連載第7回

byロッキー鈴木

40.Between Cinema & Geology

 Take me out to the ball game

 降って湧いたような新球団騒動でしたが、結局「東北楽天ゴールデンイーグルス(長いな)」が仙台に誕生、2軍は山形に、ということになりました。

 私としては、ナベツネとのコネをひけらかす楽天三木谷よりも、ライブドアのノータイ堀江を応援していたのですが、先日、初めて六本木ヒルズを見て、あの『スターウォーズ』のようなビルの最上階の家賃270万円の部屋でタレントをはべらせてブランデー飲んでる堀江氏の姿を妄想したとたん、理不尽な怒りがどうしようもなくこみあげてくるのを押さえることができませんでした。人はこれをジェラシーと呼ぶのでしょうか。

 それにしても、甲子園やプロ野球での宮城はじめ東北勢の活躍と併せ、野球の分野では、いやバスケの田臥がNBAへ、バレーの東北パイオニアは吉原・佐々木に加えてメグ栗原まで入団、卓球の愛ちゃん大活躍すればゴルフの愛ちゃんもスーパースターに、フィギアスケートでは荒川・本田、スピードスケートでは加藤・小林、大相撲でも人気No.1は『ロボコップ』高見盛と、スポーツ界はすでに地方分権大成功、今こそ東北の時代だ!と声を大にして言いたい状況となりました。めでたしめでたし。

 何かと野球が話題の昨年でしたが、目を亜米利加に転ずれば、日本メジャーリーガーの活躍ももの凄く、もちろんプレーオフでヤンキースの4番を打つ! という『ゴジラ』松井をはじめ、各選手それぞれに持ち味を発揮、もはや日本は大リーガーの主な出身地のひとつといっていい感じです。大リーグ帰りの新庄の『スパイダーマン』のパフォーマンスも最高で、日米相方にいい影響が出ています。

 こんな日米同盟なら、どんどんやんなさい。

 しかしこの人、イチロー選手の場合は、単に「ニッポン人、異郷に勇飛す!」といった次元の活躍ではないようです。

 「メジャーの華はホームラン、700ホーマーのボンズと、足で打率を稼ぐイチローを同列には語れない」という声はよく聴きます。観客はお金を払って内野安打を見にくるのではない、という訳です。またイチローの場合、チーム事情もあり(他のバッターがあまりにも打てない)、チームバッティングとも無縁、フォアボールも少なく、求道者のごとくひたすら安打を増やすだけ、という面も否定できません。

 しかしです。ピッチャーがふりかぶって投げる唸りを上げるようなストレートを、バッターが思いきりひっぱたく。一転、猛スピードで緑のグランドをつき抜けていくボールを、内野手がダイブしてグラブに収める。すばやく起き上がり、しなやかな身のこなしから矢のような送球、しかし間一髪「アウト!」野球本来のスリリングなプレーの魅力を再び思い出させてくれた選手として、イチローはやっぱりスーパースターと呼ばれる資格がありあそうです。

 さて、イチローがジョージ・シスラーの最多安打記録に近づくにつれ、自らの記録に並ばれ、抜き去られていくいにしえの名選手たちの名が連日、新聞紙上を賑わせました。そのほとんどが20世紀前半のメジャーリーグ草創期の大選手たちで、こういう話題を提供したイチローは、それだけでも野球文化への貢献大である、といえそうですが、さて、その名前の中に、ホワイトソックスの名左翼手、ジョー・ジャクソンの名前がありました。

 恵まれぬ少年期を野球だけを希望に生きてきたジャクソンは、マイナーリーグでのある試合で、靴が足に合わぬと裸足でプレーしたことで、生涯「シューレス・ジョー」と呼ばれるようになりました。

 1919年のワールドシリーズ、シンシナティ・レッズと対戦したシカゴ・ホワイトソックスは、絶対優位の前評判を取っていました。最終第8戦を落とした後、主力8選手が八百長に手を染めていたことが発覚、永久追放処分を受けてしまいます。背景には、オーナーが不当に多くの利益を受け取り、現在の大リーグとは異なる不利な条件を押し付けられていた選手側の不満があったそうですが、大リーグ歴代3位の高打率を残している、好守強打の名選手、シューレス・ジョーも、この事件に連座に、球界を去りました。世に云う「ブラックソックス事件」です。

