東北大学環境保全センター長   三浦 隆利

08.青森・岩手県境産業廃棄物不法投棄現場の修復について

1 .県境の廃棄物の現状

1 )経緯

不法投棄量は、青森県側約16ha で約67万m3(特別管理産廃約33 万m3)、岩手県側約11ha で約15 万m3(〃 約2.7 万m3)であり、平成3 年に中間処理業(堆肥化)の許可を追加し、燃えがら、汚泥(以上有害物質を含まないもの)と樹皮を混合、堆肥化などの規模未満管理型最終処分場の使用を開始した。住民からの苦情が出始めたのは平成7 年からで、燃え殻、汚泥、廃油、不燃物混合RDF 等の不法投棄を確認し、平成8 年に不法投棄により加害者の三栄化学工業(株)に対し事業の全面停止処分(青森県は処分業、収集運搬業30 日間、岩手県は収集運搬業20 日間)を行った。しかし平成9 年に中間処理業許可に動植物性残さを追加(特別管理産業廃棄物を除く)し、早朝・夜間集中監視しているにも拘わらず、中間処理業許可に煤塵を追加(特別管理産業廃棄物を除く)した。

ようやく平成11 年に立入調査し岩手・青森県警察合同捜査本部は廃棄物処理法違反として、平成12 年に原因法人の関係者を逮捕に至り、投棄された廃棄物を撤去措置命令(青森県・岩手県)が出され、三栄化学工業(株)の業の取消処分となった。平成13 年の判決では2 つの法人に対して罰金2 千万円を課した。

青森県では平成12 年から汚染実態調査、RDF 様物(約2,600t )撤去、堆肥様物仮置場整備、高密度電気探査、堆肥様物(約30,000m3)移し替え、堆肥化施設及び堆肥置場覆土、地下水流向流速調査を行い、岩手県と共に原状回復検討調査委員会を設置し検討している。一方、岩手県では、平成12 年に廃油等による現場内汚染状況調査、三栄化学工業鰍フ財産仮差押え、平成13 年に地下水流向流速調査、不法投棄物全容解明のための筋掘り調査、廃油入りドラム缶(218 本)、燃え殻(約1,200t )の撤去・処分を実施した。周辺の沢等のモニタリング調査を青森県と岩手県が時期を併せて実施し、現場内の汚染はあるが、現時点で周辺環境への汚染はないと報告した。両県の合同検討委員会の中に、技術部会を設置し専門的に検討を行い、今なお、約1 万社を対象とした排出者の調査を実施中である。

県境付近の現場

2 )現状

青森県と岩手県の県境には下記のような廃棄物があると推定されている。バーク堆肥主体18.3 万m3(土壌環境基準値超過相当廃棄物である有害廃棄物は10.2 万m3)、焼却灰主体26.2 〃(25.3 〃)、RDF様物主体5.5 〃(5.5 〃鉛などの重金属類基準値超過相当廃棄物)、汚泥主体7.4 〃(3.4 〃)、一時仮置き場3.3 〃(3.3 〃)、旧中間処理施設6.3 〃(6.3 〃)。

また浸出水中で最も汚染度の高いジクロロエタンは1.2 〜2.9mg/gを超えている。鉄26 、鉛0.15 、ジクロロメタン0.54 、ベンゼン0.12 、トルエン2.4 とも測定されている。

一方、土壌には鉄が320 〜620g/kg 、鉛22 〜1120mg/kg 、カドミ30 〜84mg/kg 、クロム1250 〜4070mg/kg 、銅8400 〜24200mg/kg 、マンガン6890 〜26700mg/kg 、ヒ素9 〜12mg/kg 、セレン0.86 〜5mg/kg であり、鉄分が圧倒的に多いが、他の有毒物質も含まれ、これら重金属の撤去が強く要望される。

この現状では、自然は病んでしまっており、生態系にも影響を与えて、この地の土に触われないなどから、自然環境の修復が課題である。すなわち廃棄物は土壌への再生方法はあるのか?汚染の実態から無害化が可能か?放置しておくとどのような影響があるのか?を明らかにすべきである。また、充分に腐熟していないバーク堆肥は、作物の生育に対し阻害的に作用する可能性もある。焼却灰にはダイオキシンが混入しており、全ての廃棄物に有機溶剤も含まれていることから、全量撤去が望ましいと考える。

