(株)建設技術研究所 井口 昭則・和田 卓也
青森県環境生活部 鎌田 啓一・大日向 勝美
近年、各地で産業廃棄物の不法投棄や不適正な廃棄物処分場などに廃棄物由来の土壌・地下水汚染が顕在化しており、全国で平成7年から急増している1)。青森県田子町および岩手県二戸市にまたがる青森・岩手県境部(図-1)には、27haもの広大な範囲にバーク堆肥、燃え殻、汚泥、RDF(固形燃料)様物などからなる大量の産業廃棄物が87万m3も不法投棄(以下、「本件」という。)されていることが調査により判明した。
図-1県境不法投棄現場の位置
一方、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下、「廃棄物処理法」という。)は平成12年まで数次の改正が行われ、特に平成9年の改正によって、平成10年6月17日以降の不適正処分については「適正処理推進センター」の制度により対策が講じられるようになった。しかし、これより前に行われた不適正処分については当該制度の対象とはならないにもかかわらず、特定産業廃棄物に起因する生活環境保全上の支障が生じ、又は生ずるおそれが大きい事案が存在していた3)。本件を契機として、不法投棄等の特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する早期対応の必要性から、平成15年法律第98号「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」(以下、「産廃特措法」という。)が施行され、現在(平成18年12月末)では本件を含め8件に適用されている。
本件に見られるように大規模な不法投棄現場の廃棄物の分布状況や汚染状況を把握するためには、多大な時間と費用がかかってしまう。本件の不法投棄現場では効率的、効果的、かつ経済的に結果が得られる調査位置の選定および調査方法を採用したことにより、これらのことを概略的に把握することができ、産廃特措法の適用を受ける一助とすることができた。
本論では、産廃特措法の適用までに実施した調査やその方法、検討会開催状況などの事例の紹介を行う。
産廃特措法は、以下のような特定産業廃棄物に起因する支障の除去等の推進に関する基本的な方向3)をもって施行されたものである。
1. 平成9年廃棄物処理法改正法の施行前に限定し、特定産業廃棄物に起因して生活環境保全上の支障が生じ、又は生じるおそれが大きい事案について、期間内に計画的かつ着実に問題の解決に取り組むこと。
2. 都道府県等は、特定産業廃棄物の実態を把握するための調査に努め、支障の除去等が必要な事案は廃棄物処理法に基づく措置命令を発出し、これでもなお支障の除去等が完了しない場合には、産廃特措法に基づく実施計画を策定 し、特定支障除去等事業を実施すること。
3. 不適正処分の行為者等に対して、廃棄物処理法に基づく措置命令を発出して支障の除去等の措置を行わせること。
このような基本的な方向から、産廃特措法の適用を受けるためには、下記の事項の調査および検討、同意などが必要とされる。
本件は、不法投棄エリアの面積が両県合わせて約27haに及び、青森県側だけでも11haもの広範囲に約67万m3の産業廃棄物が埋め立てられており、その大半が覆土で覆われている状況であった。原状回復に向けた事業計画を行うに当り、特定産業廃棄物の分布および汚染状況を把握し、その量を明らかにする必要があったが、対象が広範囲であるため通常のボーリング調査および分析のみでは非効率であると考えた(図-2)。また、重機等によって全域を試掘調査する方法は、廃棄物の撹拌によって有害物質の移動や拡散を助長することから、未対策の段階では周辺環境汚染を誘発する恐れがあった。
図-2産廃特措法に準じた計画調査地点の例
図-3高密度電気探査を併用した計画調査地点の例
そこで、青森県側では、広範囲の廃棄物の分布状況を高密度電気探査によって概略的に把握したうえで、続いて実施したボーリング調査と合わせて解析することで、効率的に目的を達成できる方法を選択した(図-3)。また、特定産業廃棄物は台地状の地形の上部の谷に埋め立てられており、不法投棄現場の西側の急崖からは、浸出水の流出が認められていた。このため、廃棄物の撤去等の対策を行う前に、汚染拡散防止対策を行う必要があり、台地状地形の端部に鉛直遮水壁とその下流に工事中の汚染水の拡散防止対策として浸出水処理施設の設置を行う計画とした。この施設への浸出水等の導水は現地形の斜面を有効に利用する自然流下方式とした。また、浸出水量を抑制するために、表面遮水工も計画した。
図-4本件の産廃特措法適用までの流れ
本件では、このように少ないボーリング調査や分析で特定産業廃棄物の実態を把握し、支障除去を確実に実施するための汚染拡散防止対策等を計画するなど、支障除去事業の実施計画書を作成した。また、これまで岩手県との合同検討会や技術部会ならびに住民説明会などを実施し実施計画書に対する同意が得られ、平成16年1月21日に環境大臣の同意を得た(図-4)。現在は、支障除去事業を進め浸出水処理施設や鉛直遮水壁の建設、一部の特定産業廃棄物の撤去等を実施しているところである。
本件では産廃特措法に示された30mメッシュ法による深部までの調査を行っていないが、高密度電気探査などの非破壊調査を併用した方法の採用により、短時間で経済的に特定産業廃棄物の実態が把握できた。このように、地質技術者には現場に適した調査方法や解析方法等の選択・提案型の調査が望まれる。
《引用・参考文献》
1)環境省:平成16年12月28日報道発表資料、2004.12.
2)青森県:青森・岩手県境不法投棄事案 に係る特定支障除去事業実施計画書、pp.1〜33、2003.12.
3)環境省:産廃特措法方針、平成15年10月 環境省告示第104号、pp.1〜11、2003.10.