土木地質株式会社  高橋 克実
36. 平成17年度(社)日本地すべり学会東北支部第21回総会、
特別講演会および討論会

 平成17年6月3日(金)、東北学院大学土樋キャンパス「押川記念ホール」にて標記の平成17年度(社)日本地すべり学会東北支部第21回総会、特別講演会および討論会が、110名の参加を得て盛会のうちに開催された。


-(社)日本地すべり学会東北支部21回総会-

 幹事長・千葉則行氏の進行により支部長・宮城豊彦氏の挨拶から始まり、平成16年度事業報告、同収支決算・会計監査報告、平成17年度事業計画、同予算案の審議が進められ、各議案とも原案どおり満場一致で承認された。

 支部長挨拶では、平成15年の2回の地震(三陸南地震、宮城県北部連続地震)、平成16年の北陸地方における集中豪雨、新潟県中越地震等により、相次いで自然災害が生じているとし、なかでも、地震による地盤災害は人工地盤や地すべり地形箇所で再現性をもったかたちで発生しており、当支部が中心となってマニュアル化に取り組んできた「地すべり地形の抽出とその危険度判定手法」によって、その検証を行いつつ、現在推し進めている「地すべり移動土塊の地表および地中の変形構造の研究」により、再現性を見抜くプロジェクトに発展させたいとの抱負を述べ、今回の特別講演会および討論会企画の主旨とされた。




−特別講演会−
「都市域における地震時谷埋め盛土地すべり」
京都大学防災研究所地盤災害研究部門
傾斜地保全研究分野 助教授釜井俊孝氏


  釜井氏は、「都市地盤防災論」をご専門とし、人工地形改変による危険斜面の斜面災害ハザードマップの作成等、ソフト的災害対策技術の開発に尽力されている。【1】都市域における不安定斜面の形成過程の解明および災害危険度の高い地域を予測するための地形・地質学的および水文学的研究、【2】人工地形改変斜面を構成する土の材料物性、斜面不安定化メカニズムの解明に関する研究、【3】地震・豪雨時における都市域斜面災害ハザードマップの作成手法に関する研究、【4】人工地形改変斜面の長期的な維持・管理・補修に関する研究、【5】地圏環境を考慮した合理的で安全な都市計画および土地利用に関する研究を主要テーマに精力的に研究されている。身近なところでは、三陸南地震による宮城県築館町(現栗原市)の「館下地すべり」や宮城県北部連続地震による宮城県河南町(現石巻市)の「西猿田地すべり」に、いち早く現地に乗り込み、地震災害の特徴・機構等を速報にまとめられている。

 講演は、「都市の下には凹凸がある」をキーワードに、地盤防災には人工地形改変に伴う谷埋め盛土が密接に関係するとし、各地に存在する大規模宅地盛土と過去における地震災害の事例や特徴等、豊富な研究資料をもとに紹介した。災害の発生予測に関しては、谷の地形(盛土の形状)によって変動したものと変動しないものの区別が必要で、揺れ方とすべり方の規定や側面の摩擦の影響をどうするかなど問題は多いが、導入したローラースライダーモデル、ニューラルネットワークモデルの予測手法で正解率95%の再現性を得ているとし、東京・横浜間の宅地(盛土)地盤にその予測モデルを適用した「地震時危険度予測マップ」を作成するまでに至っていると報告した。予測手法のさらなる高度化に向けては、強震動予測結果や宅地(盛土)地盤における間隙水圧観測結果をインプットすることの必要性を考えているとのことである。

 まとめを、谷埋め盛土の災害予測は出来つつあるが、それに対する簡便で安価な対策工法の開発が必要不可欠であるとし、今後は、都市に存在する谷埋め盛土以外の他の種類の災害(大規模盛土での沈下問題、急斜面の崖崩れなど)も包含した広域、総合的災害危険度評価が必要であると問題提起した。




-地すべり発表討論会-
「東北地方の大規模地すべりからみた地表および地中の変形構造」


 今回は標記課題に対するポスターセッション形式で行われた。平成15年度からの支部共同研究テーマ「地すべり移動土塊の地表および地中の変形構造」では、亀裂や陥没、地すべりブロックなどの地形形状から地すべり地の地中内部構造(すべり面や移動土塊深度、および破壊状況など)がどこまで読み取れるかを検討してきた。本ポスターセッションでは、これまでの研究成果と、平成16年度第43回地すべり学会研究発表会において東北支部が主体となって行った特別セッション「東北地方の大規模岩盤地すべり」の双方の成果を発表討論する場として企画された。
 会場では、発表者11名によるポスターおよび準備された資料を前に、参加者との約90分の質疑応答の時間が用意され、後半は参加者全員による総合討論会となった。ポスター前では活発な意見が飛び交い、それを外巻きで聞き入りながら盛んにうなずく参加者も居て、会場全体が熱気に包まれていた。

 総合討論会では、【1】なぜ東北地方の地すべりに大規模なものが多いのか、【2】移動土塊はどのようにして壊れていくのか、【3】地表の微地形形状は地中の内部構造をどのように表わしているのかを締めくくりとして討論された。

 最後に、副支部長・阿部真郎氏から、本共同研究の成果を地すべり発生の予知に生かしたいとの抱負が述べられ、閉会した。





発表題目および発表者-
*東北地方の大規模岩盤地すべりにおけるブロック形成過程
奥山ボーリング(株)阿部真郎・森屋洋氏


*大規模地すべり地の集水井で観察された地質構造とその成因
国際航業(株)高見智之・阿部大志氏、
奥山ボーリング(株)羽沢大樹・森屋洋氏


*秋田県東成瀬地域における大規模地すべり地形形成の地質的素因と谷地地すべりのすべり面
奥山ボーリング(株)森屋洋・羽沢大樹・阿部真郎氏、弘前大学 檜垣大助氏


*地すべり地の微地形と内部構造についての研究
弘前大学・院生小原嬢子氏、弘前大学檜垣大助氏


*狼沢地すべりで観察された地すべり移動層の層内褶曲
国土防災技術(株)小野由起光・山崎孝成氏(株)ダイヤコンサルタト 高野邦夫氏
秋田県雄勝地域振興局 村上雅美氏


*地すべり地における地形・運動特性・物質特性のリンク−秋田県狼沢地すべりを例に-
東北学院大学宮城豊彦氏、(有)アドバンテクノロジー濱崎英作氏
防災科学技術研究所内山庄一郎氏、東北学院大学・院生林一成氏


*東北地方グリーンタフ地域における大規模な地すべり地形の地形・地質条件
東北工業大学千葉則行氏


*大規模風化岩地すべりとしての秋田県・砥沢地すべり
奥山ボーリング(株)高橋明久氏、秋田県由利地域振興局、池田光晴・田村宏一・小林英貴氏


*火砕流台地で発生した大規模地すべり-銅山川地すべり
-
国土防災技術(株)、山科真一・鈴木亘・熊井直也・武藤剛氏、東北森林管理局江坂文寿氏


*頭部陥没帯の堆積物が語る地すべり活動履歴
基礎地盤コンサルタンツ(株)平田晴昭・西俊憲・樽石静氏


*大規模地すべり地内の小ブロックに関する考察
奥山ボーリング(株)山田孝雄・張馳氏
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