協会誌「大地」No45

仙台市青葉消防署 警防課救急係長  吉川 清志氏

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プロフィール

昭和35年7月7日生まれ
仙台市出身 血液型O型
趣味:柔道、ゴルフ温和で実直な人柄の吉川さん。
今回は、青葉消防署にて救急救命のあれこれをお聞きしました。お仕事に対する責任感と使命感が、随所に伝わってくる取材となりました。

38.現場のプロに聞く(救急救命士の巻)

今のお仕事に就かれたきっかけや、印象に残った出来事などがあれば教えてください。

印象に残っているのは、私が最初に出動した救急の現場です。まさに生死に関わる切迫した現場で、必死になって傷病者の心臓マッサージをおこないました。

それまで経験したことのない極限に近い緊張感と臨場感を感じましたが、その時以来、非常にやりがいのある仕事であることに誇りをもって現在に至っています。

私たちの業界は屋外作業が多いのですが、どういった事故に対して、どのような注意をすればよいのか教えてください。

屋外で発生しやすい救急事故としては、1.蜂刺され、2.熱中症、3.各種外傷(骨折・切断・刺創)、4.電撃症(落雷)、5.有毒ガス中毒・酸欠などが上げられます。

やはりこれからの季節は、山中などでは「蜂刺され」、屋内外を問わず「熱中症」、河原などでは「落雷事故」に注意してもらいたいです。

「蜂刺され」の場合は、針と毒嚢が残っている場合があるので患部を不用意に指で摘まない方がよいでしょう。また、最もこわいのはアナフィラキシーショックと呼ばれる蜂毒による急性アレルギー症状です。重症の場合は呼吸困難等を引き起こしますから、蜂刺されの直後にむかつき・全身のだるさ・息苦しさ・しびれ・意識障害等が出た場合は、早急に治療を受ける必要があります。営林署の職員など、頻繁に山中に入る人は、「エピペン」というアナフィラキシー症状発現時の補助治療を目的とした自己注射製剤を持つことが多いようです。

予防策としては、黄色や黒の衣類・帽子を避ける、甘い香りのあるものの摂取や化粧品などの使用を避けるといったことがあります。

「熱中症」は、熱虚脱・熱痙攣・熱疲労・熱射病等の病態の総称で、暑さによって体温調節がうまくいかず、段階的に全身器官が機能不全に陥る状態をいいます。

労働災害として、夏季に多発しやすい代表的な救急事故の一つと言えます。症状については、血圧低下による頭痛やめまい、吐き気、血液中の塩分不足による筋肉の痛みを伴う痙攣(熱痙攣)といった軽症から、過度の発汗による脱水症状からくる発熱を伴う頭痛やめまい、脱力・倦怠感、失神といった中等症(熱疲労)、高い発熱(発汗しない)を伴いもうろうとし、言動がおかしいなどの意識障害が起こる重症(熱射病)などの状態があります。

熱中症の手当の基本は、「休息」、「冷却」、「水分・塩分補給」です。夏季の作業場には@冷却できるもの、A生理食塩水やスポーツドリンク、B送風できるものなどを常備すると共に、日々の体調チェック、能動的な休憩と水分補給をおこなうことをお勧めします。特に水分だけを補給するのではなく、塩分を補給することに留意して下さい。また、重症の場合、迅速な医療処置が患者の生死を左右します。太い血管が皮下にある首筋や腋の下、太腿の付根を氷嚢等で冷却し、いち早く救急通報することが肝心です。軽い症状から徐々に様態が悪化していく場合もあり、素人判断はとても危険です。熱中症と気づいたら迷わず救急通報するか、病院に搬送し、原則的に医師の診察を受けることを勧めます。

「落雷事故」の場合、電撃症と呼ばれる一過性の意識障害や心肺機能の停止に陥ります。河川敷やグラウンド、山頂・尾根などの開けた場所で雷の直撃を受けた場合は、頭蓋骨の粉砕骨折や内臓破裂を起こすこともあり、約80%の方は死亡します。一方、落雷を受けた物体の近くにいる人に放電が移る場合があり、これを側撃雷といいます。落雷による死傷事故の多くはこの側撃雷によるものです。

治療としては、救急通報と共に速やかに心肺蘇生をおこなうことになりますが、まず雷に打たれない対策を講じることが大切でしょう。雷の発生・接近を知ること、早めに落雷に対して安全な場所に避難することに留意して下さい。雷の発生・接近は、日々の天気予報の他、入道雲の発生、雷鳴、Amラジオの雑音などで知ることができます。避難場所としては、自動車などの乗り物や建物の中が適切ですが、配電線・送電線の下なども、これらが避雷針と同様の役割を果たすため比較的安全です。

その他にもいわゆる外傷(骨折・切断・刺創等)を負われる場合などがあると思いますが、骨折時の副木のあて方や、止血方法といった応急的な手当ての方法を、講習や文献などを通じて勉強されることを勧めます。

私達が知っておくとよい救急救命に関する情報などがあれば教えてください。

近年、AEDと呼ばれる心臓の除細動装置の開発が進んでいます。地域によりますが、学校や公共交通機関の駅、役所、スポーツ施設などに設置されるようになりました。現場作業に限りませんが、心不全等を起こした患者に対する初期手当ての補助装置として効果を上げています。

使用方法はきわめて簡単ですし、リース等もできるようですので、その存在を周知されると良いかと思います。

屋外での現場作業の際には、携帯電話等の連絡手段を準備することは当然ですが、救急通報の際には、現場の場所や患者の症状を的確に伝えるようにして下さい。また、携帯電話がつながりにくい、あるいは番地や所在を正確に伝えることが容易ではないような山林内などの現場では、携帯電話の使用が可能な場所の事前確認をおこなうことや、発煙筒など、自分達の居場所を、離れた救急隊員に知らせることができるようなものを準備されるとよいと思います。

ズバリ、救急救命の心得をお願いします。

人命に勝るものはありません。傷病に関わる対応の基本は、少し大げさに考えることと言われています。事故が発生したら、体に異常を感じたら、早めの対応、早めの救急通報を心がけていただければと思います。

【取材後記】

今回の取材は、某編集委員の会社で開催した安全大会の際に、講師として、吉川さんに安全講習を行っていただいたことがきっかけでした。

私たちの業界が、屋外での現場作業が多いことを踏まえて、熱中症、蜂刺され、電撃症、有毒ガス中毒・酸欠、各種外傷、火傷・凍傷、咬傷といった多岐の事例について、予防策や救急処置、応急手当の方法などを、わかりやすく具体的に講習していただきました。

今も昔も安全第一、人命尊重。備えあれば憂いなし。正しい救急救命の知識を持つことは現場の備えの第一歩と思われます。会員読者の皆様の現場活動が安全に遂行されることをお祈りしつつ編集後記といたします。

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