(株)日本地下探査 事業推進本部  今里 武彦

東北事務所  神馬 幸夫
05.物理探査の動向と適用(1)
-土木分野と地震防災への適用例-

はじめに

 物理探査とは、目で見ることが出来ない地下を探査目的に応じて可視化する技術です。すなわち、物理探査とはターゲットの地質スケールおよび探査深度に対応して、高感度の振動計、電場センサ、地場センサなどの各種センサを用いて地表に表れる物理現象を高精度に計測し、さらにデータ処理した後、数学モデルに合致したイメージを創り上げる最先端の診断技術です(1)。

 従来、物理探査は石油や金属鉱物資源および地下水資源などの資源探査を目的に発達してきましたが、現在では資源探査のみならず、土木・耐震・環境・メンテナンス・遺跡探査分野などにも適用されるようになりました。また、エレクトロニクスやコンピュータの発達に伴い、測定器はコンパクトになると同時に、1度に大量のデータを取得することが可能となりました。取得されるデータはアナログからデイジタルへ変わったことにより、計算処理へのアプローチ時間が短縮され、処理時間も飛躍的に向上しました。

 そのため、探査領域も二次元から三次元探査(石油探査の分野では現実化しているものの、コストの問題で土木分野では研究段階といえるでしょう)へと拡張されつつあります。
 解析した結果についても、白黒の画像からカラー表示となり、発注者へのアピール度も向上してきました。
 特集では石油や金属資源を除いた、土木、防災分野、メンテナンス、環境、地下水・温泉資源探査、遺跡探査分野への物理探査の適用についてご紹介したいと思いますが、紙面の関係で今回は、土木分野と防災分野の地震防災に対する適用について述べたいと思います。


1.物理探査の手法

 物理探査は4つの場、すなわち(1)ポテンシャル場、(2)弾性波動場、(3)拡散場、(4)電磁波動場を、それぞれの場に応じたセンサを用いてその物理量を測定し、解析処理することで地下を可視化します。
 (1)ポテンシャル場では地中に流した電流によって生ずる電位や重力、(2)弾性波動場では弾性波速度や速度境界からの反射波、(3)拡散場では地温やγ線、(4)電磁波動場では電磁波の反射や電場・磁場を測定します。表1-1に地質調査でよく使われている物理探査手法をまとめます。
 本編では表1-1の各個別要素技術の説明ではなく、調査目的に応じてどのような探査手法が利用されているかを紹介します。

表1-1 土木分野でよく利用される物理探査手法


ポテンシャル場 弾性波動場 拡散場 電磁波動場
【1】電気探査比抵抗法
(垂直電気探査
・比抵抗二次元探査
・比抵抗トモグラフィ
・電気検層)
【2】自然電位測定
【3】IP 法
【4】流電電位法
【5】磁気探査(検層)
【6】重力探査
【1】弾性波探査
【2】弾性波トモグラフィ
【3】反射法地震探査
【4】VSP
【5】表面波探査
【6】微動探査
【7】常時微動測定
【8】速度検層(PS 検層など)
【1】地温探査
【2】自然放射能探査
【3】温度検層
【4】密度検層
【1】地中レーダ
【2】CSAMT 探査
【3】電磁波トモグラフィ
【4】EM 探査


2.土木分野(ダム・ため池・トンネル・道路)

 トンネル・ダム・道路(取り付け)の調査では、地質構造や断層破砕帯および地山強度を把握する目的で、従来から弾性波探査が実施されています。弾性波探査は図2-1に示すように測線上に受振器を展開して、測線から遠方に離れた遠隔・測線の両側・測線内で発破(もしくは、ハンマリング)を行い、地表や地中を伝播してきた直接波や屈折波を測定して、それらから初動走時曲線を作成し、「萩原の方法(はぎとり法)」と呼ばれる方法によって解析しています。近年では、詳細構造を把握するために発震を多数設けるとともに、発震・受振点を地表のみならず測線上のボーリング孔内にも設け、解析はトモグラフィと同じように初期モデルを与えてインバージョンによって最終モデルを決定する高密度弾性波探査が実施されるようになり、速度断面図も図2-2に示すようにカラー表示できるようになりました。

弾性波探査測定概念図
図2-1 弾性波探査測定概念図


弾性波探査出力例
図2-2 弾性波探査出力例


 トンネル掘削の場合、断層破砕帯からの出水が問題となります。3成分(水平方向2成分と上下動1成分)受振器をトンネル坑壁面に設置し、切羽の発破によって発生した弾性波を受振して、トンネル前方から反射してきた反射波を抽出処理することで、図2-3のように前方の断層破砕帯の位置を把握する技術2)が実用化されています。

