国際航業(株)shamen- net 事業部   岩崎 智治

13.地質調査でのGPS 計測の利用(1 )
−GPS 計測の方法と現状−

1.はじめに

 地質調査の対象は多岐にわたりますが、地質踏査やボーリング調査と合わせて地盤変位計測を実施する機会が多いと思います。特に地すべりや急傾斜地崩壊を対象とした斜面防災分野では、地盤変位計測は無くてはならない調査手法の一つです。

 地盤変位計測には、孔内傾斜計やパイプひずみ計等の地中変位を計測するものと、地表面伸縮計、移動杭計測(光波測量)等の地表面計測があり、近年は計測の自動化が進み非常に便利になってきました。また、各種デジタル技術や携帯電話・インターネットに代表される通信技術の進歩に伴い、様々な新しい計測手法も考案され実用化されつつあります。例えば、光ファイバー、レーザースキャナ、GPS などです。

 そこで、本講座ではGPS 計測を取り上げ、2 回にわたって報告したいと思います。

 第1 回は、GPS 計測の方法・種類、最新のGPS 計測手法等をレポートします。第2 回(次号)では、地質調査分野でのGPS 計測の現状について実際の計測事例を中心に紹介する予定です。

写真1 GPS センサー(地すべり地に設置した例)

2.GPS 計測の方法

 GPS は、カーナビや測量機器として広く利用されており、最近では比較的馴染み深い用語になっています。その一方で、GPS 計測の手法はブラックボックスに近い状態で良くわからない・・・というのも現状かと思います。

 そこで、GPS 計測の手法について、できるだけ平易に解説したいと思います。より詳しい内容を知りたい向きには、巻末の参考文献1)2)3) をご覧ください。

2.1 GPS の計測原理

 GPS (Global Positioning System )は、上空のGPS 衛星からの電波を受信し、地上のGPS センサーの位置を求める「衛星を使った三角測量」です。
図1 GPS 計測の概念図

 
各衛星の位置(Xn ,Yn ,Zn )は送信電波に記述されているので既知です。また、GPS 衛星と地上のGPS センサーには時計が搭載されているので、電波が衛星からセンサーに達するまでの時間がわかり、時間t ×電波速度(光速)で衛星とセンサー間の距離が算出できます。

 したがって、GPS センサーの座標(X,Y,Z )は3 個の衛星から電波を受信すれば良いことになりますが、実際には時計の誤差があるので未知数は時間t を加えた(X,Y,Z,t )の4 つとなり、4 個の衛星から電波を受信する必要があります。

2.2 GPS 計測の種類

 GPS 計測は、大別すると単独測位と相対測位に分類されます(図2 )。また、相対測位はDGPS(ディファレンシャルGPS)と干渉測位に分かれ、さらに干渉測位にはスタティックやRTK 等の方法があります。

 計測精度は図2 の右側の方法ほど高く、通常、mm 単位の計測精度が求められる測量や地盤変位計測では干渉測位のスタティック測位法が用いられます。

図2 GPS の種類

@単独測位

 単独測位は、1 つのGPS センサーで計測する方法です。センサーが1 つでよく、解析処理が比較的簡易なため低コストな計測手法で、カーナビなどに広く利用されています。

 しかし、計測精度は概ね数m 〜数10m程度と低く、斜面計測のようなmm 単位の精度が必要な場合には使用できません。

A相対測位

 相対測位は、2 つのGPS センサーを使って計測する方法で、単独測位より高精度です。相対測位には、2 つのGPS センサーで単独測位を行ってセンサー間の相対位置を求めるDGPS と、2 つのセンサーと衛星との距離の差(行路差)を電波の位相から求める干渉測位があります。

 一般的にDGPS の計測精度は数10cm 〜数m 程度で、mm 単位の精度が必要な計測では干渉測位を行います。

a.単独測位 b..相対測位
図3 単独測位と相対測位
B干渉測位(スタティックとRTK )

 干渉測位はGPS 計測の中で最も精度の良い方法で、mm 単位の計測も可能です。

 干渉測位にも何種類かありますが、代表的なのはスタティック測位(静的干渉測位)です。この方法は、長時間連続して電波を観測することで誤差を除去し精度よく計測値を求めることができます。スタティックでは概ね1 〜3 時間以上の観測時間を要しますが、GPS 計測の中で最も精度の良い計測手法です。

 RTK (リアルタイムキネマティック)は、スタティックより早く計測値を得るために考えられた方法です。計測開始時に衛星とGPS センサーの位置関係を決定(初期値決定:初期化といいます)し、その後の計測では初期値からの増減のみを計測します。そのため、2 回目以降の計測ではほぼ瞬時に計測値が得られますが、スタティックより精度は劣りcm 単位の精度です。

2.3 GPS 計測機器

 高精度な干渉測位によるGPS 計測は、測量分野で発展しました。地すべりなどでのGPS による地盤変位計測も、当初は移動杭測量として実施され、まさに測量士による手動の測量作業そのものでした(写真2 )。

 その後しばらくの間は、計測の自動化には至りませんでしたが、これはGPS 機器が非常に高価なため(現場に置き去りにできない)と、測量士による様々な解析処理を経ないと計測精度が保障できなかったためです。

