(株)日本地下探査 事業推進本部  古澤 邦彦
(株)日本地下探査 東北事務所長  神馬 幸夫
15.物理探査の動向と適用(2)
  防災・メンテナンス分野への適用

1.はじめに

物理探査の動向と適用(1)では、物理探査の手法と土木分野および地震防災分野での適用例をご紹介しました。今回は、2回に分けて防災分野として地すべり・空洞・不発弾探査、メンテナンス分野として護岸・吹き付け法面・河川堤防・埋設管・杭の根入れ長決定、環境分野として廃棄物・塩淡境界・油類やVOC の分布、温泉・地下水調査、遺跡調査に対する適用例についてご紹介します。

2 .防災分野(地すべり・空洞・不発弾探査)
2- 1 地すべり


図2-1   図2-2
図2- 1 高密度弾性波探査の結果例   図2- 2 高密度電気探査の結果例

  地すべり面は、不動層上面の粘土によって形成されます。不動層は安定して速度値が大きく、移動層は速度値が小さいことから、この調査では従来から弾性波探査が活用されていますが、今では図2-1のように高密度弾性波探査が行われています。

 しかし、速度差が小さい場合や速度の逆転層が存在する場合には適用が困難となります。最近では、粘土がすべり面を形成していること、粘土は比抵抗が小さいこと、また水が関与することから電気探査、特に図2-2のように比抵抗二次元探査が実施されることが多くなっています。泥岩の上面がスレーキングによって粘土化した場合、泥岩と粘土の比抵抗の差が小さいために検出し難い場合もありますが、比抵抗のコンターの区切りを工夫したり感度が高い4 極法を用いるなどして検出した例もあります。

2- 2 空洞

  空洞といっても防空壕、旧日本軍の薬品倉庫、飛行機の地下組立て場、弾薬庫、石炭・亜炭・磨き砂採掘跡などや、推進管の上位のすき間やパイピングによって自然に形成されたものなど多岐にわたり、その大きさもさまざまです。空洞を探査するには、空洞部分からの電磁波の反射パターンに注目した地中レーダ探査、空洞部分の剛性がゼロであることか ら強度変化に注目した表面波探査、空洞が水没していなければ電気抵抗が無限大であることから、比抵抗に注目した比抵抗二次元探査や比抵抗トモグラフィ、また空洞部分の密度がゼロに(水没している場合は1.0g/cm3)であることから重力値の変化に着目した微重力探査などが行われています。

 ただし、いずれの探査でも小さい空洞が深い所にある場合は検出することは困難で、不可能な場合も出てきます。今までの経験では、空洞の径が土被りの2割以上であれば検出する確率は高くなりますが、1割以下の場合は不可能な場合が多いようです。検出出来た場合でも、空洞の形が絵に描いたように現れるのではなく、どちらかと言えばボンヤリとした形で検出されるため、精度を要求される場合は複数のボーリングかサウンディングでの確認が必要となります。

 起振器を利用した表面波探査、比抵抗二次元探査で空洞を検出した例を、図2-3および図2-4に示します。

図2-3   図2-4
図2-3 表面波探査による検出例   図2-4 比抵抗二次元探査による防空壕検出例

 表面波探査の場合、空洞部分の剛性が周辺地盤よりも小さい(天盤が崩落して空洞が緩詰め状態もしくは水没)、もしくはゼロ(水没もなく完全な空洞)であることから、空洞部分の位相速度が低下して、結果的に低速度となっています。この探査の場合、深度を波長の1/2と仮定しており、位相速度は1/2波長内の地盤の硬さを反映しているとしていますが、1/2波長よりも深い部分の影響も含むため、経験から空洞は実際よりも浅めに出ることが多いようです。

 比抵抗二次元探査による電極配置は、ダイポール・ダイポール配置もしくは深くなった場合はエルトラン配置とのハイブリッドで行ったりします。図2-4の空洞は、水没していないため空洞周辺の含水比が低下している可能性があります。したがって、空洞部分だけではなく、その周囲も比抵抗が高くなっています。水没していない場合は、このように実際よりも大きめに空洞が検出される場合が多いので、注意をする必要があります。

  最近では、護岸背面・道路直下など浅い部分の探査が多くなっています。ここでは、浅い部分の探査に良く利用される地中レーダ探査についてご説明します。地中レーダは、図2-5に示すように、電磁波の反射パターンから地下の空洞や埋設管などの異物を検出する手法です。コンクリート背面の空洞を検出した例を図2-6に示しますが、空洞部分では反射パターンが不連続となり、空洞が無い部分と明らかにパターンが異なっています。地中レーダの場合、表層が対象となりますが、表層は埋戻しなどで乱されていることが多く、埋戻しの影響か空洞なのかを判定することが難しい場合もあります。このような場合は、簡易貫入試験などを行って、確認することで精度を高めることができます。