トンネル前方探査の結果例
図2-3 トンネル前方探査の結果例

 また、近年では探査手法も弾性波探査のみならず、水理地質的構造や変質帯の把握のために二次元比抵抗探査も活用されています。かつては、地下の二次元的な比抵抗構造は、水平探査による見掛比抵抗でしか表現できませんでしたが、インバージョンによって図2-4のように地下の真の比抵抗を二次元的に求めることが可能となり、地表踏査やボーリングの結果と併せて地質構造を解釈できるようになりました。ダムやため池などでは漏水対策として、道路や埋立地などの造成地盤においては地盤改良を目的として、グラウト・薬液注入などが行われたりしますが、これらの効果判定もしくは改良範囲の特定に比抵抗二次元探査(主に範囲の特定)や弾性波探査(主として強度が増す場合の強度変化)などが利用されます。

比抵抗二次元探査の結果例
図2-4 比抵抗二次元探査の結果例


 更に、断層破砕帯が密集するような場所では、より詳細な構造を把握する必要が出てくる場合は、弾性波や比抵抗および電磁波トモグラフィが実施されています。トモグラフィは、図2-5に示すように2孔のボーリング孔や孔間の地表、地表と横坑など探査対象エリアを取り囲むようにセンサやソース(弾性波の場合は震源、比抵抗の場合は電流電極、電磁波の場合は送信器)を置き、エリア内の構造を調べる手法で、医療で使われているCTスキャンのようなものです。


比抵抗トモグラフィ測定概念図
図2-5 比抵抗トモグラフィ測定概念図


3.防災分野(地震・地すべり・空洞・不発弾)

3-1 地震防災
 地震による被害を低減させるためには、地震の発生源である活断層の場所を特定すること、また対象地においては地震時の地盤や構造物の挙動を把握する必要があります。地震時の地盤や構造物の挙動を把握するには、地盤の構造、特にS波速度の構造を調べたり、共振の有無を調べることが重要となってきます。ここでは、活断層調査とS波速度構造および地盤の固有周波数(逆数は周期)を調べる方法について述べます。

3-1-1 活断層調査
 地震調査研究推進本部では活断層位置の特定と地震発生に関する評価などの作業を行っていますが、断層位置の特定では主に反射法[地震探査(以下、反射法)]が利用されています。反射法は、諸種の方法により弾性波を発生させたとき、地層中を伝播して地下の反射面からの反射波を適当な受振器展開により受振・記録して、その記録を処理および解析することによって反射断面を作成し、走時・速度・振幅や波形変化などを解明することで地下の地質状況を探査する方法3)です。
 図3-1は大坂の上町断層を検出4)した例で、断層位置(矢印)では反射パターンが不連続になっているのがわかります。
 地下数kmまでの探査の場合はバイブレータなどの強力な震源が必要となるため、市街地での適用には困難を伴うことがあります。
 次に、放射能探査による方法について述べます。放射線は宇宙からだけではなく地下からも射出されています。射出される強度は、断層破砕帯(開口性)が存在する場所ではそうでない所と比較すると相対的に大きくなります。この強度分布を平面的にマッピングすることでも、概略の位置を推定することが可能です。
 かつては、シンチレーションカウンタによる全強度測定を行っていましたが、γ線スペクトロメータを使って全強度およびBi(ビスマス)、K(カリウム)、Tl(タリウム)の強度を抽出して、Bi/KやTl/Kなどを求めてランク分けしてマッピング(図3-2参照)するようになりました。また測定する方法には、人が歩いて測定するマンボーン、車に測定器を搭載して測定するカーボーン、ヘリコプターを使って広範囲を調べるヘリボーンなどがあります。
 活断層を検出する方法には、他に比抵抗二次元探査や弾性波探査なども利用されています。

