72.地すべりの対策事例

国際航業株式会社 阿部 大志・東海林 明憲・近藤 敏光・庄司 浩・野田 牧人

1.はじめに

 当該地は、大規模な地すべりの末端部にあたる小ブロックである。礫混じり土砂と風化凝灰岩を主体とした長さ300m 、幅150mの地すべり主測線に3本のボーリング調査を行い、3年間の地下水位を観測している。近年、地すべりの中央付近に深さ15mの集水井ならびに集水ボーリング等が施工されるなどの地すべり対策を行っている。地すべり対策施工前後の調査孔における地下水位の変動状況および対策状況の事例を報告する。

地質 厚さ コア状況
地すべり
礫混じり粘土
風化軽石凝灰岩
風化泥岩
10〜35m  凝灰質シルト岩、軽石凝灰岩よりなる粘土化した礫混じり土砂。礫はφ2cm のものが多い
 深 度が増すごとに破砕質で細片化した泥岩状のコアとなる。全体に軟らかい。
基礎岩
シルト質泥岩
細粒凝灰岩
5m 以上  緻密で礫等をほとんど含まない泥岩や、亀裂があまり見られず棒状コアで採取される細粒凝灰岩。

2.調査地の地形・地質概要

 調査地付近は標高25 〜500mの丘陵山地で、河岸斜面を除き斜面の傾斜は全体に緩い。

 調査地の西側には大沼が隣接し、また調査地内にも長沼といった湖沼が分布しており、付近は森林公園として利用されキャンプ場等の施設が整備されている。

 調査地付近には凝灰質泥岩および青灰色火山礫凝灰岩などからなる新第三紀の堆積岩が分布する。堆積岩は新第三紀中新世後期の間沢層に相当する。地質構造はおおむね北の沢から北西側は最大傾斜角が約25 ゜の流れ盤斜面となっているのに対し、北の沢から南東側には褶曲構造が発達し、背斜軸の一部には断層がみられる。

3.地すべり調査結果

(1)ボーリング調査
対象地すべりの土塊状況および地下水の変動を把握し、対策工設計の基礎資料を得るために調査ボーリングを実施した。調査結果は図-2地質縦断図およびボーリング柱状図としてまとめた。

ブロック 孔番 最高水位(m )GL- 低下水位
(m)
摘要
施工前 施行後
A - 2 B-4 8.49 9.01 ・0.52  
B-5 5.30 6.14 ・0.848  
B-6 15.44 16.68 ・1.24  

図- 1 地すべり地形判読図
図- 1 地すべり地形判読図

図- 2 対策工計画断面図
図- 2 対策工計画断面図

(2)地下水観測調査
集水井施工前と施工後の観測孔内の地下水位変動状況を図- 3に示した。集水井施工前の地下水位変動の傾向は、地下水位の上下動が降雨等と連動して急上昇したり、地下水位の上昇期間が比較的長い。集水井を施工したブロックの地下水位は表- 2に示すように約1m 低下している。また変動幅も減少し安定していると考える。

図- 3 地下水変動図
図- 3 地下水変動図

図- 4 集水井本体工掘削状況 図- 5 集水井本体工施工・地質状況
図- 4 集水井本体工掘削状況 図- 5 集水井本体工施工・地質状況

4.集水井工等の抑制工

 一般に集水井の位置は、地質調査および地下水調査の結果ならびに既設ボーリング工との関係から定めた。

5.おわりに

 調査解析の結果を踏まえ、対策工の基本方針に基づいて集水井の設計を行った。調査ボーリングによりすべり面の下位で連続性の高い第三紀の地層が確認された。B- 6孔付近の土塊は上部に崩積土すべり層の粘土分に富む層が、下位には風化岩地すべり層の礫質の層が確認された。地下水位観測の結果から観測孔付近の地下水は中層の地下水の影響が大きいと考えられる。A ブロックを通して中層の地下水が供給されていることが考えられる。

 本稿をまとめるにあたって、ご協力をいただきました宍戸良一氏、佐藤秀男氏にお礼申し上げます。
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