図2-5   図2-6
図2- 5地中レーダの基本反射パターン   図2-6 空洞検出例

 一般的に利用されているパルスレーダの探査深度は、利用するアンテナの周波数によって左右されますが、概ね深度2〜3m程度で、地下水位以深では急激に電磁波が減衰しますので、深度2 〜3m以浅で地下水位よりも浅い深度が探査範囲となります。また、鉄筋のメッシュ幅が狭い場合は、電磁波が鉄筋で全反射しますので、やはり探査が出来なくなりますので、メッシュの大きさには注意が必要となります。

2- 3 不発弾探査

 第二次世界大戦時に投下された爆弾の中には不発弾もあり、最近でもニュースになります。また、茨城県の神栖町では毒ガスの原料になった砒素が地下水を汚染して、被害者が出ている状況があります。

 不発弾探査では、磁気を探知する磁気探査がよく利用されています。磁気探査には、平面的に調べる水平磁気探査(図2-7)とボーリング孔を利用して調べる孔内磁気探査(図2-8)があります。

図2-7   図2-8
図2-7 水平磁気探査測定概念図   図2-8 孔内(鉛直)磁気探査測定概念図

 水平磁気探査は、調査対象となる範囲に測線をある間隔(1m 程度)で設定して、その上を磁気探査装置で測定し、異常箇所をマッピングする方法です。探査深度は概ね1.0 〜1.5m程度とされていますが、250kgの不発弾の場合は1.5〜2.0m程度まで探査できるようです。

 孔内磁気探査は、図2-9に示すように、1m掘削するごとに磁気センサを孔内に降ろし、掘削深度方向に調べる方法です。

 磁気探査では、センサが鉄などの磁性体上を通り過ぎると、図2-10のようなWもしくはS字パターンが現れ、振幅などから磁性体までの距離や深度を計算することができます。

図2-9   図2-10
図2-9 孔内(鉛直)磁気探査の測定方法   図2-10 波形パターン

 また、最近では磁化率も計測出来るマ ルチ周波数のEM 探査がありますので、 このEM探査でも不発弾を探査できる可能性も出てきました。

 前述したように、最近では不発弾のみならず、毒ガス兵器が確認されています。これらは、ガラスビンに詰められているものが多く、ビンのキャップは鉄ですが、非常に小さいため、深い深度にあると検出することが困難になってきます。その場合は、磁気探査や地中レーダによって有無の可能性を探りながら、少しずつ地面を掘り下げて確認されているようです。

3.メンテナンス分野(護岸・吹き付け法面・河川堤防・埋設管・杭の根入れ)

 構造物をより長期的に活用するために、構造物そのものや構造物背面の地盤状況を調査するケースが多くなりました。ここでは、護岸や吹き付け法面の健全度評価、河川堤防の構造や水みち調査、既存埋設管のルート調査、構造物の杭の根入れ長調査について述べます。

3-1 護岸や吹き付け法面の健全度評価

 護岸の化粧コンクリートや吹き付けコンクリートの浮き上がりや剥離、もしくはその裏面地山の流出などで空洞になっている場合があります。これらの状況を調査するのに、ひび割れや目視によるスケッチのほかに、打音調査や赤外線撮影があります。

 打音調査は、通常は壁面をハンマーで打撃して聞こえてくる音そのものを聞いて、人間が健全度を判定していますが、最近ではより客観性を持たせるために音の周波数や継続時間を分析して判定する方法1)が活用されるようになりました。測定には、図3- 1に示すように地面を打撃する打撃棒とマイクロフォンを使い、マイクロフォンで収録した音をその場で分析します。

図3-1
図3- 1 打音調査測定器(ソナライザー)

図3-2
図3- 1 打音調査測定器(ソナライザー)

 評価は、図3-2 のように波形の継続時間と周波数を分析して、その特徴から判定します。コンクリートの背面に空洞がある場合は波形の継続時間が長く、低い周波数が卓越しますが、無い場合は波形の継続時間が短く、卓越する周波数は高くなります。個々の打撃ポイントで評価された結果を平面図で表して、最終的なマッピングを行います。

 赤外線撮影は、調査対象範囲から離れた場所から対象範囲を赤外線撮影し、壁面温度の変化から背面の空洞状態を判定するものです。壁面下の地山は、熱伝導が悪いため太陽光によって暖められても暖まり難いものですが、一旦暖められると冷めにくい性質があります。しかし、空洞がある場合、空気は地盤よりも熱伝導が良いため、日没後では時間の経過とともに温度が冷めてきます。この温度変化を利用して、空洞の有無を判定します(図3- 3参照)