2 .汚染状況

1 )測定例

写真1 は青森県側の浸出水を塩ビ管で誘導している写真である。この地点の測定結果(東北大学環境保全研究施設による)は、鉛(用途は蓄電池等)0.01462mg/l(規制値0.01 以下)、ジクロロメタン(溶剤、洗浄剤)0.541(0.02 以下)、ベンゼン(脱脂洗浄剤、ドライクリーニング)0.1230 (0.01 以下)、トルエン(接着剤や塗料の溶剤)2.40 (0.6 指針値)、キシレン(〃)2.64 (0.4 )であった。

本学の結果は、地下水に雪解け水が多い時期でうわ水を採取したため、値は県の公表値より低い値を示した。

田子町不法投棄現場の一風景

土壌に関して本施設で測定した結果は下記のとおりであった。3 カ所の測定では、カドミ(150 以下):84.9mg/kg 、鉛:263 (<150 )、クロム:4,065 、銅(125 ):15,470 、亜鉛:24,200 、鉄:621,000 、マンガン26,700 、ヒ素(150 、田は15 ):12.13 、セレン(150 ):5.03 であったが、鉄分が非常に多いことに驚く。

2 )土壌汚染の発生

揮発性有機化合物は、地表から浸透した揮発性有機化合物は、浸地層中を移動し、徐々に地下深層部に浸透し拡散して行く。不透水層や粘土層の上部に滞留した揮発性有機化合物は、地下水中に溶出し地下水汚染の原因となる。一方、重金属は、水に溶け難く土壌に吸着し易い性質があるため、揮発性有機化合物のように地下深層部に拡散することはなく、地表面付近の土壌が最も汚染されるケースが一般的である。しかし、帯水層が地表面近くに存在する場合は地下水汚染の原因になる。ダイオキシンは焼却施設などから排出され風によって拡散し、地表に降下したダイオキシンは、殆ど水に溶解しないため、多くの場合、地表表面だけが汚染される。

環境省の定めた「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針及び運用基準」では、これら26 項目の物質を調査・対策の「対象物質」として「重金属等」と「揮発性有機化合物(VOC :Volatile OrganicCompounds)」に分類した。なお、重金属等には、密度4g/cm3以上の金属を重金属としているが、全シアン、有機燐、PCB 、チウラム(農薬)、シマジン、チオベンカルブ、ふっ素、ほう素は重金属ではないが、調査手法として表層土壌サンプルを5 地点混合法という重金属に用いられる手法により採取するため、この区分に分類し15 項目、VOC は有機溶剤と呼ばれ、IC 基板・電子部品の洗浄、金属部品の前処理洗浄、ドライクリーニング゙用溶剤として過去に使用或いは使用中の物質であり、ベンゼンのみが水よりも軽く(ρ=0.87 )、他のVOC は水よりも重くρ=1.2 〜1.4 であり11 項目が含まれる。

3 .封じ込め手法

各種封じ込めなどの手法があるが、重金属で汚染されている土壌の浄化の手法としては下記が挙げられる。

@原位置固化・不溶化法(適切な添加剤やセメントを加え安定化機能促進)は、原位置で汚染土壌を取り扱うことが可能で、比較的短期間に低コストで実施できる。しかし土壌の状態、汚染の状況等によって浄化効果にかなりの変動があるため、事前に試験を行って効果を把握した上で実施することが必要となる。また対象土壌中の重金属は除去されないため、浄化後も溶出が増加傾向などを定期的に検査する必要がある。

A遮断工(対象土壌をコンクリートを用いた遮断槽に封じ込め)は、根本的な浄化はなされていないので現地にリスクを残すことになる。施工後のモニタリングが必要で、浸出水の排水経路が既知で廃水処理施設がある場合には二重の投資となる。

