日本地下水開発(株) 大沼 隆
当該地は扇状地扇端部に位置し、昔から浅層地下水の利用が盛んな地域である。冬期間は県内でも積雪の多い地域に当たり、現在の地下水の主な使用用途は冬期間の消雪用となっている。当該地ではH.15年度〜H.18年度までの予定で線路をくぐる道路のアンダーパス工事が断続的に施工されている。掘削工事は一部綱矢板を使用するものの、基本的にはオープンで掘削する計画であった。このため、工事に伴う掘削工(排水工)、矢板設置等による周辺地下水への影響が懸念された。本報告ではH.16年度の地下水調査結果事例を紹介する。
地下水調査項目を表-1、観測箇所を図-1に示す。
表-1調査項目一覧表
調査項目 | 観測箇所数 | |
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自記水位計観測 | 水位観測孔 | 4箇所 |
既存井戸 | 4箇所 | |
触針式水位計観測 | 3箇所 | |
地下水流向・流速測定(水位観測孔) | (4箇所) | |
合 計 | 11箇所 |
図-1 現地浸透試験結果
当該地の土層構成は表-2に示すとおりである。
表-2土層構成一覧表
土層構成区分 | 柱状図 | 深度 (m) | 層厚 (m) | 土層概要 | ||
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土層名 | 記号 | |||||
盛土層 | B | 0.20〜1.10 | 0.20〜1.10 | 造成時の盛土で、No.1孔は礫混じり 砂質シルト、No.2孔、No.3孔は砕石、No.4孔は上部が凝灰質粘土、下部は 玉石混じり砂礫である。 | ||
シルト層 | m層 | 0.50〜2.15 | 0.30〜1.05 | No.1孔、No.2孔、No.3孔、No.4孔で確認 された土層で、砂質シルトである。No.1孔 では上部に有機質シルトが確認されており、いずれも旧表上と考えられる。 | ||
砂礫層 | G | upper | 8.45以深 | 7.65以上 | 上部(G-upper)は砂礫層で、φ2mm〜 50mmの亜円〜亜角礫を主体とし、砂分は中砂〜細砂である。所々にφ75mm〜150mmの玉石と点在する。 | |
lower | 下部(G-upper)は粘土混じり砂礫層で、φ2mm〜50mmの亜円礫を主体とし、砂分は中砂〜細砂である。全体に粘土を混入する。所々にφ75mm〜150mmの玉石と点在する。 |
工事箇所周囲半径約350mの調査範囲内には45本の井戸が分布しており、その殆ど(38本)が深度4m〜10mのいわゆる浅井戸で、砂礫層(G )から取水している。
水位変化図を図-2に示す。水位変化と日降水量との関係は調和的で、降雨時期には地下水位が上昇している。12月以降の積雪に伴う地下水涵養量の減少、及び消雪用の既存井戸の一斉揚水によって地下水位が低下し、地下水位が最低となった時期は積雪深のピークを示した2月上旬〜3月上旬と一致している。それ以降は融雪に伴い地下水位が急上昇している。
図-2水位標高変化図
H.16年3月上旬排水停止中(掘削中断中)の地下水勾配はNE-SW 方向で、SW方向を下流側とする緩やかな勾配となっており、既存文献による浅層地下水の地下水面分布と一致している。この時期の地下水位はほぼ自然状態にあったと考えられる(図-3参照)。
図-3 排水停止中の地下水位標高コンター
掘削再開に伴う排水工により地下水が揚水され、自然状態の地下水勾配は乱され、特に工事区間近隣で等水位線が密集し、地下水勾配が急になっている(図-4参照)
図-4 排水再開直後の地下水位標高コンター
排水ポンプを1台追加し、計2台稼働しているため排水量が増大している状態(以降排水ポンプ2台稼働)であるのに加え、消雪のための既存井戸の一斉揚水時期に重なっている。このため、地下水位が低下している影響半径がNW-SE方向の楕円形に拡大している(図-5参照)
図-5 排水継続中の地下水位標高コンター
融雪の開始に伴い、急激に地下水位が上昇している。地下水位標高100mのラインが大きく下流側に移動している。しかし、掘削地周辺の半径150m程度は工事排水の影響による”すりばち状”の地下水位低下エリアが残っている(図-6参照)
図-6 排水継続中の地下水位標高コンター
影響範囲の検討方法は、バックグラウンドデータとして@排水中断中のH.16年3月上旬の地下水位データと、同じ時期のCH.16年3月下旬の地下水位データを比較する方法で行った。影響有無の判定基準は上記@の水位データとCの水位データを比較して、水位が低下しているか否かで判定した。上記2データを比較した地下水位比較断面図を図-7、工事による影響範囲図を図-8に示す。
図-7 地下水位比較断面図
図-8 工事による影響範囲図
2台の排水ポンプによる地下水揚水により、地下水低下の影響範囲の形状はNW-SE方向の楕円形となっている。
掘削地上流側への影響半径は約220mであるのに対し、掘削地下流側の影響半径は約160m、上流部への影響半径の方が大きくなっていると考えられた。