 事実が確定してシカゴの裁判所を出るジャクソンに、一少年が呼びかけたとされる「Say,it ain't so,Joe!」(嘘だといってよジョー!)は、ファンの純粋な気持ちを表す言葉として事件そのものより有名になり、「シューレス・ジョー」の名を人々の記憶にとどめる原因にもなりました。

 ある日聞こえた「それを作れば、彼がまた来る」という不思議な声に応えて造ったトウモロコシ畑の野球場。ある夜、ナイターの照明に浮かび上がったのは、失意のうちにこの世を去ったはずのシューレス・ジョーの勇姿だった――――。

 W・Pキンセラによる現代の偶話、「シューレス・ジョー」を原作にしたのが、『フィールド・オブ・ドリームス』。主演ケビン・コスナーの代表作です。狂気とも思える主人公の行動を助ける作家は、映画では黒人の設定ですが、原作ではなんと!「ライ麦畑でつかまえて」のサリンジャーなのである。大胆なのである。

 ラスト、野球に熱中する「アンラッキー・8」を観るため球場にやってくるヘッドライトの長い列。いやー、野球っていいですね、というこれは傑作。

 ロバート・レッドフォード監督・主演の『ナチュラル』もシューレス・ジョーがモデルらしい。しかし、こちらはレッドフォードがちょっと空振り気味で、ナチュラルさでは『フィールド〜』が上。

 昔は『打撃王』『甦える熱球』など、ジャンルとしての野球映画が盛んだった時代もあり、大スターが大スターの役をやっていました。最近ではテータム・オニールがけなげな『がんばれ! べアーズ』(最近でもないが)、続編に脇役で出た「とんねるず」の石橋貴明の納税金額からハリウッドのけた違いの出演料が明らかになったチャーリー・シーン主演『メジャー・リーグ』、トム・セレック演ずる大リーガーが何と! わが中日ドラゴンズの助っ人として来日、ドラゴンズ監督が高倉健という嬉しいようなナニなような『ミスターベースボール』、ロバート・デ・ニーロが大リーグのスター・ウェズリー・スナイプスのストーカーとなるスリラー『ザ・ファン』といったところがアメリカ野球を描いています。往年のスターを扱ったものとしては『タイ・カップ』『ザ・ベーブ』などがあります。

 さて、山形市は七日町に「安愚楽」という店があり、週末の夜ともなると店主節っちゃん中心に映画の話で盛り上がるのですが、中でもハンク・大木氏は、本業の地方紙のレイアウトの後、深夜一杯ひっかけ、翌朝はメジャーリーグの衛星放送が目覚ましがわりで趣味は映画ソフトの収集という、野球映画の鉄人。ハンク氏のコレクションから5点を紹介していただきました。

 ハンク氏推薦のNo.1は、これもケビン・コスナー主演、ロン・シェルトン監督の『さよならゲーム』。新人投手ティム・ロビンスの教育係である捕手・コスナーは、チームで唯一、メジャーの経験がある。「メジャーでは移動中、道具は自分で運ばない」という話をマイナーの選手たちが目を輝かせて聞く。マイナー選手の生態がいい。ロビンスは野茂ばりのトルネード投法、いいセンいっている。

 『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』これもコスナー。監督は性格俳優でもあり、『スパイダーマン』も撮った、サム・ライミ。

 デトロイト・タイガースの40歳の大投手コスナーが、ヤンキースタジアムで引退をかけて、完全試合に挑む。試合の進行と回想が並行する、臨場感あふれる傑作。

 コスナーのピッチングはプロ並み、キャッチャー役のジョン・C・ライリー(『シカゴ』で意外な美声)以下、野球達者で作った、野球映画の決定版。

 『エイトメン・アウト』。先に書いた「ブラックソックス事件」の内幕。加担を拒否したにも関わらず、報告を怠ったとして追放されるバック・ウェーバー(ジョン・チューザック)の悲劇。オールドファッションド・ベースボール。

 『オールド・ルーキー』。デニス・クエイド演ずるジム・モリスは、周囲の声援で、35歳にしてメジャーリーガーとなる。実話。

 『プリティ・リーグ』これも実話が基。

 大戦中行われていた女子リーグの奮戦。

 選手は正統派美女ジーナ・デービス、マドンナ他。監督はミスター・ハリウッド、トム・ハンクス。

 番外編は『さらば愛しき女よ』。ロバート・ミッチャム扮するフィリップ・マーロウ、事件の経過とジョー・ディマジオの連続試合安打がシンクロしていく。
 うーん、渋いぜ、スリーピング・アイ!
(イラストレーション:古川幸恵)
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