3-1-2 S波速度構造調査
 地震による揺れは震源特性・伝播経路・構造物の振動特性に左右され、特に伝播経路である地盤の良し悪しが被害と密接に関係するようです。
 地盤を伝播するS波速度は、軟らかい地盤では小さい値を、固い地盤では大きな値を示し、ボーリングのN値と両対数上で比例関係にあり、地震時の地盤の挙動を把握するための重要なパラメータになります。
 地震時の地盤の挙動を予測する方法に応答計算があり、全応力・有効応力解析などのプログラムが公表されています。
 かつてはS波速度が300m/sec以上の層を工学的基盤として、この速度層に地震波を入力し、地上での応答を計算していましたが、近年では固有周期の長い長大構造物(橋、建物など)が建設されるようになり、地震基盤であるS波速度が3km/secの層までの構造も必要となってきました。
 S波速度構造を把握する方法には、ボーリング孔を利用した速度検層(PS検層)が一般的ですが、前述のようにS波速度3km/sec層までの構造を調べるためのボーリングには模大な費用がかかるため、微動を利用した微動探査法があります。
 また、表層地盤は人工改変によって非常に複雑で、かつ地震波の増幅を大きく左右する部分であるため、表層地盤のS波速度構造は平面的に高密度に調べる必要があります。しかし、ボーリングのみでの調査は経済性・施工性を考慮すると非常に困難となります。表面探査は、手軽に表層のS波速度を求めることが可能で、ボーリング調査と併用することで、高密度にS波速度を把握することが可能となります。
 ここでは、S波速度構造を把握する方法(速度検層・微動探査法例えば5)・表面波探査法)について述べます。

(1)速度検層(特にPS検層)
 PS検層は、ボーリング孔を利用して地盤のP波とS波の速度構造を高い精度で求めることができます。ボーリング孔内に地震計を圧着させ、地上で発生させたP波やS波をある間隔で測定するダウンホール法(図3-3参照)と、孔内に漂遊型の震源と地震計を挿入して圧着することなく、孔内発震・受振を行うサスペンション方式(図3-4参照)があります。
 サスペンション方式はダウンホール法に比べて高精度で効率的な方法ですが、孔内に水が無い場合は測定が出来ないことと、ケーシング部分での測定が不可であること、ゾンデが非常に長いため5m程度の余掘りが必要なこと、孔壁が崩れた場合には回収が困難でリスクが高いことなどの不利な面もあります。ケーシングが無い部分や地下水位以深ではサスペンション方式、ケーシングがある部分や地下水位以浅ではダウンホールといったように2つの方法を併用する場合もあります。
 現在使用されているサスペンション方式では、耐圧の限界から深度500mまでが可探深度となっており、深度数100〜1000m程度までを調べる場合はダウンホール法が利用されます。浅い部分は板たたきで対処できるものの、深くなるにしたがい写真-1のようなドロップヒッタや図3-5のような重機を利用した大型震源を利用します。
 なお、密度検層を同時に行って地盤の密度を明らかにすることにより応答計算に必要な動弾性係数を計算することが出来ます。

(2)微動探査法
 微動探査法は、深層部までのS波速度構造を大略的に決めるために利用されています。  地面は人が生活することにより発生する振動(電車、車、工場など)や自然発生による振動(波浪、風による樹木等のゆれなど)で体には感じませんが常に揺れています。この揺れ(振動)を常時微動といいます。微動探査は図3-6に示すように円形の円周上および中心点の地上に地震計を配置して微動を測定し、この微動に含まれる表面波成分の位相速度を複数の周波数について求め(表面波の位相速度は周波数によって異なるため、位相速度と周波数の関係を表したものを、分散曲線といいます)、S波速度構造を仮定して理論的に計算される分散曲線(理論分散曲線)と観測された分散曲線(観測分散曲線)がある程度一致するまで、S波速度構造を変えながら計算を繰り返します。両方の分散曲線が、図3-7に示すようにある程度一致した構造をその場所のS波速度構造とします。地震計は固有周期5〜10秒程度のものが利用され、最低4台が必要となります。

(3)表面波探査法
 表面波探査は、比較的浅部のS波速度構造を効率的に求めることができます。表面波探査は起振器を用いる方法7)と、弾性波のように地表に多チャンネルの地震計を並べてハンマリングで発生した波動の表面波を利用する8)タイプがあります。
 起振器を用いる方法は、起振器を振動させる周波数を任意にコントロールして、伝播する表面波の位相速度と深度の関係を取得し、簡便な解析方法9)を利用して、S波速度構造を求めるものです(図3-8参照)。
 測定はボーリングと同じように地点毎の探査ですが、各測定地点で求められたS波速度構造を横に並べて図3-9に示すように二次元的な表現が出来ます。探査深度は、地盤の硬さによりますが概ね20m程度で、1地点の測定時間はノイズが少ない所では15〜20分程度です。また、この方法では求められた地盤のS波速度構造を基にして、液状化の予測10)11)や埋設管の被害予測12)への適用も試みられています。
 ハンマリングによる方法では、取得されたデータをCMP重合して分散曲線を求めて、インバーションによってS波速度構造を二次元的に表現する方法です。

