協会誌「大地」No46

ベガルタ仙台 フィジカルコーチ 谷 真一郎氏

プロフィール

昭和43年11月13日生まれ AB型
出身:愛知県
趣味:サッカーでしょう!(お酒もかなりお好きなようです)
今回は少し趣向を変えて−
明るくて気さくな人柄の谷コーチ。
地元に根差したプロサッカーチームでのフィジカルコーチの役割、選手に対する指導・育成、新監督を迎えての今期の意気込みなど、食事を交えながら、熱く語っていただきました。

43.巷のプロに聞く(プロサッカー・フィジカルコーチの巻)

フィジカルコーチというお仕事について。

サッカーは、生まれ故郷の愛知県で、小学生の頃からやり始めました。それ以来、現在に至るまで関わりを持ち続けています。フィジカルコーチとして柏レイソルからベガルタ仙台に移籍して、今期で早6シーズン目になります。

フィジカルコーチという仕事は、現在30人ほどいるベガルタの選手の体調や仕上がり状態を管理して、各選手のコンディションや、強化目標に応じたトレーニングメニューを考え、指導していく役割です。

各選手のコンディションは、大学病院などとも連携して、測定データとして得られる様々な数値を分析し、客観的・相対的に判断する場合もあります。また、もちろんチームの方向性や戦略として、必然的に強化が必要となる内容もあります。

ただ、僕の場合は、練習や試合中の選手のプレーをじっくり見て、あるいは本人との会話を通じて選手の気持ちなんかも推察しながら、その時々の外的、内的な様々な情報・状況を自分のフィルターを通して感じる『フィーリング』を大切にして臨機応変に判断することを重視しています。トレーニングは、選手自身が納得してやることが一番大切ですから。

プロサッカー選手とチームの育成・指導について。

昔に比べると、少しおとなしい選手が増えてきたように思いますが、そうは言っても個性派ぞろい。例えば、選手を指導する際にも、

には、非常に気を配ります。体力や能力があるレベルに到達した選手に対して、その個性を重視するのか、欠点をなくし全体的なバランスのよさを重視するのかといった選択です。

チームとしてはどちらも大切なのですが、僕個人としては、やはり選手の個性を誉めて伸ばしたい。特に若い選手。なんと言ってもプロですから、試合を見てくれるお客さんがワクワクドキドキしなければいけない。誰にも負けないプレーというか、彼にしかできない、他の選手から秀でた個性を持ったプレイヤーは試合の中でも魅力的ですからね。

逆に状態の良くない選手に対して掛ける言葉には非常に気を使いますね。そういう時こそ、選手が迷わない、自信を無くさない指導をしなければいけない。

チーム全体を見た場合、今年のチームの目標というかテーマは、「色んな人の心を動かすサッカー」というものです。お客さんの心を揺さぶるようなサッカーをしようと。そのためには、まず選手自身の心が動かなければいけない。今年の監督以下コーチスタッフの仕事はそこだと思っています。チームの目標を掲げ、選手の心を動かし、選手の最大限の能力を引き出せるような身体面の充実と精神面の高揚を図って、常に魅せるゲームをやりたい。サッカーをよく知らない素人の人たちが見ても「おもしろい!」と思えるゲームを目指します。

新監督を迎えた今期のベガルタについて。

チームにとって、トップが示す方向性というものは、当然のことながらとても大きな意味を持ちます。これまでにも、ベガルタには非常に優れた実績と能力を持った監督が就任されました。ただ、指導者サイドの思い描く方向性が、必ずしも一定ではなかった場合もある。

その点で、望月新監督を迎えた今期のベガルタは、監督・コーチ陣が目指す方向性と、そこに至るための手段の選択に「ぶれ」が少ないように感じています。このことは、実際にプレーをする選手にとっても、コーチ陣にとっても非常に大切でやりやすいことです。日頃のトレーニングや試合中のプレーに、迷いやとまどいが生じないですからね。

まず選手がどうしたいのか、そのために何をどうすればいいのか、そしてチームとして機能するにはどうするか、こういった過程を積み上げて、選手やスタッフが同じ目標を自覚することが、精神面の高揚を図る上では大切だと思っています。僕自身、今期のベガルタには大いに期するものがあります。

取材後の談話から。

日本でも様々なプロスポーツが増えてきました。それぞれの競技に対してファンやサポーターも多くなっています。ただ、以外と異種競技の選手間、スタッフ間の情報交換や交流が少ない。チームで行う競技であれば共通点は多いし、もっと交流があればお互いに得るものはとても大きいと思うのですが、なかなかあるようで機会が少ないですね。是非、色んな分野の方との交流を深めて、どんどんと新しい情報を吸収したいと思っています。

あと、よく言われることですが、チームにとってサポーターの存在というのはとても大きいですね。その評価はこわくもあり、ありがたくもある。その点、仙台東北は非常に良いと思います。もとより地域に根差したチーム作りを目指していますし、チームもどんどん進化し、サポーターも育っていこうという雰囲気がある。以前、柏に在籍中、仙台に遠征に来た際に、仙台のサポーターの歓声に圧倒されて逆転負けを喫した思い出があります。

そんな中でよく思うのですが、サッカーをよく知らないお客さんの、ゲームに対する感想や評価というのは非常によく的を得ています。サッカーに詳しい人間ではないからこそ、余計な情報や先入観がないのでしょう。ゲームが面白かったかどうか、感動したかどうか、素晴らしいプレーだと思ったかどうか、スピーディーだと思ったかどうか、ずばり直感的な感想ですが、その日のゲームを専門的に振り返った時、そういったお客さんの言葉は、良いにしろ悪いにしろ非常によく思い当たるわけです。大切にしなければいけない言葉ですね。

フロント、現場、サポーター、それぞれが適度な距離感を保ちながら共通の認識や目標を持てば、チームはさらに進化していくと思っています。是非とも「人の心を動かすサッカー」に期待して下さい。

【取材後記】

取材中は終始笑顔で、色々なお話しをざっくばらんに伺うことができました。

プロスポーツと言えば技能集団。選手の個人能力とチーム全員のまとまりが命です。お話しを聞くに連れて、プロエンジニアの集まり、技術屋集団である私たちの業界とも、選手の育成・指導、トップや組織のあり方などなど、相通ずる部分が多々あるように感じました。

柔らかな口調。それでいて熱く、真摯に、プロサッカーによせる思いを、飾り気のない言葉で語っていただいた谷コーチ。本当にありがとうございました。今期のベガルタ仙台の活躍を、編集委員一同、心から期待します!

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