B遮水工(管理型最終処分場と同様に遮水槽の構造)は、現地の地盤に応じた遮水を行う必要があり、地盤の透水性及び地下水等の特性に配慮して、汚染物質が外部へ漏出しないような構造にすることが重要である。実際には不透水シート、粘土、鋼矢板、コンクリート等を遮水材料として遮水槽を造り、この中に汚染土壌を封じ込める方法が採用される。

C覆土・植裁工(土壌の飛散や表面流出を防止)は、覆土は汚染されていない土壌を50 〜60 pの厚さで覆い、雨水が滞留しないように傾斜をつけ、植裁工は種子散布、植生マット、芝等により草木・樹木で土壌を覆うものである。

D熱処理(土壌を加熱することで土壌中の重金属を一部揮発・除去すると共に安定化)は、土壌中の金属は一般に700 〜1000 ℃で加熱されると、比較的沸点の低いものは揮発・除去され、沸点が高いものは土壌中で安定化する。水銀は500 ℃程度で揮発、PCB は1300 ℃で熱分解される。重金属と有機化合物によって複合汚染された土壌にも対応可能であるが、一般的に費用は高くなる。

Eバイオレメディエーション(汚染土壌や汚染水に栄養分などを与え自然界のプロセスを利用するので処理に要するエネルギーが少なくて、分解微生物を増殖させ分解を促進させたり、分解微生物を散布したりと、より積極的、経済的に汚染物質を分解・無害化するので2 次廃棄物の発生がなく恒久的浄化が行える。原位置、オンサイトで汚染修復が行えるなどの長所はあるが、浄化に時間がかかる、高濃度汚染には適さない、複合汚染の浄化には技術的課題が多いなど、有害な分解代謝物又は中間物質が副生する恐れがあるので十分な基礎データが必要となる。

F洗浄・分級法(粒子寸法や物理的性状の相違で汚染土壌を清浄土と汚染濃縮土に分別する方法。土壌洗浄工程で水の他に界面活性剤、キレート剤、酸・アルカリ等を含む溶媒等を利用)は、汚染物質を封じ込めるのではなく、汚染物質を含む部分を土壌中から分離する点にあり、汚染物質が除去された後の清浄土を再利用したり、汚染濃縮土から有価金属を改修することも可能である。浄化費用は熱処理に比べると安価であるが、この方法が適用できるかどうかは土質や汚染物質に大きく左右されることから、事前の処理試験が必要である。

G電気泳動法(汚染土壌に電流を流すと土壌中の自由水は陽極側から陰極側に移動することにより重金属を回収する)は、汚染物質のみを抽出・除去することが可能で、汚染土を掘削・移動する必要がない点が特徴であるが、対象物が地下水で飽和していることが必要となる。

土壌・地下水の汚染経路
 

〈一般的な土壌・地下水汚染浄化システム〉

4 .封じ込めの注意事項

鋼矢板や遮水壁での原位置封じ込めは、原則として封じ込めは第二溶出量以下にまで不溶化することが前提であり、もしくは豊島のように全量除去を待つ間の措置で二重投資覚悟で行う→鋼矢板で囲んだ丈夫は厚さ10cm 以上のコンクリート、3cm 以上のアスファルトで覆う→雨水が浸透しないようにする→十分な遮水能力と運搬車等で破損しない強度が必要となる。

遮水壁の内部で地下水の上昇の有無の確認が重要であり、それにより遮水効果の十分さが確認される。措置の適正の確認は、実施後、二年間地下水汚染が生じていないか否かの有無を観察することも必要である。

遮水に必要とする耐用年数は30 年と言われている、5 年以内では撤去が前提となる。安価なシートや遮水シートは利用しない方が良い。これは紫外線劣化や雨でたるんだり、少しの衝撃で穴が開くからである。シートや不織布の上に砕石やコンクーリート、煉瓦などを置かないことも重要である。これもシートなどが破損するためである。降雨時の一時貯水は処分場内でも必要であり、水処理施設の能力をカバーし、浸出水量の流量調整もバルブで可能となる。浸出水集水設備には目詰まり防止が必要であり、カルシウム等のスケールが付着するので掃除可能にする必要がある。塩ビやポリエチレン製の配水管は堤体の土圧で潰れるので必ずコンクリート巻きとする。事故が生じた時に必要となることから、将来のために資料の保管も不可欠である。

