70.浅層地中熱採熱坑における送水量と採熱量の検討

日本地下水開発(株) 
黒沼 覚・井上 純
秋山 純一・安彦 宏人
1 .はじめに

 少子・高齢化社会に対応し、誰もが安全かつ円滑に通行できる歩行空間のユニバーサルデザイン化が望まれている。積雪寒冷地域では路面凍結による危険、積 雪による歩行空間の減少等、冬期特有のバリアを軽減するための施設整備が重要である。この冬期特有のバリア軽減施設の一つとして、自然・未利用エネルギーの有効利用、環境負荷の低減等を背景に注目されている浅層地中熱を活用した消・融雪システムがある。本調査では、ある地域の採熱量を把握する目的で実施した採熱試験(TRT 試験)結果より、採熱坑における送水量と採熱量の関係を検討した事例を紹介する。


2 .調査方法

1 )採熱坑の仕様
 採熱坑のボーリングは、原掘φ157oで深度100mまで実施し、採熱坑の保孔管には配管用炭素鋼鋼管(SGP100A)を採用した。採熱坑を保孔管、保孔管と熱交換器の空隙は珪砂入りモルタルセメントで充填した。採熱坑の構造図を図2.1に示す。採熱坑の仕様は以下に示すとおりである。

@仕上げ口径:SGP100A
A採熱坑深度:100m
B熱交換器:U 字管×2回路(架橋ポリエチレンパイプ20)
C地表部仕上げ:旧建設省型ハンドホール870o×870o
採熱坑構造図
図2.1 採熱坑構造図

(2 )採熱試験方法

 採熱試験の模式図を図2.2に示す。採熱試験の手順は以下に示すとおりである。

@採熱坑内の初期地中温度を測定する。
A採熱坑への循環水は、ほぼ一定した冷温度(水温5 ℃前後)を保っている河川水を利用した。河川水を一時1m3程度の水槽に貯め、循環ポンプによりU字管の一方に流入させ、他端より流出した河川水は循環させずに放流した。
B採熱坑の採熱量と送水量の関係を調べる目的で、温度を一定に保ったまま、流入量を段階的に変化させて以下に示 す項目を計測した。

・熱交換井への流入水温Tin (℃)
・熱交換井からの流出水温Tout (℃)
・循環水の流量Q(R/min)

採熱試験模式図
 
図2.2 採熱試験模式図
(3 )採熱量の算出方法

採熱試験により以下の測定値が得られる。
・流入・流出水温差・・・△T=Tout−Tin(K)
・循環水流量・・・Q(R/min)
上記測定値を用いて、採熱量qb(W)を求める。
qb (W)=C×△T×(Q÷60)・・・(式2.1)

ここで、C:比熱(J/s・K)

 上式で算出される採熱量qb(W)は採熱坑1本当りの採熱量であるため、採熱坑の深度で除することにより、採熱坑1m 当りの採熱量q(W/m)に換算した。


3 .調査地の地質と地温

 採熱坑のボーリング結果から、当該地の地層構成は表3.1に示すとおり深度1.50m以深は新第三系の凝灰岩・凝灰角礫岩の互層からなる。

 採熱坑100m深度までの温度検層を実施した。温度検層結果に基づき、深度100m付近までの温度検層結果を一覧して表3.2 に示した。地温勾配の平均値は約1.8℃/10mであった。地球上の平均地温勾配は約0.3 ℃/10mと言われており、それと比較するとかなり高い値を示す地域である。

表3.1 地層構成一覧表 表3.2 温度検層結果一覧表
表3.1 地層構成一覧表 表3.2 温度検層結果一覧表


4 .採熱試験結果
 本試験は一定の冷熱を供給し、その流入量を7.7R/min、14.7R/min、19.8R/min、29.7R/min、の4段階に変化させて実施した。この結果をもとに採熱量q(W/m)と送水量Q(R/min)の関係を求めた。試験結果を一覧して表4.1に示す。q−Qの関係を図4.1に示す。
 図4.1 より、採熱量と流入量の関係については、流入量が20R/min付近までは、流入量が増加すると採熱量も増加する傾向がみられた。流入量が20R/min付近以上は、流入量が増加しても採熱量はほぼ一定で、62〜66(W/m)程度となる。

表4.1 採熱試験結果一覧表


採熱量q と送水量Q の関係図 採熱量q と管内流速s の関係図
図4.1 採熱量q と送水量Q の関係図 図4.2 採熱量q と管内流速s の関係図
(注)採熱量の「−」は温熱(蓄熱)を供給したため

5 .解析・検討

 本試験結果より、採熱量q(W/m)と熱交換器の管内流速s(m/s)の関係を図4.2に示す。図4.2には比較・検討のため、当社の地中熱実験施設(山形市内)の採熱試験結果も併せて示した。

 図4.2より、本試験結果・実験施設の試験結果で管内流速が0.5〜2.0m/s付近では採熱量はほぼ同様の挙動を示した。以上の比較・検討結果より、当該地において熱交換器の管内流速を大きくした場合の採熱量を推定することが可能であると考えられる。


6 .まとめ

 当該地における採熱試験結果から、採熱量と送水量の関係について検討し、山形市内実験施設の採熱量と管内流速の関係を比較・検討した結果、管内流速1.0〜2.0m/sで最大の採熱量が得られ、0.5m/s以上とすれば、実用的な採熱が得られると考えられる。

 今後の課題としては、冬期間に消雪施設を稼働させた場合に得られる採熱量が、本試験と必ずしも一致しない可能性が考えられる。このため、初年度稼働時期には観測を実施し、予想された採熱量と比較し、採熱坑の仕様を見直すことが重要である。


[引用・参考文献]
1 )地中熱融雪実験、全地連「技術e-フォーラム2001」にいがた講演集:安彦宏人・秋山純一・土屋睦・山谷 睦:地中熱融雪実験
2 )地中熱の採熱量試験と消雪時の採熱量の比較検討、全地連「技術e-フォーラム2002」よなご講演集:安彦宏人・秋山純一・土屋 睦
3 )Thermal Response Test :LULEA UNIVERSITY OF TECHNOLOGY :SIGNHILD GEHLIN,1998 .
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