国際航業(株)shamen-net 事業部   岩崎 智治

岩崎 智治

09.地質調査でのGPS計測の利用(2)−GPS計測の事例と留意点−

1.はじめに

 前回は、GPS計測の方法・種類、最新のGPS計測システム等を紹介しました。第2回目の今回は、地質調査分野でのGPS計測の事例と実際の計測を行う際に留意すべき点についてレポートします。なお、これらは既に学会等で発表した内容を中心にしましたので、詳細を知りたい向きには巻末の参考文献をご覧ください。


2.GPS計測の事例

 紹介するGPS計測の事例は、(1)トンネル坑口の地すべり計測、(2)既設道路のり面監視の2つです。これらは、前回紹介した最新のGPS自動計測システムを使用しています(図1)。詳細については前回の講座1)を参照ください。

図1   図1 最新のGPS

自動計測システムGPSで受信したデータは監視センターへ送られて解析処理し、結果をインターネットで斜斜面管理者へリアルタイム配信される
なお、今回紹介する事例はすべて次のような条件で計測しました。



<計測条件>
システム:GPS自動変位計測システム
測位法:スタティック測位(静的干渉測位)
データ取得間隔:30秒
解析間隔:1時間(1時間に1点の計測値を得る)

 別の測位法(例えばRTK測位)や解析間隔を採用した場合には計測精度が異なりますが、十分に参考になると思います。


(1)トンネル坑口の地すべり計測2)3)

 計測地は高速道路トンネル坑口付近の地すべり地帯で、多数の地すべりブロックが確認されています。GPSセンサーは比較的小規模なブロック内に3基(G-1〜3)とその下方に2基(G-4〜5)を配置しました。

写真1   写真1 地すべり地でのGPS センサーの設置状況

 計測点G-1〜G-3の設置状況を写真1に示します。なお、基準点は、地すべりブロックから約300m離れた不動地盤上に設置しました。

 G-2はGPSセンサー上空の視界が良く、良好な計測が行えました。図2にG-2の計測結果を示します。図中の実点は通常のGPS基線解析を実施した状態の計測値(誤差処理前の値)で、実線はトレンドモデルで誤差処理を行った後の結果です。図のように、誤差処理後の計測値はバラつきが殆ど無く、水平方向は1mm程度、高さ方向は2〜3mm程度の精度で地盤変位が検出できます。

 図3にG-1の計測結果を示します。G-1の上空には落葉樹の枝が張出し(写真1)、GPSセンサーの上空視界が遮蔽されるため、G-2の計測結果に比べると実点で示した誤差処理前の計測値のバラつき(誤差)が大きいことがわかります。

 G-1で特徴的なのは、樹木の繁茂期には計測値のバラつきが大きくなり、計測精度が悪化していることです。しかし、トレンドモデルを用いた誤差処理を実施すると図3の実線となり、落葉期や繁茂期に関わらず明瞭な精度向上が認められます。

このように、最新のGPS計測技術によれば、G-1程度の上空視界であれば、実用的な計測精度が得られます。ただし、上空視界が更に悪い場合には相応の精度悪化が予想されるので、GPSセンサーの設置時にはセンサー上空の視界に十分な注意が必要です。

図2   図3
図2 G-2の計測結果
(上から、NS方向、EW方向、高さ方向の変位グラフ)
  図3 G-1の計測結果
(上から、NS方向、EW方向、高さ方向の変位グラフ)


(2)既設道路のり面監視4)

上記(1)の現場では、図1に示したGPS計測機器を使用しており、現場内のGPSセンサーをケーブルで繋いで電源とデータ通信を確保しています。このようなケーブル配線タイプは部品点数が少ないため、故障が少なく、機器費用が安価になるメリットがあります。その反面、現場周辺が停電した際には、GPS計測システムが停止し計測ができなくなります。

 そこで、GPSセンサーに太陽光発電装置(ソーラーパネルとバッテリーからなる)とSS特定省電力無線機を追加し、各計測点が自立した電源とデータ通信を備えるタイプも開発されています。図4、写真2に、既設道路のり面に設置した自立電源・通信を備えたGPS計測機器を示します。

この現場では、のり面内にGPSセンサーを3基と、道路脇(写真右奥)に基準局1基を設置しています。GPS計測データはSS無線で通信集約局に集められ、電話回線で監視センターへ送信され解析処理・インターネットによる計測結果の配信が行われます。計測精度や解析方法は前項(1)と同じです。

 このタイプなら、地震や台風等で停電してもGPS計測システムが停止することがなく、常に計測が継続されます。しかし、計測機器費用が前項(1)に比べて2倍近くになることと、故障対応や機器メンテナンスに手間(つまりコスト)がかかるのが問題です。したがって、GPS機器の選定に際しては、現場の特性と求められる計測内容(自立電源や通信まで必要か?)と、機器コストとのバランスを熟考するのが肝要です。

図4   写真2
図4 既設道路のり面でのGPS センサーの配置   写真2
自立電源・無線通信採用のGPS 機器設置状況


3、GPS計測を行う際の留意点5)

 GPS計測では、計測条件に応じた誤差が発生します。一般には、基線長(基準点と観測点間の距離)や地物による電波ソーラの反射(マルチパス)、大気や電離層の影響等がありますが、これらに加えて、地すべりなどの山間部では、GPSセンサー上空の視界を遮蔽する樹木や尾根などの障害物、基準点と観測点の高低差が誤差発生の大きな要因となります。

 そこで、地すべりを例に、GPS計測を実施する際の留意点を表1にまとめてみました。

 GPSに限ったことではありませんが、計測機器や解析技術が進歩しても、現場作業が最適に行われなければ良質な計測データは取得できません。特に、GPS計測では、GPSセンサーの設置場所の選定、上空視界などの設置状況に十分留意することが必要です。


4.最後に・・・GPS計測の今後は?

