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はじめに 日本応用地質学会東北支部は、東北地質調査業協会の協賛をいただき、各種行事を精力的に展開している。 当支部活動の3本柱は「応用地質学に関する会員の技術の向上」、「会員相互の交流」、「社会貢献」であり、これらを達成するために、年度当初の総会にあわせての特別講演会・討論会、現場見学会、研究発表会、そしてシンポジウム(あるいは講習会)を開催している。 ここ数年、特に力点をおいている活動は、会員の持っている知的財産の強みを生かした「社会貢献」である。以下に、その活動成果の概要と今年度の計画を述べる。 ●平成14年度の活動 シンポジウム「地質を知り未来に生かす」〜強く美しい東北創造へ・地質工学からのアプローチ〜を開催した。基調講演では丸山孝彦教授(秋田大学)に東北地方全域にわたる地質の特性を概観していただき、田野支部長に「東北の地質工学」を展望していただいた。論文発表として地すべり・斜面崩壊・ダム基礎設計・活断層など地質に関連する自然災害全般が扱われ、パネル討論では応用地質学が地質工学と呼べるようになるにはどのようにすべきか議論された。これは応用地質学会員のみならず、直接の「ユーザー」でもある行政や事業者向けの発信も意識した企画であった。 ●平成15年度の活動 国の地震調査委員会によって近い将来高い発生確率が予測されている「宮城県沖地震」の地震防災を活動の中心に据えた。想定宮城県沖地震によって生じるであろう地質・地盤災害を減少させるために、学会として何ができるかを考え、応用地質学的な考え方や成果を、一般の非専門家の方々向けにわかりやすく伝えていこうという試みである。 平成15年11月、「迫り来る宮城県沖地震に備える」-今、あなたが居るところは大丈夫?-と題したシンポジウムを行なった。 「今、あなたが居るところ」でどんな被害の危険性があるのかを、地形・地質の知見からどれだけ分かるのか、それをもとにして災害を軽減できるのか、基調講演とパネルディスカッション形式で実施した。 この年偶然にも5月と7月に、宮城県北部を中心に被害が大きかった2つの地震が発生、さらに9月で十勝沖地震が発生したことなどから一般の方々の地震防災への関心は高く、支部単独の行事としては初めて参加者数が200名を超えた。 基調講演の題目は・阪神大震災の地盤災害と地形・地質からの教訓中川康一氏(大阪市大教授)・宮城県沖地震に備える地形・地質・地盤の知恵橋本修一氏(支部代表幹事)であった。 パネルディスカッションは上記2氏に風間基樹氏(地盤工学・東北大学教授)、源栄正人氏(耐震工学・東北大学教授)を加え、コーディネータは田野久貴氏(岩盤工学・支部長)が務めた。 ポスター展示も行なわれ、宮城県の地形・地質・活構造の概要、過去の地震での地盤災害、想定宮城県沖地震の予想規模と発生確率、そして1978年宮城県沖地震以後大きく変貌した仙台周辺の宅地開発状況と造成宅地の切盛地盤図(1/25,000)が展示された。 また、実行WGで新たに作成した「地震災害危険度チェックリスト」及び「地震だ!今いる道、帰る道大丈夫?」が配布された。 平成15年12月に産官学の統合的連携組織である「宮城県沖地震対策研究協議会」が設立された。さらに、16年度に入り、同協議会が実質的な母体となって組織された地域防災力高度化推進センターの提案が、国の「防災研究成果普及事業」に採択され、産官学共同による地域防災情報の共有化と防災力高度化戦略が本格的に動きだした。 また、国の地震発生予測に呼応して宮城県、仙台市のそれぞれの防災会議は被害想定を見直し、それに見合った地域防災計画、アクションプランも整備された。 ●平成16年度の活動 <特別講演> 前年度までの流れを受けて、平成16年5月、特別講演はTBC東北放送報道制作局・局次長の森雅一郎氏により「災害報道のあり方-初動と課題-」と題して行なわれた。 従来とは少し視点を変えて、学会所属の専門技術者集団が、非専門家との接点の代表として報道関係者の行動や考えを知っておくことは重要であるとの観点から講演を企画したものである。 講演の中で、TBCでは毎日、宿泊勤務者対象の10分程度の訓練及び年一回の大規模訓練など定期的な防災訓練を行なっていること、多様な情報収集手段として「タクシー防災レポーター」、沿岸の町に「ラジオ防災レポーター」を契約配置して広く情報を収集する仕組みを作っていること、NHKと民放の災害報道棲み分けの試み(たとえばNHK−安否情報、民放-生活情報に特化するなど)、会社を超えた「仙台ライフライン防災情報ネットワーク」の活動など、広域的な災害時報道の仕組みや工夫を知ることができた。 また、テレビ映像による地震報道では画像が強調されすぎ、被害が過大に受け止められた事例(2003年5月26日の地震における火事報道)もあったとのことで、適切に事実を伝えることがいかに難しいかとの話があった。翻って我々が専門用語、技術的な内容をマスコミ含めて一般の方々に誤解なく、的確に伝えるため、言葉の選定に注意を払うべきことを認識した。我々は通常は報道を受け取る側にいるが、災害時などでは、報道を通して技術情報を発信する立場にもなるからである。 <見学会> 平成16年9月、岩手県東山町及び川崎村を視察した。