たかが「あぶらげ」とバカにしてはいけない。これは日本一の「あぶらげ」のお話である。
定義と書いて「じょうげ」と読む。仙台から国道48 号線を山形方面に向かい、 熊ヶ根橋からすぐ右折、広瀬川の支流大倉川のダブルアーチが美しい大倉ダムを過ぎて約10km
。
その昔、平家の落人、平の貞義(さだ よし)という人がこの地に隠れ住んだが、 後から来る人に密かに自分の存在を知らせようと、地名を定義(=貞義)と書い
て「じょうぎ」と読ませたが、後の世にこれが訛って「じょうげ」となったと伝えられる。(宮城県地名考)
この定義に祭られている定義如来(山)は、霊験あらたか、数々のご利益から多くの信者をあつめ、年間百万人以上と言われる参詣客でにぎわっている。
そしてうれしいことに、ここには数々の名物がある。「味噌焼きおにぎり」「玉こんにゃく」「麩」「各種山菜」等々、その中でもきわめつきが、定義とうふ店の
「三角あぶらげ」である。
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参道の突き当たりは、両脇の仁王像が
参拝者をむかえる定義如来の山門 |
新築された六角堂 |
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このとうふ店は、定義如来参道の入り口にあり、郷土の仙台弁がトレードマークになっている女性歌手、庄司けい子(地元では有名人)の実家が経営している。
ここで一般的な「あぶらげ」の身元調査を行い、その性格・経歴等を洗っておきたい。
「あぶらげ」(正しくは油揚げ)は、周知のように豆腐を油で揚げたもので、形は四角でひらべったい。むかしは豆腐屋の専売だったが、今ではコンビニまたはスーパーなど、日本全国どこででも売っている。数え方は1
枚2 枚が正しく、間違ってもひと袋ふた袋とか、ひと切れふた切れなどと数えてはいけないし、目方で量り売りするところはない。
「とんびに油揚げをさらわれる」という諺は、せっかく手塩にかけて大事にしていたものを、思わぬ相手に横取りされることを言うのだが、わが業界の受注競争や、芸能界の男女交際でも時々はあるようだ。
しかし「あぶらげ」ほど千変万化、各方面で活躍している食材は少ない。
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まず、そのままの四角く、ぺたんとした形のままで登場するものの代表格はきつねうどんだ。
余談になるが、キツネ(関西ではケツネ)うどんは、うどん・そば屋のメニューとして、かけ(素)うどんに次ぐ、不動の2 番バッターの地位をまかされている。
立ち食いの店以外で「かけうどん」を食べている人は、周囲から、「そうか、そうか、オタクの経済事情はそういうことなのですネ」と、同情と哀れみの目を向けられるのが通例であるが、「きつねうどん」はかろうじて、その視線から除外されるという、役割も担っている。
昨今ではまた、インスタント麺の世界でも「ドン兵衛」などというエラそうで派手な名前をつけられて、受験生の夜食、貧乏サラリーマンの月給前の貴重な食事源として、密かなブームをよび、控え選手の立場から準レギュラーに昇格した。
次にこれを袋として、中にご飯を詰めるという奇抜な食べ方がある。中のご飯だけを掘り出して食べる人はおらず、ご 飯より先におかずの歯ざわりに接するという性格から、「いかメシ」や「オムライス」と同系統に分類するといって学説を曲げない学者もあるという。
誰が名づけたのか「おいなりさん」または「稲荷ずし」という親しみのある名前がついて、運動会や遠足のお弁当の定番モノとなっている。のり巻きなどと同席させられることもあるが、「おいなりさん」の方が格上として扱われ、玉子焼き、から揚げ、ソーセージなどと、食べる順序の「トリ」を競うまでに出世している。
干ぴょうなどで縛った「おいなりさん」もあるが、この場合の干ぴょうは、味では勝負させてもらえない。どちらかというと邪魔物として、真っ先に攻撃の対象となっている。
「あぶらげ」は、野菜の煮付けやひじきの煮物などにも、ニンジンなどに混じってわずかに顔をだす。しかもここでは「顔を出す」だけで、居ることだけで満足している。(いないかも)
また、味噌汁のダシにも、ワカメ、に ぼし、椎茸などと並んでいつも有力候補にあげられる。
チャンコ鍋などのダシは、野菜、鶏肉などいろいろあるが、何と言っても油揚げから出る旨みが最高だという話などなど・・・根強い人気の食材である。
大豆食品の業界では、殊勲・敢闘・技能の三賞のどれかに、いつもノミネートされている。
しかしおなじ大豆系でも、「豆腐」がいつも食卓の中心に華々しく登場し、堂々の主役としてみんなの前にシャシャリ出るのに比して、また「納豆」が、朝から大きなどんぶりの中でぐるぐるとかき回され、ドサドサとご飯の上にかけられ、長い糸を引いて粘って見せるなど、みんな目立ちたがるのに較べ、常に脇役か、隠れた存在に身をおいて、それで十分満足している「あぶらげ」は、実に謙虚な優等生としての評価が定着している。(していないかも)
ここで定義の名物「三角あぶらげ」に登場してもらうことにしよう。
形は三角、厚さは堂々の2 〜3 センチ。揚げたてを買って店先で食べるのが1 枚110 円(消費税込み)。この値段は10 年前から変わらない。
この地ではこれだけが単品で堂々と売られ、食べ方の正式マナーが百科辞典やギネスブックにのっているくらいであ る。(のっていないかも?)
プラスチックのトレーに乗って出てきたのに、醤油と七味とうがらしをかけてパクリとやる。
これが実に旨い、まさに日本一の味だ!定義如来のお参りはしなくても、この「あぶらげ」だけ食べて、持ち帰り500 円(5 枚入り)を買って帰るのが正しい行動で、バチは当たらないが、その反対は一生の悔いが残る。
現地で食べると110 円、お持ち帰りは1枚100 円と、一見計算が合わないようであるが、この10 円はトレー、醤油、七味および割り箸等の諸費用として、ほぼ妥当な金額であると、誰でもが納得し、公正取引委員会の捜査も無縁である。
これに比較して、諸経費110 %+技術経費30 %を上乗せする、コンサルタント料金の積算体系は、一般社会に対して説明責任を果たさなければならないだろう。
ここで、由緒ある定義如来についても触 れないのは片手落ちになるが、これについては紙面の都合上、写真の紹介でご勘弁いただききたい。
定義までの道は、お天気に恵まれれば、春は桜、初夏は残雪の舟形連峰やしたたるばかりの新緑を見ながらの快適なドライブが約束されるだろう。
(以上)
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