 写真2 地すべりでのGPS による移動杭測量

 しかし、測量用GPS 機器の価格も徐々に低下し、数年前から測量用GPS 機器を流用した自動計測が試みられるようになりました(写真3 )。GPS 機器の価格はある程度低下したものの依然として伸縮計や手動のGPS 測量との計測費用の差は大きく、また、測量用GPS 機器は基本的に1 台ごと単独で作動するように作られているため、計測点ごとにGPS アンテナや受信機、電源装置、通信設備等を備える必要があり大規模な装置となっていました。

写真3 測量用GPS機器を流用した
自動計測の例

2.4 最新のGPS 自動計測システム

 最近では、地盤変位計測用の専用GPS 機器が開発・利用されています(図4,写真4 )。

 この新型GPS 機器は、計測点にアンテナだけを設置し、受信機、電源装置、通信設備等の設備は現場内の一箇所(通信集約機)に集約することで、計測点が多数であっても機器費用を安価に抑える構成になっています。計測点には小型・軽量なアンテナのみを設置すれば良いので、設置用地の確保や設置作業も容易です。

図4 地盤変位計測用GPS 機器の構成図
写真4 地盤変位計測用GPS 機器

 また、GPS 計測データの回収と計測結果の伝達にインターネットを利用する手法が実用化されています4 ) 。

 図5 に、インターネットを利用したGPS自動計測システムの概念図を示します。

 GPS 計測は解析処理が複雑なため、従来は高価な解析ソフト(300 万円程度)を現場ごとに導入する必要がありました。図5 の方法ならインターネット上の解析システムを間借りすれば良いので解析費用が安価になります(余談ですが、このようなインターネットを利用したサービスをASP :アプリケーションサービスプロバイダと呼びます)。

 このGPS 自動計測システムでは、30 秒に1 度のタイミングで衛星からの電波を受信し、1 時間に1 度解析処理された計測値が得られます。

図5 インターネットを利用したGPS 自動計測システム概念図

 計測値は、時系列グラフや変位ベクトル図等(図6 )に整理され、インターネットや携帯電話を通じてほぼリアルタイムに確認することができます。

 また、計測精度に関してはトレンドモデルと呼ばれる時系列統計解析による誤差処理技術5 ) などの進歩で効率よく計測誤差を除去することができるようになり、mm 単位の計測が可能になってきました(図6a の青実点が誤差処理前の計測値、赤実線がトレンドモデルによる誤差処理後の計測値)。

a.時系列グラフ
c.断面ベクトル図
b.平面ベクトル図
図6 計測結果のインターネット配信画面の例(地すべり)
3 、GPS 計測の得失と地質調査での利用

 以上のように、GPS 計測は高精度かつ低コストな地盤計測手法として注目されています。

 地質調査を対象とした場合のGPS 自動計測の得失をまとめると、次のようになります。

<利点>
・mm 単位の計測が可能
・各測点ごとに独立した計測ができる
・3 次元変位が計測できる
・大きな変位に対応できる(事実上の測定限界がない)
・基準点を比較的遠方に設置できる
・機械的稼動部品が無いため壊れにくく、長期計測に有利である

<問題点>
・GPS センサー周辺の樹木や建物のために上空視界が悪い(衛星が見えない)箇所では計測精度が悪い、または計測できない
・基準点が概ね1km 以上はなれると計測精度が悪くなる
・基準点と観測点の高低差が100 〜200m以上になると計測精度が悪くなる
・mm 単位の精度を得るには1 回に1 時間以上の計測が必要(即時性にやや劣る、急傾斜地崩壊のような変位速度が極めて速い現象には不向き)

 このようにGPS 計測は、上空視界や基準点の設置などに制約があり、必ずしも万能ではありません。しかしその一方で、伸縮計や光波測量(移動杭測量)などの従来の地表面計測手法に比較して多くの利点もあります。

 既に全国の地すべり計測やトンネル・開削などの近接施工、フィルダム堤体監視、道路斜面(維持管理)等の多数の現場でGPS 計測が採用されており、今後の広範な利用が期待されます。

 次回(第2 回)は、実際の計測事例の紹介を中心に、地質調査分野でのGPS 計測の利用状況について報告いたします。

<参考文献>
1 )土屋淳・辻宏道:新・GPS 測量の基礎、社団法人日本測量協会、2002.10
2 )土屋淳・辻宏道:やさしいGPS 測量、社団法人日本測量協会、1991.10
3 )日本測地学会編著:新訂版GPS- 人工衛星による精密測位システム,社団法人日本測量協会、1989.11
4 )岩崎智治、武智国加、武石朗、清水則一:道路斜面の維持管理を目的とした計測評価システムの開発、土と基礎、vo.50,No.6(533),pp.25- 27,2002.6.
5 )松田浩朗・安立 寛・西村好恵・清水則一:GPS による斜面変位計測結果の平滑化処理法と変位計測予測手法の実用性の検証、土木学会論文集、No.715/III- 60,pp.333- 343 、2002.9.
目次へ戻る