70.土壌ガス吸引工法における土壌汚染浄化対策と課題

住鉱コンサルタント(株) 中川 清森・五十嵐 剛・佐々木 孝雄
スミコンセルテック(株) 山崎 健司

1.はじめに

 土壌ガス吸引工法はTCE (トリクロロエチレン)、PCE (テトラクロロエチレン)等の揮発性有機塩素化合物による土壌汚染浄化対策工法として広く利用されているが、その浄化効果は土の通気性に大きく影響し、モデル化した場の不均質性など不明瞭なところも多い。

 本報告は、PCE による土壌汚染浄化を目的とした土壌ガス吸引工法による浄化対策において、<1>浄化システム連続運転中の除去量の経時的変化、<2>運転中および停止中の表層土壌ガス濃度の変化から、浄化効果と浄化メカニズムおよび土壌ガス吸引工法における課題について検討を行ったものである。

2.浄化対策の概要

(1)浄化対象サイトの概要
 当サイトは、平成8年度の調査でPCEによる土壌汚染が確認され、平成10年度から土壌ガス吸引工法による浄化対策を行っている。

 現在、クリーニング工場として利用されており、クリーニング工場が出来る以前は瓶洗浄工場があったことが確認されている。汚染発生源者は不明である。

(2)土壌ガス吸引工法の概要
 土壌ガス吸引工法はブロワーを用いて土壌ガスを吸引し、吸引した土壌ガスを気液分離槽でガスと水に分離させる。
 分離したガスは、ガス中の揮発性有機化合物を活性炭槽により吸着除去させる。気液分離槽からの排水は、曝気装置で処理し、水用活性炭槽を通すことにより排水基準以下にしている。

(3)運転プログラム
土壌ガス吸引工法による浄化運転は、表- 1に示す運転プログラムで実施した。各運転期間における浄化効果を把握するため、モニタリングを実施した。

表- 1 浄化運転プログラム
表- 1 浄化運転プログラム

3.浄化対策によるPCE の除去量

(1)除去量の経時的変化
 図- 1に示すように、浄化対策によるPCEの除去量は夏期運転において多く、冬期運転では少ないことが判る。

 また、各運転期間とも、運転開始か15時間程度で時間あたりの除去量は概ね安定する傾向が認められる。

図- 1 時間あたりの除去量の経時的変化
図- 1 時間あたりの除去量の経時的変化

(2)除去量と気温の関係
 図- 2に示すように、気温が20 ℃以下を示すと、時間あたりの除去量は多く見込めない。

図- 2 気温と時間あたりの除去量の関係
図- 2 気温と時間あたりの除去量の関係

4.表層ガス濃度の変位

(1)夏期停止中における表層ガス濃度の変位
 図-3に示すように、運転停止1週間で表層ガス濃度の増加が確認され、約1ヶ月後にはサイト全域まで汚染範囲が広がる。

(2)夏期運転中における表層ガス濃度の変位
 図- 4に示すように、約1ヶ月の浄化運転で、表層ガス濃度は大幅に減少する。ただし、一部高ガス濃度を示す箇所については大幅な減少は見られない。

(4)冬期停止中における表層ガス濃度の変位
 若干の表層ガス濃度の増加傾向は認められるが、夏期の停止期間のものと比較すると、その増加量は小さい。

(5)冬期運転中における表層ガス濃度の変位
表層ガス濃度が低下する地点と増加する地点が認められるが、大幅な表層ガス濃度の変化はない。

図- 3 夏期浄化運転停止中表層ガス濃度分布図
図- 3 夏期浄化運転停止中表層ガス濃度分布図

図- 4 夏期浄化運転中表層ガス濃度分布図
図- 4 夏期浄化運転中表層ガス濃度分布図

5.まとめ

モニタリング結果を以下にまとめる。
・夏期運転の方が冬期運転と比較して除去量が多い。
・15時間程度の連続運転で時間あたりの除去量は平衡状態になる。
・気温が20℃以下になると、時間あたりの除去量は少なくなる。
・停止期間中における表層ガス濃度は夏期では1週間程度で増加し、1ヶ月程度でサイト全域に汚染範囲が広がる。冬期は大きな変動はない。

 土壌ガス吸引工法による浄化対策は、揮発したPCE ガスを吸引し、浄化しているため、PCE が揮発しやすい環境にある夏期運転における浄化効率が高くなることが明確になった。

 また、15時間程度の連続運転で時間あたりの除去量が平衡状態になるため、PCE の揮発を促すために1週間程度の運転停止期間をもうけることにより、単位時間あたりの浄化効率が上がることが考えられる。

6.今後の課題

 土壌ガス吸引工法による浄化対策は、気温の上昇に伴い揮発したPCE ガスを吸引浄化するため、高濃度で汚染され、汚染物質が揮発するまで時間がかかるような汚染サイトでは長い浄化対策期間を必要とする。当サイトにおいても土壌ガス吸引工法による浄化対策を5 年間継続しているが、浄化終了の判断が難しい状況にある。当サイトのように表層ガス濃度測定で高濃度の汚染範囲が推定できる場合には、

<1>高濃度ガス範囲の汚染量を定量的に把握したうえで良質土により置換する。
<2>残存した汚染物質を土壌ガス吸引工法で吸引除去する。

 以上のような対策方法の使い分けにより、より浄化効果が期待できるほか、大幅な浄化対策期間の短縮が期待できると考えられる。

 当サイトでは、表層ガス濃度が高い範囲において含有量調査を実施することを計画している。汚染物質の含有量を定量的に把握し、土壌ガス吸引工法における対策と置換による対策の浄化効果を比較検討したうえで、今後の浄化対策を選定する予定である。
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