71.道路切土による温泉源泉への影響調査

(株)新東京ジオ・システム  瀬野孝浩・中臺直之

1.はじめに

 温泉源泉の給水経路と指摘された箇所において、道路切土が予定されている。
 この切土による源泉への影響を評価する目的で、切土箇所と温泉源泉の中間において、調査ボーリング及び各種孔内試験、水質試験を実施した。調査ボーリングでは岩盤は亀裂が少ない点が、各種孔内試験では透水性が低いことが判明した。また、水質試験より、切土箇所より供給される地下水と、温泉源泉水の水質は異なることが判明した。以上より、切土による温泉源泉への影響は少ないと考えられた。


2.源泉の状況

 温泉泉源は本線西側約200mの丘陵地にあり、東向き斜面の中腹部(標高34.66m)に位置している(図.1参照)。詳細には、同源泉は沢底より比高差5mほどにある笹岡層シルト岩露頭の水平亀裂より湧出している。湧水量は毎分6L程度であり、水量や水温は一定している。同源泉の湧出口には褐色の沈着物が付着しており、泉源周辺のシルト岩は褐色に変色している。

調査位置平面図
図.1 調査位置平面図


 同泉源より下流数10m程度までの沢底の湧水点には、同様の褐色の沈着物が見ら聞込によれば、湧出開始時期は古く、詳細は不明である。また、源泉の水量は天候に関係なく、ほぼ一定である。温泉源泉の水温(1月測定)は概ね11〜13℃であり、平均12.5℃程度である。


3.調査概要

 切土やトンネルを掘削することによって周辺の地山の地下水位は低下する。この時に流出するのは掘削面より上部に自由面水として分布する地下水や被圧層を除去することによる下位の被圧水あるいは開放面とつながる割れ目に存在する地下水などである。従って、切土による影響を評価する上で源泉へどのような状態で地下水が到達するのかという湧出経路の検討が必要となる。

 調査ボーリングや地表踏査から、温泉周辺には、砂質シルト岩と極細粒砂岩(シルト質砂岩)からなる笹岡層が分布している。これらは全体に漸移しており、数m単位で互層状となり、層内部でも数cm〜数mm単位でも互層状をなす。笹岡層の一般的な構造は、走向が南北〜北北西−南南東方向で西側へ10〜20°傾斜するとされている。切土箇所と温泉源泉間の地質構成は、砂質シルト岩を主体とし、極細粒砂岩層を3層挟在する(図.2参照)。

 湧水圧試験等より、源泉〜切土間の地層の透水性は概ね低いことが判明した。

 また、水質試験結果より、源泉水と源泉〜切土間の地層中の水とは、水質が異なる結果となった(図.3参照)。

地層推定断面図
図.2 地層推定断面図

水質試験結果(ヘキサダイヤグラム)
図.3 水質試験結果(ヘキサダイヤグラム)


4.考察

 調査結果より、源泉への地下水供給源は、図.4に示す3ケースが考えられる。

 図.4の泉源への湧出経路概念図に示すように、泉源への湧出経路にはヨコ方向が主体をなすという見方(A,B)とタテ方向が主体をなすという見方(C)に分けられる。

 ケース(A)は、地山全体に分布するクラック(節理、断層、その他地層の割れ目)に胚胎する地下水から供給されるケースである。これは、笹岡層の透水性が低いという事実から、クラック(節理、断層、その他地層の割れ目)に胚胎する地下水を源泉への供給源の一つと想定されるためである。

 ケース(B)は、砂岩層を通じて地下水が供給されるケースである。これは、S1層が源泉への供給源の一つとして想定されるためである。

 (A)・(B)ケースのようにヨコ方向の地下水の流れがある場合の切土による影響は、図.5に示すように考えられる。

 切土を行うと一般的に切土部周辺の地山の地下水位は低下する。しかし、B15-101孔付近の地盤は極めて難透水的であり、またコア状況からも割れ目が極く少なく、天然の止水壁が形成されているところから、この箇所より西側の泉源付近には切土による地下水位の低下は及ぶことはほとんどないものと考えられる。したがって、地下水がヨコ方向に流動する場合には、切土による源泉への影響はほとんどないものと考えられる。

 ケース(C)は、地下深部につながる割れ目を通じて深部の地下水が供給されるケースである。温泉の源泉は水平の開口割れ目より地表部に流出している。このような水平割れ目は、成因から連続性は短いものと考えられ、タテの割れ目とつながって、特に地下深部から多量の地下水を引き込むことが考えられる。調査結果から、笹岡層は難透水性であることが判明しており、層内全体の地下水流動は活発ではなく、むしろ地下水の動きを遮断するような役割を果たしている可能性がある。この場合、笹岡層の下位の地層に含まれる地下水は被圧されたかたちとなる。そして、断層のような地下深部につながる割れ目がある場合には被圧された地下水が上昇する水みちとなる可能性が高いものと考えられる。

泉源への湧出経路概念図
図.4 泉源への湧出経路概念図

ース(A)・(B)における切土による地下水への影響
図.5 ケース(A)・(B)における切土による地下水への影響


5.まとめ

 地下深部につながる割れ目を通じて源泉がもたらされる可能性が最も高いものと考えられるが、既往調査結果及び本調査結果より、源泉周辺には湧水経路とみなせるような断層や開口した状態のタテ方向の割れ目は確認されない。既往調査結果では切土部付近に断層が推定されているものの、断層露頭が確認されたわけではない。しかし、路線東側の丘陵地に地すべり地形が指摘されることから、地すべりの素因となる断層が何本か分布する可能性は十分にある。

 このような断層が切土部に出現する場合、特に、泉源の高さより低い箇所に出現する場合には、泉源の水を引き込むことが考えられるが、地下深部に賦存する地下水量が豊富であれば影響は少ない。

 切土部がこのような地下深部につながるような割れ目に遭遇しない場合には源泉への影響は少ないものと判断される。

 また、切土施工時には源泉の水量や水温を把握することが必要であろう。
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