過去複数の洪水被災経験を持ち、ハザードマップも既に作られていた地域ではあったが2002年7月の台風豪雨により2名の死者・不明者、全半壊14棟などの災害が発生した地域である。 案内していただいた牛山先生(現・岩手大学)による「専門家としてベストで精確なマップを作ったつもりだったが、肝心の住民への周知がなされていないことに愕然とした」との解説が印象的であった。 技術屋としては正確無比な資料作成を至上命題とする癖がついているが、ハザードマップ、防災マップという実用的なものは、実際の災害発生時に、被災し混乱に陥った住民にいかに適切に利用してもらえるかが重要なポイントとなる。今後、地震防災マップの作成に寄与すべく活動している立場として、作成から周知までどこまで関与すべきか大いに考えさせられた。 <シンポジウム> 平成16年11月、シンポジウムは「宮城県沖地震に備える(その2)-ここはどれだけ揺れる?地域防災に役立つ地盤図、地質図の解読-」と題して、基調報告3編とパネル討論、動画を含めたポスター展示を行なった。 基調報告のタイトル、講師及び概要は以下のとおりである。 【1】地震被害想定について(中部大学非常勤講師・松澤宏氏) 【2】宮城県地震地盤図について(宮城県沖地震対策研究協議会・地域防災力高度化推進センターPM・塚原光氏) 【3】地盤図、地質図の読み方と防災マップへの反映(支部シンポジウムWG主査・高見智之氏) 【1】では、宮城県、仙台市から公表された被害想定の具体的な手順と結果、その受け止め方について解説された。被害想定はいくつもの前提を基にしたシナリオのひとつであり、地域防災のための被害の目安であること、いかに被害を減らせるかについては、一人一人の地震防災対策が大切であることが強調された。 【2】では地震被害想定の重要な基礎資料となった「宮城県地震地盤図」の作成過程、地域の地盤条件を知る方法について解説があった。【3】では、地震地盤図の詳しい読み方、最先端測量技術で読める微妙な地形の違いは地質の違いを反映すること、具体的な防災マップへの地質情報の取り込みなどが紹介された。 パネル討論では、上記3氏に加え、仙台婦人防火クラブ連絡協議会長の村主竹子氏、東北大学の遅沢壮一講師(構造地質学)、地質調査業協会の五十嵐勝技術委員長が参加した。 村主氏からは具体的な地震対応の防災マップを作られた経験談をうかがった。 遅沢氏からは最近、仙台近郊で発見された第四紀層を変形させる断層の最新情報について話題提供いただいた。五十嵐氏からは一般の方にはなじみの薄い地盤調査の方法と評価について、絵や写真を用いて平易に解説していただいた。なお、これらのシンポジウムで使用された資料は日本応用地質学会東北支部HPにて公開され、ダウンロード可能である。
●平成17年度の活動 <特別講演> 平成17年5月20日、総会時には、地震関連で大槻憲四郎教授(地殻変動学・東北大学)に「摩擦熱で自己制御された摩擦-摩擦溶融と地震性すべり-」と題した特別講演をいただいた。地震は地下深部のできごとで手にとることはできないが、その結果としてできた溶融した露頭、岩石のサンプルの検討からどのような考察が可能か、非常に興味深い内容であった。
<見学会・シンポジウムの予定> 宮城県沖地震防災関連の活動は今年度で3度目となり、一応の区切りとする予定である。これまでに蓄積した地震防災関連の知識レベルの統合を図り、より実用的な防災マップの作成に寄与できることを示したい。 9月10日実施の見学会では、2003年の地震で崩壊した宮城県北部の中生界及び新第三系における斜面崩壊の実際を見学する。 11月11日のシンポジウムでは、参加者をいくつかのグループに分けてDIG(災害図上訓練)形式で地質を理解してもらう企画を検討している。すなわち、モデル地区を選定の上、地質情報を地域地震防災マップに反映し、「揺れ易さマップ」として活用できる可能性をゲーム感覚でイメージしてもらうというものである。 さらに、シンポジウムの開催に合わせて、過去2回行なってきたシンポジウムにて提供した説明資料などを分かりやすい形で電子ファイル化して公開する予定である。これは、例えば学校での授業や地域の防災関連の講習などに利用されることも念頭においている。 おわりに 一般の方にはなじみが薄く、判読が難しいと思われがちの地質図、地盤図を実際に目に触れ、自分たちの地域の地図に書き込むことにより、より親しみを持ってもらいたい。同時に、地域の強みや弱みを客観的に判断する有効な手段となることを理解してほしいと願っている。 防災マップは誰かが作成したものを受け取って、家の壁に貼り付けて終わりにしては、理解が浅いままである。実際にマップを持って自ら歩いて確かめ、状況に応じて改良を重ねていく過程で理解が深まる性格のものである。最終的にはマップの内容が各人の頭と体に刷り込まれ、「その時」には図面を見なくてもすみやかな避難行動から、的確な救援活動、応急復旧活動がとれるようになってこそ本物となる。 その際、応用地質学の知識・知恵が盛り込まれたマップがひろく活用され、地震防災・減災に役立ってもらえれば幸いである。(文責代表幹事橋本修一) |
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