前回、今回と2回にわたって地質調査業でのGPS計測の利用についてレポートしました。これらGPS自動計測に関する情報は、現時点(H16年11月)では最新のものですが、GPS計測を取り巻く環境や関連技術は今後とも急速に改善されると予想されています。

 特に期待されるのが、2008年以降の運用が予定されている日本版GPS衛星QZSS(準天頂衛星)6)です。この衛星は、常に1基以上が日本上空の天頂付近に配備されるため、上空視界が悪い地点でも計測精度が確保でき、安定して高精度なGPS計測が可能になると期待されています。GPSは、地表面の三次元変位を高精度に計測することができます。近年は、GPS機器の価格もかなり低下し、地質調査でも比較的容易に利用できるようになってきました。

 今後は、地質調査でのGPS計測の利用が進むことは間違いありません。逆に「地質調査でどのように利用するべきなのか?」を問われる時期に差掛っているのかも知れません。


<参考文献>

1)岩崎智治:地質調査でのGPS計測の利用
(1)−GPS計測の方法と現状−、大地、2004.9

2)岩崎智治・及川典生・清水則一:斜面計測用の新しいGPS監視システム(2)ートレンドモデルによる計測精度の向上についてー、
第41回日本地すべり学会研究発表会講演集、pp.193-196、2002.8.

3)平野宏幸・田山聡・岩崎智治・清水則一:坑口動態観測にGPS自動変位計測システムを適用,トンネルと地下、2004.9

4)岩崎智治、武智国加、武石朗、清水則一:道路斜面の維持管理を目的とした計測評価システムの開発、土と基礎、vo.50,No.6(533),pp.25-27,2002.6

5)岩崎智治・佐藤渉・清水則一:斜面におけるGPS計測実施時の留意点−主にセンサーの設置状況について−、日本地すべり学会第43回研究発表会論文集、2004.96)沢辺幹夫:準天頂衛星を利用した高精度測位実験システムプロジェクトの概要、GPS/GNSSシンポジウム2004テキスト、pp.77-84、2004.11
 
表1地すべりでのGPS計測上の留意点
分類 GPSセンサーを設置する際の留意点
チェック項目 内容
不動地盤 基準点は地すべり地外の不動地盤に設置する。基準点が移動(変位)すると、計測点の計測値に反映され、正確な斜面変位計測ができない。
上空視界の確保 基準点と各計測点で観測される衛星は共通の必要あり。各計測点で観測される衛星は樹木や建物等の遮蔽物により様々なので、基準点はできる限り上空の視界が良く、全ての衛星が観測されるべきである。
用地
(マルチパス)
(障害物)
基準点用地は、地すべりから離れた学校・役場・公民館・駐車場等の公用地を利用することも多いが、これら用地は建物や車の駐車・出入りが多いためマルチパス(反射波)の影響を受けやすいので注意が必要。用地内の障害物の少ない地点を選ぶ。
基線長 基準点と計測点間の距離が長いほど計測精度が悪くなる。基線長はできる限り短くなるように基準点を設置する。スタティック測位でmm単位の計測を行うには、基線長=1000m以下を目指すべき。
高低差 基準点と計測点の高低差が大きくなると計測精度が悪くなる。特に、高さ方向の精度低下が顕著である。高低差がなるべく小さくなるように基準点を設置する。
高低差=200m以下を目指すべき。
計測点 上空視界の確保 地すべりなどの山間部では、樹木や上方斜面等が上空視界を遮蔽する。例えば、上空視界の50%程度が遮蔽されると、計測精度はかなり悪い。できるだけ高木の少ない地点を選ぶべきだが、難しい場合には周辺樹木を伐採することを考える。なお、葉・枝が疎な樹木やビニール製ネットフェンスは電波を通す場合もあるので、確認が必要。
用地
(マルチパス)
(障害物)
計測点は斜面内の農耕地(田畑)や道路脇、駐車や農耕具置場等を利用することも多いが、周辺の建物や車・駐車によるマルチパス(反射波)の影響を受けやすいので注意が必要。障害物の少ない地点を選ぶ。
共通事項 センサー高 基準点・計測点に関わらず、近傍の樹木・建物により上空視界が遮られる場合には、GPSセンサーの高さを高くすることが有効である。ただし、センサーを高くすると、センサーを支える支柱や基礎工の構造が大きくなり、設置工事が大変で、不経済になるので十分に検討するべきである。施工性やメンテナンス性を考慮すると2m前後までのセンサー高に留めるよう配慮したい。
人的被害 講座講座GPSセンサーは、人的な被害(悪戯や不慮の破損事故)を被ることがある。必要に応じて防護柵等の設置も考える必要がある。
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