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1.はじめに ボーリングコア観察の結果は、地質調査業務において最も重要な基礎データの一つである。しかしその観察項目の多くは定性的評価手法によるため、観察者の技術的能力の差や主観が入りやすい。このため報告書に記されたデータは再現性に乏しく、比較や対比がしにくい。ボーリングコア観察結果から導かれる地層区分や岩級区分も、結果として技術者の能力差や主観が入り込みやすい。コア観察により地層、岩級区分等の境界深度を決定する際、判断に迷った経験はどのような技術者でも一度はあるのではないだろうか。 本研究は、定性的評価手法が主体であるボーリングコア観察に、より定量的な指標を加えることを目的として、ボーリングコアの帯磁率を深度方向に連続的に測定したものである。測定結果について、ボーリングコア観察による風化程度や地層区分、岩級区分との対応を検討し、定量的指標としての有効性を検討した。 2.岩石・堆積物の帯磁率が持つ意味 全ての物質には、基本的に磁性がある。 岩石や堆積物に外部磁場を与えると誘導磁化が生じる。強さFの外部磁場中に置かれた岩石や堆積物の誘導磁化の強度は、kFとなる。このときのkを、帯磁率または磁化率と呼ぶ。つまり、外部磁場をかけた際の磁化のしやすさを帯磁率と呼ぶ。 岩石や堆積物の帯磁率は、基本的に構成する鉱物の量比と、各鉱物のもつ帯磁率の強さ(表−1)で決定される。但し、同じ鉱物でも粒径が小さいほど、帯磁率は強い値を示す。 一般的に岩石・堆積物に含まれる鉱物のうち、特に強磁性鉱物であるマグネタイト(磁鉄鉱)Fe3O4が含まれる場合、他の鉱物とは桁違いに高い帯磁率を有するため、マグネタイトの量比が岩石・堆積物全体の帯磁率を規制する。マグネタイトから、熱水作用などでヘマタイトFe2O3が形成された場合、帯磁率は大きく低下する。2次的に形成された鉱物がパイライト(黄鉄鉱)FeS2である場合、帯磁率はさらに低下する。また風化作用により、非晶質水酸化鉄やゲーサイトFeOOHが形成された場合も大きく帯磁率が低下する。 このように帯磁率は、風化、変質程度が高いほど、低下することを示している。 これらのことから、岩盤の場合は岩種、風化・変質程度により、帯磁率は異なると考えられる。いっぽう、堆積物の場合は堆積物の供給源となる母岩の岩種、風化状態、堆積環境によって帯磁率は異なると考えられる。 従って岩石や堆積物のもつこのような帯磁率の特性を用いれば、ボーリングコアの帯磁率によって、深度方向の相対的な変化を検討することにより、客観的な地層区分、風化区分等の為の基礎資料の一つとすることが可能であると考えられる。 表-1 鉱物の帯磁率1) 写真-1 ZH instruments社製SM20型携帯型帯磁率計 3.帯磁率測定方法 本研究では、測定にZHinstruments社製のSM20型携帯型帯磁率計(写真-1)を使用した。測定は、コア箱に入った状態のボーリングコア表面に測定器をあて、帯磁率の測定を行った。測定間隔は原則として10cmとし、コアの状態によりコア表面に測定器を十分にあてることができない深度の場合は、測定深度をややずらすか、欠測とした。 4.帯磁率測定結果 図-1に新第三紀鮮新世の安山岩自破砕溶岩(ab)および凝灰角礫岩(Tb)のボーリングコア(φ66mm)の測定例を示す。凝灰角礫岩層は、一部に径数ミリメートル〜1m以上の泥岩礫を多数含む層(tb(m))があり、泥岩礫を含まない層とは区分した。 図-1は、GL-36.0m以深の岩盤部分の帯磁率を片対数で表し、肉眼観察による地層区分と岩級区分を右側に示す。 測定対象としたボーリングコアは、GL-62.60mまで泥岩礫を含む凝灰角礫岩(tb(m))層、以深は凝灰角礫岩(tb)層、安山岩自破砕溶岩(ab)層の互層となっている。各層はそれぞれ漸移関係にあり、肉眼では境界が不明瞭で層区分が難しい。 各層の帯磁率はtb(m)層では0〜15×10-3(SIunits)であるのに対して、tb,ab層では概ね8〜20×10-3(SIunits)と、比較的大きな値を示している。 以下に各地層毎の特徴を示す。 図-1 ボーリングコアの帯磁率測定結果 図-2 各地層・岩級区分別の帯磁率測定値 A.GL-36.0〜62.60m区間泥岩礫を含む凝灰角礫岩層(tb(m)) Tb(m)層では比較的値のばらつきが大きい。本層は全体に風化が進行しており、下位層と比較して低い帯磁率を示している。 同じtb(m)層でも、泥岩礫の含有量が減少するGL-53.0m付近以深では、値のばらつきは小さくなる。帯磁率はこのGL-53.0m付近からtb(m)層基底部のGL-62.6m付近にかけて徐々に値が大きくなっており、風化の程度に対応した傾向と考えられる。 B.GL-62.60〜77.90m区間凝灰角礫岩・安山岩自破砕溶岩層(tb,ab) この区間の帯磁率は、前後の区間と比較して高い値を示している。肉眼観察では、この区間に分布するtb,ab層は比較的亀裂も少なく、新鮮なCM級岩盤が主体と判断されており、この区間の帯磁率の傾向と対応していると考えられる。 C.GL-77.90〜120.80m区間凝灰角礫岩・安山岩自破砕溶岩層(tb,ab) この区間の帯磁率は、前後の区間より値が低い部分が多く、ばらつきが大きい。 本区間は全体に亀裂が卓越し、亀裂周辺は破砕が進行している。これに伴い全体にやや風化が進行し、帯磁率が低くなっている。いっぽう帯磁率が高い部分があるのは、岩片自体は新鮮であるためであると考えられる。 D.GL-120.80〜130.00m区間安山岩自破砕溶岩層(ab) この区間の帯磁率は、安定して高い値いて、岩級区分ごとに測定値を整理した。 各岩級区分における値のばらつきは10〜15×10-3(SIunits)程度である。tb,ab層ともCL級とCM級の岩級区分間には、平均値で4×10-3(SIunits)程度の値の変化が認められる。ab層のCL〜D級・CL級間とCM・CH級間には、岩級区分に対応した帯磁率の変化は認められなかった。これは亀裂程度の差などはあるものの、CL・CM級間と比較して、化学的な風化程度の差が少ないためであると考えられる。tb層、ab層間には、平均値で1×10-3(SIunits) 程度の差が認められた。 6.まとめ ボーリングコアの帯磁率には、地層や風化程度を反映した変化が認められた。今後コア観察結果の定量的指標の一つとして用いられるよう、測定データを蓄積、検証してゆきたい。 《引用・参考文献》 1)中井睦美:地学双書34ジオロジストのための岩石磁気学帯磁率・古地磁気からAMSまで、地学団体研究会、pp.5,2004.1. |
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