66清水注入および揚水による土壌・地下水浄化試験

日本地下水開発(株)  南舘 有・安彦 宏人
山形大学大学院理工学研究科  大岩 敏男・王 欣
山形大学工学部  横山 孝男・渡邊 洋

1.はじめに

 小規模事業所から発生した土壌・地下水汚染に対して低コストかつ効果的な浄化対策技術を確立することを目的として、筆者らは井戸を利用した浄化技術の開発に取り組んでいる。今回は、六価クロムによる土壌・地下水汚染現場において、一方の井戸から清水を注入して地下の土壌を洗浄し、他方の井戸から汚染物質を含んだ地下水を揚水する原位置浄化試験を行ったので、その成果の一部ついて報告する。この試験結果は、地下水揚水法と清水注入による地下の洗浄を併用することによって六価クロムによる土壌・地下水汚染の浄化期間が短縮される可能性があることを示唆するものである。

2.試験の概要

(1)浄化方法
 清水や薬剤等の地下への注入と地下水揚水法を組み合わせた浄化技術には、これまでに様々な方法や名称が提案され、また、実際に汚染サイトで適用された例が報告されている。たとえば、In Situ Flushing 、Surfactant Enhanced Aquifer Remediation(SEAR)等.1)2)、Reactive Wells3)、ランチャー汚染回収素子4)などが知られている。本試験で行った浄化対策はIn Situ Flushing の清水を使用するシステムに相当している。通常のIn Situ Flushing は、水への溶解度が小さいために地下水揚水法による浄化効率が良くないVOCや油の汚染に対し、溶剤などの薬剤を使用して浄化効率を高める方法として知られている。しかし、本試験地のメッキ工場の場合には、汚染物質が水に溶解しやすい六価クロムであるため、薬剤を使用しなくても清水のみによって不飽和帯の洗浄効果が期待される。本浄化試験の概念図を図−1に示す。

(2)汚染状況
 試験の対象地は、敷地面積が約1,500m2の小規模メッキ工場である。汚染は工場内の老朽化したクロムメッキ槽から重クロム酸カリウム溶液が土壌へ浸出したことによって引き起こされたものであることがわかっている。地下水の汚染範囲は、汚染源から地下水流向の下流域のみである。工場敷地内の井戸から検出された六価クロムの濃度は15mg/L 程度である(参考:地下水環境基準:0.05mg/L)。

(2)浄化試験設備
 浄化設備は汚染源の周辺に揚水井2本、注入井2本を設置し(図−2)、さらに清水の注入および揚水を制御するための制御盤、配管類を設置した。
 揚水した地下水は、工場内に既設の六価クロム除去装置および排水処理施設へ送り、適切に処理した後に排水している。

<1>揚水井
各揚水井の深度は10mとし、それぞれに水中モーターポンプを設置した。No.1揚水井は水位センサーによってポンプ稼働開始水位と停止水位を設定し、ポンプの稼働を自動的に制御している(図−3)。なお、揚水量は積算型流量計によって計量している。

<2>注入井
注入井は、清水が地下へ浸透する際に不飽和帯を通過させることを考え、井戸深度を4mに設定した。なお、試験地域の通常の地下水位は約5.5mである(図−3)。注入した清水は、汚染の影響を受けない地下水流向上流にある既存の井戸から得た地下水と公共水道水を併用した。

図−1 浄化試験概念図 図−2 浄化井戸配置図 図−3 浄化井模式図
図−1 浄化試験概念図

図−2 浄化井戸配置図

図−3 浄化井模式図

(3)試験内容
 これまでに4本の井戸を使用して様々な試験を行ってきたが、それらの中から、図−1のシステムであるNo.3注入井とNo.1揚水井を使用した場合の試験結果について報告する。

 試験では、揚水井における地下水位が一定の深度を超えないように揚水の開始と停止を自動的に制御し、時間ごとの揚水量と採取した地下水の六価クロム濃度を測定した。清水の注入量は約32L/min とし、1回の試験時間は約40時間とした。この試験を2回行い、同様の傾向が示されることを確認した。

3.結果

 試験結果をグラフに表したものを図−4に示す。この図によると、清水注入を開始してから時間の経過とともに揚水量が増加し、反対に地下水中の六価クロム濃度がやや下がっていく傾向が認められる。揚水量が増加したのは清水を注入したことによって地下水位が上昇したため、水位センサーによって自動運転している水中モーターポンプの稼働時間が長くなったことによる。また、地下水中の六価クロム濃度が下がったのは、清水を注入したことによる希釈効果と考えられる。

 次に、六価クロムの実質的な回収量を把握するため、時間あたりの六価クロム回収量(mg/min)をグラフにした(図−5)。この図からは、2度の試験において清水注入開始から時間の経過とともに回収量が増加していく傾向が認められる。この結果は、地下水揚水法単独の浄化を行う場合よりも、清水注入を加えたほうが六価クロムの実質的な回収量が多くなり、浄化期間の短縮に貢献できる可能性があることを示唆するものである。

図−4 揚水量と六価クロム濃度の変化 図−5 六価クロム回収量の変化
図−4 揚水量と六価クロム濃度の変化 図−5 六価クロム回収量の変化

4.おわりに

 今回の試験は稼働中の工場で実施したものであるため、浄化井等の設置場所が制限された。本試験結果からは、清水注入を導入した浄化システムの有効性が示唆されたものの、浄化井をより効果的な位置に配置していればさらに良好な結果が得られる可能性がある。

 海外では、VOC ・油類の汚染に対して界面活性剤などの薬剤を使用して浄化効果を高める方法が多く報告されていることから、今後は六価クロムのみならず、他の汚染物質に対しても短期間、低コストで浄化できるようなシステムについて、薬剤等の使用を含めた試験・検討を行い、浄化技術を確立したいと考えている。

《引用・参考文献》

1)U.S.Environmental Protection Agency(EPA):In situ flushing action team 、EPA542- F- 97- 013 1997.11
2)U.S.Environmental Protection Agency(EPA):In situ remediation technology statusreport:Surfactant enhancements,EPA542- K-94- 003 1995.4
3)Gilmore,TJ,DI Kaplan,M Oostrom :Residence times required for chlorinatedhydrocarbon degradation by reactive wells.1stinternational conference on remediation of chlorinated and recalcitrant compounds,Monterey,CA 、1998.5.
4)横山孝男、大岩敏男、鹿間紀男、樋口智憲、安彦宏人、八木田幹:ランチャー汚染回収素子室内モデル特性試験.地下水学会誌、43 (4)、pp.301 〜312,2001.
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