平成18年度の若手技術者セミナーは、平成18年12月7日から12月8日の一泊二日の行程で福島県相馬地区を対象として、総勢19名の参加を戴き開催しました。この若手技術者セミナーは地質調査業に携わっている方々の率直な意見・要望・疑問点を聞く機会をもって、若手技術者相互の向上と今後の協会活動の参考にすることを目的として、平成2年以来今回で29回目を迎えました。
昨年は、仙台市秋保温泉を会場とし、当協会の技術委員より普段の業務に関する身近な問題を話題提供という形で発表して戴き、参加者で検討会題材にするという形式で行いました。今年度のテーマは「原点に戻る」を掲げて現場見学会の巡検タイプを採用し、また各セクションについては次項目を主題として計画実施しました。
1日目の現地研修
2日目の検討会
今回は久しぶりに南東北地区の福島県を会場とし、常磐自動車道路建設工事が進む相馬地方を対象としました。
セミナーの主なプログラムは次の通りです。
一日目(12月7日:午後)
1)現地研修@ネクスコ東日本 相馬工事区 A真野ダム (施設研修)2)意見交流会
二日目(12月8日:午前)
@グループディスカッションAグループ発表と全体討議 B技術委員長挨拶
ホテルのマイクロバスで各現場・施設を巡り、ネクスコ東日本の現場では佐藤副所長,また真野ダム管理事務所の藤田所長より概要説明を受けた後、協会技術委員より各主題について説明し研修を行いました。
各地点での研修内容を以下に要約します。
高さ25mの切土長大法面が見られ、露頭岩は中生代白亜紀の貫入岩類「ヒン岩」を認める。対象とした「ヒン岩」は相馬断層による破砕を受けており、亀裂が発達し一部土砂化する箇所もあり、一般的な中生層としてはやや特異な岩質を呈する。施工中にこれら岩質を素因とする法面中腹での小崩壊が発生し、現在は「現場打吹付法枠工」が施工されつつあり、また、当該地全体の地形は緩やかな丘陵地形を呈し、地形図より背後には地すべり地形も想定された。このような、全体的な現地を把握した上で、災害地としての見方の研修・速報時の災害スケッチの描き方などを全員で考えた。
この地域には、中生代ジュラ紀相馬中村層群小山田層「頁岩」「細粒砂岩」が分布し、切土法面には単斜構造の綺麗な層理面が見られた。初めに相馬工事事務所の副所長より建設概要説明、担当委員より地質の説明を行った。その後、参加者は岩石ハンマーで岩質を確認、クリノメータで地層の走向傾斜を各人測定し、横断方向の地質図作成までの研修とした。全体の地質構成の把握は比較的容易でるが、その走向傾斜と断面方向の関係に苦慮し、参加者間であれやこれやと相談しながら描いた。初めて岩石ハンマーやクリノメータを持つ人もおり、若手技術者には良い課題とフィールドであったと思う。
真野ダムは、真野川中流域に真野川総合開発事業の一環として、洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全、工業用水・上水道用水の確保及び発電を目的として平成4年3月に完成した中規模の重力式コンクリートダム。初めにダム管理事務所内で所長よりダムの施設の説明や建設場所の地質状況・断層などの話があり、その後ダム堤体内の監査路・放流施設・発電施設まで案内を戴き見学を行った。参加者の多くは、ダムの監査路や施設内に入った事が無く監査路の長さや各施設の大きさに驚き、また説明や見学を通して施設全体の大まかな仕組みが分かり良い研修であったと思う。
『現地研修会』で様々な知識を身につけた若手技術者は、宿泊地に戻り温泉で疲れを癒し、食事を兼ねた『意見交流会』に参加しました。
『意見交流会』の様子としては、“部会長の挨拶”“五十嵐技術委員長の挨拶”の頃に堅さがみられていましたが、時間とともに徐々に打ち解けあい、あちらこちらで議論の輪が出来上がっていました。“自己紹介”では、若手技術者ならではの積極的な意見が飛び出し、この業界の先行きに希望が持てる状況でした。毎年恒例の“グループディスカッションの班分け”では、立候補された座長2名(奥山さん、木村さん)の挨拶を受けて各人の意向を尊重して実施しましたが、見事に二分された班構成となりました。
会場の都合により一旦中締めとなりましたが、議論が尽きない参加者は別室での『二次会』へと参加した模様でした。そこでも本日が初対面とは思えないほどの盛り上がりがみられ、明日に支障の無い程度の時間まで続いたとのことでした。議論の内容は、地元の地質基礎工業さんから差し入れられた日本酒の好み(飲み比べ)に関すること以外にも技術的な話があったことと確信しております。
第1班は、奥山座長のもと、一般調査(土質)を主題にサウンディング、掘削時の自然水位の考え方、土壌地下水汚染調査、腐植土におけるC、φ等の土質定数の設定方法等の幅広い討論、意見交換を行いました。
参加された技術者は、経験年数が2年から10年以上と幅広いので、経験が浅い人は中堅技術者の高い技術を多少なりとも習得することが出来、中堅技術者は、改めて基本を振り替えることが出来たのではないかと思いました。
各討論の内容は、若手の技術者が実務で抱える疑問や悩みとなることが多く上げられ、それに対して活発な議論がなされましたが、特にN値万能のなかで、腐植土の設計土質定数の決定に対しては、室内土質試験を行う結果となり、地質調査の大切さをみんなで実感した次第であります。
今回のセミナーでの研修及び討論が、若手技術者の技術向上の糧となり、今後の業務にも生かされていくことを願っております。
2)第2班(斜面防災部門) (報告 内藤祥志委員)
第2班は、木村座長のもと「斜面防災部門」として意見交換・討議を行いました。本年度は、経験年数1〜3年といった本当の若手技術者による班構成であったことから、“現在携わっている業務の概要”“率直な疑問・質問”等を各参加者に述べてもらうところから討議がスタートしました。
“現在携わっている業務”としては、「地すべり調査・解析」「地質技術者としてのトンネル施工管理」「調査ボーリング現場管理」「岩盤調査」「地下水調査」「GIS関連」等と多岐にわたっておりました。
“疑問・質問”としては、「ボーリング管理時の留意点について」「業務の進め方、発注者との対応方法」等の日常業務に直結した内容が多かったように思えます。若手技術者から出た意見に対し、“若手技術者の立場からの見解”“経験を積んでいるオブザーバーからのアドバイス”等の討議の発展がなされ、割当て時間(約1時間半)は瞬く間に過ぎてしまいました。
若手技術者が、“他社の異分野の若手技術者”“経験豊富なベテラン技術者”と接することは、将来に対して極めて貴重な経験となったと思われます。
9. この『若手技術者セミナー』全般に関する意見など |
---|
|
今年度の研修テーマは「原点に戻る」を掲げて、現場見学会の巡検タイプにて実施し、アンケート結果からも有意義で良い研修会であったと思います。この若手セミナーは回を重ねて参加することで、技術力が向上し人脈も構築されると思っており、会員各社の方々にはこの点をご理解の上、若手社員をこのセミナーに今後とも参加させて戴きたく、紙面を借りてお願いします。また、今後この若手セミナーに対するご意見や企画が有りましたら、協会にお寄せ下さるようお願い致します。
さいごに、今回のセミナー実施にあたり、福島県相双建設事務所 真野ダム管理事務所様、東日本高速道路株式会社東北支社 相馬工事事務所様には多大なるご協力をいただき、ここに謝意を表します。