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「ギョウジャニンニク」何という不思議な植物、不思議な山菜であろう。私の住んでいる大仙市の、通称西山周辺に生えているこの植物は子供の時から山奥で育ちほとんどの山菜を知っているつもりの私にとって唯一知らなかった、食べたことのない山菜である。これがそれほど大した山とも言えない西山に生育していることが、まず理解できなかった。そしてあの味覚、ニンニクに似てニンニクではない、ニラにも似ているが違う。葉をとってもんで臭いを嗅ぐとまさしくニンニク臭、おひたしや油炒めをするとニラによく似てあまみがある。生のままきざんで納豆に入れるとこれもまたうまい。 ギョウジャニンニクの分布は、本州の近畿以北、北海道、千島、サハリンなどとされており秋田県内では森吉山系、八幡平山系、男鹿半島等の海岸と大仙市の西山地帯などに確認されている。北海道では代表的な山菜の一つで湿地や林床などに多く、本州では深山の沢沿いとその斜面に多い。しかしながら、秋田県における生育はかなり限られており1000m2前後の群生地もあるが一般には小規模な群落状に生育していることが多い。発芽してから採取適年までは5〜6年かかるとされ、自然条件における増殖力が弱いので採取時には鱗茎まで抜いてしまわないよう注意が必要である。近年ではスーパーマーケットなどに早春の山菜として売られているが大量に採取することは資源保護の観点からも慎むべきである。現に男鹿半島や大仙市の西山は減少が著しい。 北海道では10年以上前から栽培が行われており、スーパーのものは天然ものではないかもしれない。 さて、寒冷地を好みその多くが深山にあるとされるギョウジャニンニクがなぜ大仙市の西山に生育しているのか、大きな興味を覚えるのは私だけだろうか。西山はせいぜい標高300m前後で、他にも近似した環境があるのになぜかこの周辺だけに生育している。これは素人考えであるが、上流からのタネが水流により運ばれ分布を広げたものが世代をつなぎながら現在も生き続けている可能性が高いと推察した。 そこで、イワナ釣りの傍らあっちの渓、こっちの渓と歩くうち標高600〜800m程度の沢の小規模な河岸段丘に数ヶ所の生育場所を見つけることができた。ただし、見つけるのはイワナ釣りをしている自分ではなく山菜採りをしながら遅れて沢を歩く妻の方であり、時にはネギボウズ状の花を見つけたりもする。 8月を過ぎると葉が黄色になり、やがて倒れて見つけることが難しくなる。今年の4月中旬に、まったく初めての場所で湿地を流れる小渓の岸辺に生育するナラの大木の根本に群生していたものを見つけたが、そこだけ雪が消えた木の根元の緑には本当に感動した。 ギョウジャニンニクの名前のいわれとして行者やマタギとの関連を記述した書籍が多いが、実際に深山をよく知っているマタギの方達は一般の釣り人が入らない奥山のギョウジャニンニクの生育地をよく知っており、熊捕りに何日も山に入った時などの貴重な食料として利用していることを知った。この方達は絶対に乱獲をせず増やしながら利用している。私は一年のうち、3月の雪解けの頃から11月の新雪が降るまで特別なことがなければ半日でも山や渓に入る。雪解けの谷地アザミやギョウジャニンニク、5月の連休頃からの山菜採りやイワナ釣り、9〜11月のキノコ採り。時には新雪の下に新しい芽を出しているワサビも採る。私にとって山は仕事や社員、家族と同格に位置する大事なものであり山に行くことで自分の生が実感できると思っている。今後も健康に留意しながら、そしてマタギの方達同様、節度を守りながら山を楽しみたいと思っている。
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