協会誌「大地」No46

(社)日本地すべり学会東北支部

(株)テクノ長谷 池田 浩二

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35.平成18年度地すべり現地検討会「福島県・宮古地すべり」

平成18年10月12日(木)〜13日(金)の2日間にわたり、恒例の現地検討会が開催されました(参加者41名)。本年は福島県農林水産部農業基盤整備グループの後援を得て、福島県喜多方市山都町蓬莱地区にある「宮古地すべり」が対象になりました。

初日、初秋の穏やかな昼前に日中温泉「ゆもとや」に集合した総勢41名の参加者は、貸し切りバスに揺られて目的地の宮古地すべりの現場に到着、周辺が西会津屈指の蕎麦どころでもあって、今回は老舗の蕎麦屋での参加者全員による昼食会から現地検討会が始まりました。

薫り高い田舎蕎麦に舌鼓を打った後、現地に入り、まず本年6月に就任したばかりの桧垣大助支部長による開会の挨拶があり、そして今回ご後援して頂いた福島県農業基盤整備グループを代表して宍戸一男部長(会津農林事務所農村整備部)が歓迎の挨拶をされました。その後さっそく、行政側から吉沢誠主査(同上)、コンサルタント側から富岡伸芳課長((株)ダイヤコンサルタント東北支社)の両氏による地すべりの概要等の現地説明があり、また宮城豊彦氏(東北学院大学)からも地すべり地区および周辺の地形的特徴についてご説明を頂きました。

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桧垣支部長の歓迎挨拶

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現地説明

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現地見学

現地説明を受け、全員で宮古川右岸の大規模地すべりを遠望した後、参加者は6つのグループに分かれて見学ルートに沿って約2時間の見学を行いました。おおよその見学ルートは、宮古地すべり背後の大規模な滑落崖を左手に見ながら、地すべりブロック内を林道沿いに地すべり末端部まで下るコースでした。この大規模な滑落崖は、隣接する蓬莱地すべり防止区域(福島県土木部河川課所管)を包括し、直下に高沢堤という陥没地形を有するもので、宮城豊彦氏によれば、かなり新しい地形とのことでした。前半の見学コースは、蓬莱地すべり区域と宮古地すべり区域を2分して東に細長く伸びる尾根沿いを通り、宮古地すべりの移動体内部に入るというコースでした。この尾根部では緑色凝灰岩のブロックが開口した状態で認められ、地すべりが比較的新しいことを物語っていました。後半の見学コース沿いでは、小ブロックの滑落崖、湿地、スランプ状にせり上がった末端地形などを見ながら、宮古地すべり地内の微地形的特徴についての認識を深めていきました。

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現地での意見交流

宮古地すべりの地質について着目してみると、今回の見学ルート沿いは露出状況が非常に悪く、小露頭が各所に散在する程度でした。そのため、詳細な地質状況(地山の地質構成および構造など)を把握することができませんでしたが、地すべりの滑落部から中部にかけて、中新統の荻野層に由来すると思われる緑色凝灰岩〜軽石質凝灰岩の転石が随所に見られ、地山は荻野層の凝灰岩で構成されていることを認識できました。また地すべり末端の宮古川河床付近には荻野層の下位の利田層(礫岩)が露出していました。

翌朝、宿泊した「ゆもとや」の会議室翌朝、宿泊した「ゆもとや」の会議室現地見学の結果と配布資料をもとに宮古地すべりに関する討論会が開催されました。最初に、地すべり地形の特徴、災害発生ブロック地区の特徴、今後考慮すべき事などを主題として各グループで1時間ほど活発な議論がなされました。その後、総合討論に移り、まず議論の内容について各グループの代表者から報告がありました。報告内容は地すべりの素因・誘因に関するもの、地すべり地形に関するもの、調査・対策工に関するものなど多岐にわたっていましたが、「宮古地すべりは大局的に流れ盤構造を有し、荻野層の緑色凝灰岩層内にすべり面を形成している」というのが各グループの共通の見解でした。この他、各グループからの質問や提言もなされ、有意義な討論会になりました。

討論会の最後に、桧垣大助支部長による今回の現地検討会についての統括がなされ、来年の開催地となる宮城県での再開を期して散会となりました。
((社)地すべり学会東北支部幹事)

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討論会

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