代表的ボーリング孔で設計・
施工に影響する砂質土層ごと |
地表面から予定支持層
|
|
地下水調査
|
地下掘削に影響する砂質土層ごと
|
地下掘削に影響する砂質土層まで
|
|
透水試験
|
同上
|
同上
|
|
サンプリング
|
土質試験に必要な数
|
地表面から予定支持層又は支持層直下
の粘性土層まで |
|
常時微動測定
|
必要に応じて
|
地表面と地中
|
|
土 質 試 験 |
物理試験(砂質土)
|
代表的ボーリング孔の各砂質
土層で深さ1mごと |
地表面から予定支持層又は支持層直下の
粘性土層まで |
物理試験(粘性土)
|
代表的ボーリング孔の各粘性
土層につき1試料 |
同上
|
|
粒度試験
|
少なくとも1箇所のボーリング
孔の標準貫入試験採取全試料 |
ボーリング深さに準じる
|
|
力学試験(粘性土)
|
代表的ボーリング孔の粘性土層
の層厚2〜5mにつき1試料 |
地層構成・基礎工法を考慮して決定
|
(※各表については一部加筆修正)
以 上