図3-3
図3- 3 熱赤外線撮影による空洞調査例

 温度変化を利用するために、最低同じ場所を2 回撮影することになります。撮影対象範囲からどの程度離れることができるかで、対象範囲の撮影枚数が変わって来ます。対象が広い場合は、何枚も分割して撮影しなければならなくなります。

 なお、目視によるひび割れ調査やスケッチおよび打音調査を組み合わせて、総合的に健全度を判定することで精度が向上します。

3-2 河川堤防

 河川堤防で問題になるのは、水みちおよび樋門の底盤や樋管の脇からの漏水と、強度の不均質さです。樋門や樋管は周囲の土構造物と一体化していないため、河川水位の変動によって構造物周囲の土が洗い出されることがあります。洗い出された部分はいわゆる空洞となっているため、水門を閉鎖して地中レーダなどで探査を行い、連通試験などで確認しているところもあります。これらの構造物は、場所が特定できるため保守管理もしやすいと思いますが、水みちがどこに存在するか調査するのは簡単なことではありません。また、強度の不均質さについても堤防という長大構造物の性格上、つぶさに調べるのは容易ではありません。

 ここでは水みちや強度を把握するという目的で利用される方法について述べます。

 一旦水みちができると、その周囲地盤は含水比が高くなったり、もしくは細粒分が洗い流されたり、他と比べて土質が異なっている可能性があります。このような土質の変化に対して、比抵抗二次元探査が適用される場合もありますが、時間的・費用的な面で最近ではEM 探査が利用されるようになっています。

 EM探査は電磁探査法の1種で、送信部から地下に印可された電流で発生する二次磁場を測定して、地下の構造を伝導度(比抵抗の逆数)で表現する方法です。水みちの含水比が高い状態であれば、電気が流れやすいことから高電導度となり、細流分が洗い流されて粗粒分が多いとすれば、渇水期には電気が流れにくく電導度が高くなるものと思われます。この探査には幾つかの種類の測定器がありますが、図3- 4のように地面にセンサなどを打設することなく手軽に探査できることが特徴です。

 以前は、発信する周波数も1つの装置でシングルもしくは周波数が少なかったため、深度方向に探査するためには幾つかの周波数の測定器を組み合わせる必要がありましたが、最近では図3- 5のようにマルチ周波数を送信して、探査できるようになっています。このマルチ周波数のEM 探査では、複数の測線を推測航法(目安を付けて目標に向かって進む)によって歩き、電導度や帯磁率の平面的なマッピングを行います。周波数毎の平面マッピングで電導度等の異常範囲を検出し、ボーリング地点を決めることができます。このマッピングでは深度情報は分かりませんでしたが、最近では一次元解析も研究され、断面的に表現できるようになっています。マルチ周波数で堤防を調査した例を図3-6〜3-7に示します。

図3-4   図3-6
図3-4 EM 装置の一例(Geonics 社製EM-38 )   図3- 5 マルチ周波数電磁探査(EM )の測定状況
図3-6   図3-7
図3- 6 ある周波数における電導度の平面分布   図3- 7 各周波数における電導度の平面分布

3-3 既存埋設管調査

 既存埋設管の近くに新規工事で杭やシートパイルを打設するケースがあり、図面が無いために埋設管のルートを調べる必要が出てきました。埋設管といっても、その口径や埋設深度はまちまちなため、そのケースにあった探査方法が選択されます。地表近くにある小口径埋設管は地中レーダで探査することが多いのですが、それよりも深くなり、口径も大きくなってくると起振器を用いる表面波探査や比抵抗トモグラフィを活用する場合があります。表面波探査は埋設管の中の剛性が周辺地盤よりも小さいことを利用して、空洞と同じように低速度部分を検出してそのルートを決定します。比抵抗トモグラフィは、比抵抗の違いに着目して行うわけですが、ボーリングの必要性などから、特殊な場合に限られます。

 ここでご紹介する方法は、ジャストポイント(図3-8)という装置を使った方法(電力中央研究所と関西電力の共同研究によるもで、特許出願中)で、埋設管の中に電磁波を発生させる送信器を挿入(人間が入れる場合は人間が持って入る)し、その電磁波を地表で受信するシステム2)です。