3-1-3 地盤の固有周波数
 構造物の揺れを大きくする要因に共振現象があります。構造物のみならず、地盤にも固有周波数があり、両者が一致する場合は共振が起こり、構造物が大きく揺れて被害が発生します。地盤の固有周波数は地盤のS波速度構造に左右されS波速度構造からも推定できますが、前述した常時微動を測定することで明らかとなります。
 通常、図3-10のように地表と支持層もしくはその途中に地震計を圧着させ、常時微動を数10分測定し、その中から突発的なノイズがない連続した部分を40秒ほど抽出して周波数分析を行います。周波数分析の結果は図3-11のように周波数と振幅の関係で表わされ、振幅が一番大きい時の周波数が一次固有周波数(逆数が一次固有周期)、二番目に大きい時の周波数が二次固有周波数(同二次固有周期)となります。
 一般に、軟弱層が厚くなると固有周波数は小さくなり、軟弱層がない岩盤地帯では大きくなります。そのため地盤種別にも利用され、地表と支持層もしくは途中で測定することにより増幅特性を計算することができ、地震時の増幅特性(ただし線形)を推定することができます。


図3-1 反射断面

比抵抗トモグラフィ測定概念図


図3-2 自然放射能強度分布の一例

比抵抗トモグラフィ測定概念図


図3-3 ダウンホール法測定概念図

比抵抗トモグラフィ測定概念図
図3-4 サスペンション法測定概念図

サスペンション法測定概念図


図3-5 重機を使った大型震源(S波用)

比抵抗トモグラフィ測定概念図
図3-6 地震計の配置

地震計の配置


図3-7 微動探査の解析結果6) [ 上段:観測分散曲線(黒丸)と理論分散曲線(実線)中段・下段:推定されたS波速度構造]

重機を使った大型震源(S波用)


図3-8 表面波探査の測定解析結果[ 測定結果(黒丸)・解析結果(実線)]

表面波探査の測定解析結果[ 測定結果(黒丸)・解析結果(実線)]


図3-9 S波速度断面図の一例

S波速度断面図の一例


図3-10 常時微動測定概念図

常時微動測定概念図


図3-11 周波数分析結果の一例

周波数分析結果の一例


写真-1 ドロップヒッタ

ドロップヒッタ


<参考文献>

1)   (社)物理探査学会編著:新版 物理探査用語辞典、2005,5.
2)   山田知也・芦田 譲・岩崎博海・松岡俊文・渡辺俊樹:複数成分データを用いた等走時面によるトンネル切羽前方探査、物理探査学会第100 回学術講演会論文集、pp.11-15 、1999,5.
3)   物理探査学会:新版物理探査用語辞典、愛智出版、2004,5.
4)   杉山雄一・吉沢正夫・廣岡知・横田裕・伊藤信一・林和幸・鮎沢秀美:大阪・上町断層の反射法弾性波探査、第96 回(平成9 年度春季)学術講演会講演論文集、物理探査学会、98-102.1997,5.
5)   MATSUSHIMA,T.and H.OKADA:Determination of deep geological structures under urban areas using long- period microtremores,BUTSURI- TANSA,43,21-33,1990.
6)   山本英和・小渕卓也・大橋玄昌・岩澤拓郎・佐野剛・齋藤徳美:盛岡市における三成分アレー微動観測によるレイリー波ラブ波の両位相速度を用いた地下構造推定(2 )、第102回 (平成12年度春季)学術講演会講演論文集、物理探査学会、125-129,2000,5.
7)   物理探査学会編:物理探査ハンドブック、214- 216,1998.
8)   鈴木晴彦・林 宏一・信岡大:表面波を用いた地震探査-人工振原を用いた基礎的実験-、第102 回(平成12年度春季)学術講演会 講演論文集、物理探査学会、62- 65,2000,12.
9)   高屋正・小島正和・今里武彦・服部定育:S波速度決定表面波探査の有効性、第8回日本地震工学シンポジウム、789- 794,1990.
10)   高屋正・今里武彦・服部定育:物理探査による液状化予測、第8 回日本地震工学シンポジウム、837-841,1990.
11)   服部定育・後藤典俊・小関賢祐・高屋正・今里武彦:小都市地域における地震災害の予測と対策その2 :室蘭市港北地区における液状化予測、地震学会、地震、第2輯 第45巻、157-167,1992.
12)   今里武彦・高屋正・服部定育:埋設管の震害予測、第9 回日本地震工学シンポジウム、2107-2111,1994.
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