ご経歴を教えてください
黒沢尻工業高校の地質工学科を卒業して、S48 年中央開発(株)に入社、S62 年に北光ジオリサーチ(株)の設立に参画し、現在に至ります。高校在学当時は佐藤二郎先生に弾性波探査を習い、社会人になってからも殆ど物理探査をやってきましたので、物理探査経歴は30
年以上ですかね。海外の現場はスリランカでの技術供与を経験しました。このときは政情不安定でダイナマイトの入手が難しく、現場には軍隊が警官の護衛付きで運んできました。測定中も警官の護衛付きでした。
初めての現場は
正確には高校の実習で弾性波探査をやったのが最初ですね、発破の威力に驚いたこと以外は忘れてしまいましたが。会社に入ってからは、その当時開発中だったスタッキング法による弾性波探査の現場が多分最初だったと思います。起振源の地上用エアガンに使用する60kg
の窒素 ボンベを担ぎ上げるのがとんでもなく大変だったことを、未だに覚えています。
昔と今とで何が違いますか?
物理探査の調査スタイルそのものはほとんど変わっていません。ただし、測定器はかなり変わりました。例えば、観測波形は感熱紙に直接記録する方式だったので、増幅器と記録器が別々でそれぞれ20kg
以上ありました。さらに電源のバッテリーも加わってこれらを運んだりセットするだけでも大変でした。物理探査の機材は転んだりして故障してしまうと大変なので人任せにはできず、どんなところにも自分で運びました。現在は記録もデジタル化され全部で10kg
位と大変コンパクトで楽ですね。この点は検層機器でも感じます。ジオロガーが出た辺りが変わり目だったと思います。
物理探査のこつはありますか
とにかく、測定データの良否をその場で必ず判断することに尽きます。測定 データの質と量が満足されていないと、いくら詳細に解析しても無意味だからです。できるだけ一発で測定が済むようにすると口で言うのは簡単なんですけれど、これがなかなか大変で技術力判断力が問われます、いろいろな要素がからんでくるから。例えば、地形状況などは三次元的に考えて測定することが大事です。現在では解析そのものは機械的にできますが二次元断面解析は水平構造が前提になっていることを考えると、何らかの解釈を入れないと実際の断面にならない、例えばチェックボーリングと解析断面があわないこともあり得ます。具体的には急峻な地形の場合には測線計画そのものをよく検討し、必要に応じて補助的な測線を加えるなどがありますね。
解析結果がうまく地質データと一致するとやはりうれしいですね。地質屋さんとはちょっと違った楽しみですが。
特に工夫されていることはありますか
測定機は各社オリジナルが普通だったので、いろいろ工夫して測定効率を高めるのが当たり前でした。最近は機械が良くなってそういうことも少なくなりました。むしろソフトの方でいろんな工夫というか、ニーズに見合った新しい解析方法を開発することが求められていますね。
解析結果はできるだけ「生」の形で示しますが、あとからボーリングデータなどを出してきて結果が合わないとか言われることもあります。そういう資料があるならばできるだけはじめから勘案して測定する方が、いろいろな意味で合理的ですね。
地質断面と解析断面があわない場合にはその原因を説明する必要がありますが、必ずしも物探側だけの問題とは限らないこともあります。発注者に対して精度的な問題も含めてきちんとした説明ができれば、結果の信頼性も高まるのではないでしょうか。
想定するような異常などが精度的に検出可能かどうかを理解した上で議論するなら意味がありますが、5m の測点間隔で1m 規模の異常を見つけるとかは原理的に不可能な話に属します。前もってイメージしている断面を示してもらうことで解決できる場合もあるでしょう。結果に対して納得が得られずに、こちらの持ち出しで測線を増やしたりしたこともありました。
深い部分ほど解析上の不確定性が大きくなるのでより多くのデータが必要になるなど、物理探査の基本的な点をもう少し理解してもらえれば、「物探かければ何でも判る」というような都合のいい話は出てこないと思います。断面でデータが得られるといった物理探査ならではの利点を、うまく地質調査に生かしてもらいたいといつも感じています。
大変だった現場は
ダム関連の現場は地形が急で大変な場合が多いです。ある年のクリスマスに年内に弾性波を終了してくれという話がありました。大急ぎで現場に入ると毎日雪で、2m近くも積もってしまった。結局中止になったけど、あれはどうしたのかなあ?
若い頃、スタッキング法弾性波探査を市街地でやった時の話です。大通りを夜間だけ通行止めにして、毎朝現況復旧することを繰り返し、一日に100m
くらいしか測定が進まない。昼間は昼で検層をやるので休みが無く、数キロの測定を終えるのが本当に大変でした。夜中に酔っぱらい運転の車に突っ込まれたりするおまけもありましたし。
現場で苦労されることは
地元にろくな説明がなされていない現場では、住民との関係に悩まされることがあります。また、里山などでは思わぬところに水道管が敷設してあったりして、それを発破で飛ばしてしまうと大変なので、あらかじめ怪しい現場では地元の人にこの点を確かめます。
樹木が伐採されたままの斜面では、倒木が多すぎて測点の設置のしようがないこともありましたね。
これから物理探査をやろうという若手に何か
現場を嫌わないこと。現場状況と測定データとの関係は経験を積まないとなかなか判らない。同じ岩種でも現場によって物理的な性質が異なることが、経験を積むと何となく判ってくるので、そういったものを解析に生かせるようにしてもらいたいですね。
それから解析ソフトは解析の基本原理を手計算などで理解した上で使うことも大事ですね。
現場代理人に一言
物理探査の作業内容をよく理解した上で、いろいろな交渉を行って欲しい。発破の音に驚いて飛んできた地元の人に、安全だと説明するのはなかなか難しいものです。
目的にあった測定計画になっているかについても、できれば事前に相談してもらうと業務上でのロスが少なくできると思います。
申請手続きなども任せてもらった方がスムースにいくことが多いです。
請負金額と要求内容とのギャップが広がってきており、これから益々何らかの割り切りが必要になるのかなあと、いろいろ悩みも尽きないようですが、「やはり現場では、でかい水中発破をかけるときが一番わくわくしますねえ」と笑顔で語る菅さん、これからも東北の物理探査をよろしくお願いします。
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