図3-8
図3- 8 ジャストポイントシステム


 埋設管の中央部に設置された送信器から送信された電磁波は、上向きに広がって行きますが、その強度が一番大きいのは送信器の真上になります。電磁波の強度が一番強い場所を受信器で探して地表にマーキングし、発信器を移動して再び受信器で最高強度の場所を探します。特殊な検出方法を利用していますので、深度10mにある管を対象ににする場合の誤差は5cm 程度です。送信と受信で連絡を取り合いながら探査して、埋設管のルートを地上にマーキングして行きます。

3-4 杭の根入れ

  杭先端下方に埋設管を布設したり、構造物の建て替えの場合に杭がどの深度まで入っているかが問題になることがあります。杭の種類には、松杭・コンクリート杭・鋼管杭・場所打ち杭などさまざまです。既存の杭の根入れ長を決定する方法には、速度検層・磁気検層・ボアホールレーダなどが利用されます。ただし、いずれの方法でもボーリングが必要で、ボーリングは出来る限り杭から0.5〜1.0m以内に掘削し、想定される杭長よりも3〜5m 程度は深く掘削する必要があります。検出精度は、ボーリングと杭の離隔に左右され、離れるにしたがって低下すると考えても差し支えないと思われます。以下に、前述した探査を用いた方法について述べます。

3-4-1 速度検層
 この方法は、図3-9 に示すようにボーリング孔内に3成分の地震計を挿入(水平動2 成分のうち2 成分は杭の方向に固定) し、地上構造物を打撃し(フーチングを打撃できればフーチング)、構造物→杭→地盤→地震計と伝播してきた波動を受振します。

 松杭であっても杭を伝播するP波速度は地盤を伝播するP波速度(約1500m/sec)より大きいため、杭が存在する部分の伝播速度は杭の影響で大きく、杭の先端から離れるにしたがって地盤の影響を受けるために、速度が小さくなります。また、上下動成分と杭の方向に向けた水平動成分で軌跡を描くと、杭が存在する部分では水平動成分が大きく、杭先端を過ぎると波動が上から到来するために、上下動成分が大きくなります(図3- 10参照)。このように、速度解析と軌跡を描くことで、杭の先端深度を決めることができます。ただし、波動を受振する間隔は、杭が明らかに存在する部分では1〜2m(杭長による)でもよいのですが、杭先端付近では0.2〜0.5mと細かくする必要があります。

図3-9   図3-10
図3-9 波動の伝播経路   図3-10 杭先端の判定方法

3-4-2 磁気検層
 鋼管杭や鉄筋が入っている杭に対して有効な方法です。プローブを図2- 8に示すように、ボーリング孔に挿入して連続的に磁気の強度を測定します。プローブの先端と終端に磁気センサが取り付けられており、先端と終端の差をとりながら測定しますが、杭が存在する場所ではその差がある一定の値になりますが、先端のセンサが杭先端を通り越した段階で、両センサに違いが表れます。また、終端のセンサが杭先端を通り越した時点で変化が表れ、図3-11 に示すように測定記録がSやW型のカーブを描くことになります。このパターンから、杭の先端を決めることができます。

図3-11    
図3- 11 磁気検層の結果例    

3-4-3 ボアホールレーダ
 ボアホールレーダは、地中レーダの検層版といったイメージで、ボーリング孔を利用して物体から反射してきた電磁波を受信して、その画像パターンから物体の有無を判定します。図3-12は測定機材で、透明のアクリル管にレーダーが格納されています。測定では、ゾンデをある深度で回転させて反射の強い方向(図3-13参照)を把握し、方向が決まったらその方向を固定して連続測定を行いますが、杭が存在する部分では反射強度が強いままですが、杭先端を抜けると反射強度が小さくなり(無くなり)、杭の先端を決定することができます(図3-14参照)。杭が存在する深度は地下水位よりも深い場合が多く電磁波の減衰が大きくなるため、この方法を利用する場合は、杭から0.5m以内にボーリングを行う必要があります。

図3-12   図3-13
図3- 12 ボアホールレーダー測定資材   図3- 13 杭の方向からの反射パターン

図3-8
図3-14 ボアホールレーダーの記録例

<参考文献>
1)鈴木文大:ウェーブレット変換による打音調査と適用例、技術e-フォーラム2003埼玉、 (社)全国地質調査業協会連合会、No.33 .

2)楠健一郎・家村正三・石井竜介・松枝富士雄:電磁式管路位置測量システムの開発、物理探査、第58巻、第3号、掲載予定、2005.

3)武田研・児玉忠博・吉村修・内田篤貴・斉藤徳美・岩手県環境生活部産業廃棄物不法投棄緊急特別対策室:不法投棄現場における比抵抗二次元探査の適用と問題点、第108回(平成15年度春季)学術講演会講演論文集、(社)物理探査学会、177- 184、2003、5.
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