遮水工は国の指導で二重にするよう求められている。構造としては、ベントナイト混合土とジオシンセチッククレイライナー(ベントナイトシート)と遮水シートを組み合わせた二重複合遮水構造が良い。また、法面の崩れや濡れなどの五感でチェックすることも必須である。濡れは地下水の湧水であり、成形状況を足で確認する。

覆土(保護土)は重機の走行でシートなどの破壊を防ぐために1m は必要である。盛り土のダンピング゙や突起物に注意すべきであり、また覆土(保護土)に根を張る植物に注意が必要である(アカシアや竹)。

モニタリングとしては地下水の連続測定が必要である。導電率は上流のきれいな河川水が50 〜100 μS/cm 、下流の汚れた河川水が200 〜400 μS/cm 程度である。加えてpH も測定する必要がある。雨水はできるだけ分離し、汚染水のみを処理することが重要である。

また、作業に当たっては汚染が拡散しないように、降雪や降雨後のぬかるんだ時の作業禁止とすべきである。

5 .今後の不法投棄現場の対処法

1 )全量撤去の課題

自然は病み、生態系に影響を与え、土や水に触われないことから、今後は自然環境の修復のために住民全体で知恵を出し合う機会にする必要がある。

しかし廃棄物を安全に処理するには、土壌の混在や有害物質種の混合などで有効な手法が見い出せないのが現状であり、焼却・溶融法が利用されるが、その結果、土壌として再生するのは困難であることになる。地域外への搬出量を減少させる上でも混在する土壌の再生方法があるのか否かの探索は不可欠であるが、上記のように万能な手法は未だ見い出されていないのが現状である。

投棄物を撤去する場合でも、10 年掛けて、一日200t ずつ運搬するにしても他の汚染場所は放置されたままであり、恒久的な対策を講じながら撤去することが重要である。豊島はそういう観点からか全てをコンクリート等で覆いながら撤去・処理を行っていた。

さらに現地で処理する場合には、@現地に処分場を建設する→10 年後の施設利用法が問題、COP3 対応するのも一手法、A近隣の施設への処分依頼→コンテナ運送時の臭い・輸送時の混雑が課題、B@とAの併用型からの選択となる。

可能であれば現場に恒久的な処理場を建設し、10 年後に町の産業振興の一助になる施設として展開できることが要望される。

2 )市民協働型地域プラン

二戸市と田子町の双方の市町民が共同で、住民の自主的な行動のもとに、住民と行政が良きパートナーとして連携し、それぞれが自らの知恵と責任において町づくりに取り組む「住民協働による町づくり」を推進することを、県境を跨いで宣言したい。

特に産業廃棄物の処理では、ダイオキシンの発生や悪臭、騒音を忌避する住民が多く、処理施設の設置は生理的に嫌うこと頻発していることから、@住民が納得できる処理施設とは何か?A住民が安全に快適に暮らせる環境とは何か?B住民が参加できる行動とは何か?C住民全体に利益をもたらす事業になるか?を主テーマとして修復事業を構築することが必要である。

3 )子供たちにも活躍の場を

次世代の県境の繁栄を願う上で重要なのは、子供達にも理解してもらい、参加し、自ら環境共生に努力してもらうことと考える。事業計画に子供達も参加できるように、呼びかけ、県境ウォッチング、測定・実験を通した環境ビジネスの芽の養成、処理技術説明会の理解など積極的に参加する機会を設けるべきである。さらに毎回の行動プランに参加し、一緒にプランづくりを行い、意見やアイデアを学校に持ち帰り、環境委員という立場から、自ら可能な環境整備活動などの実践を計画する。文化祭での活動発表では、来場者にアンケート協力を呼びかけ、活動内容を紹介することで、事業に参加している大人達の意識も高揚させ、事業実施に前向きな姿勢を示すことにもなると思う。
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