(社)日本地すべり学会東北支部  土木地質(株)

高橋 克実

41.日平成17 年度地すべり 現地検討会参加報告


 昨年の10月6日・7日、(社)地すべり学会東北支部主催(後援:秋田県)による標記の地すべり現地検討会が、「平成14年3月に発生した秋田県・下前田地すべり災害と大規模地すべり地形」をテーマに、秋田県・下前田地すべりを対象として行われた。

 下前田地すべりは、北秋田市米内沢地区の南南東約7km 、小又地内に位置し、1級河川阿仁川右岸、秋田内陸縦貫鉄道「あにまえだ駅」に近接する。秋田内陸縦貫鉄道阿仁前田駅舎・路線909m区間を始め、人家209戸、旧森吉町前田支所・前田郵便局・前田保育園・前田診療所・前田小学校・公民館2棟及び道路6,404m区間等の公共施設群を保全対象としており、秋田県河川砂防課所管の最重点地すべり地区に位置づけられている。指定面積119.3haと広大であり、古くからの大規模地すべり活動の痕跡と考えられるコの字型の特徴的な滑落崖で囲まれた平面形状とともに、3〜4列の尾根状分離小丘、それに並列する陥没凹地が地すべり地内に形成されている。

  地すべり区域指定の経緯は、平成14年3月9日(融雪期)に末端ブロック約1haが動き出して、人家(半壊1 戸・一部損壊4戸)や道路及び鉄道敷に多数の亀裂が生じ、8世帯23名が数ヶ月にわたり、避難生活を強いられことを契機としている。災害関連緊急地すべり対策事業によるアンカー工及び集水井工、横ボーリング工の緊急着手により、当面の安全率が確保されている。

現在は、平成19年度概成を目指し、背後に控える巨大ブロックに対する地すべり調査・解析を展開しつつ、地下水排除工による抑制工を主体に計画され、その一部が着手されている。

今回の現地検討会は、大学・コンサルタント・官庁関係から55 名ほどが絶好の検討会日和のもと、阿仁前田地内のコンベンションホール「四季美館」駐車場に参集して開催された。

 
参集、挨拶   現地説明

 支部長・東北学院大学宮城豊彦先生、秋田県北秋田地域振興局建設部長・幸坂定一氏による開会挨拶・歓迎挨拶の後、早速、現地検討に入った。対岸から全景を遠望した後、地すべり冠頂部までバス移動し、地すべり区域全体を眼下にしながら、ご担当の秋田県北秋田地域振興局河川砂防課・庄司勝政氏、国土防災技術(株)秋田支店・大西克明氏の方々による現地説明を頂いた。その後は、グループに分かれて見学ルート沿いを徒歩で移動する行程となったが、今回は、各人に以下のキーワードが課せられての視察・調査となった。

(1)本当に大規模地すべりか?
(2)急崖は滑落崖か?
(3)巨大陥没地形の成因は?
(4)初生的な地質構造は?
(5)立木、植生の異常、構造物の変状はあるか?
(6)露頭からみる地質と破砕の関係は?
(7)段丘礫の位置づけをどのように捉えるか?

 露頭箇所、明瞭な尾根状分離小丘や陥没地形の見られる地点、また対策工地点などの要所で、キーワードについて活発な意見が交わされていた。

   
現地の視察・調査    

 また現地を離れて後、宿泊所の国民宿舎「森吉山荘」への移動途中、現在建設中の「森吉ダム」展望所から、阿仁川支流・小又川対岸に広がる「根森田地すべり」を遠望した。永年、根森田地すべりに関係してこられた支部運営委員・佐々木公典氏、奥山ボーリング(株)・森屋洋氏から、地すべりの沿革及び調査、対策工の経緯などを詳しく説明して頂き、現地検討会の初日を終えた。

 翌朝、宿泊所の研修室において、地すべり討論会が行われた。討論会は、例年のようにグループ形式で意見交換・討議し、それらの結果を総合討論で意見発表する方式で行われた。まずは、駐車場に広げられたボーリングコアを前にした意見交換から始まり、会場に戻ってキーワードに沿ったグループ討議へと移った。続いての総合討論では、各グループでどのような見解・意見を持ったかが発表され、大規模地すべり地形であることは疑う余地もないが、どのような地形形成の過程を辿ったのか、ブロック区分に基づきどこまでが再移動する可能性があるか、露頭での地質がボーリング調査結果ではどれに対比されるのか、段丘礫の現出と地すべり形成の発達史をどう捉えるかなど、活発な議論や意見が交わされた。今後の調査範囲や対策工の範囲をどこまで展開すべきかなどの意見・提案も数多く出された。

最後に、秋田県河川砂防課・佐々木一郎氏より、討論会の意見・提案などを参考に今後対応していきたい旨の挨拶を頂き、無事散会となった。(社)地すべり学会東北支部幹事)

 
コア観察   討論会
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