52.”全地連「技術e- フォーラム2003 」さいたま”参加報告

日本地下水開発(株) 山谷 睦
地質基礎工業(株)  新田 邦弘

はじめに
 ”全地連「技術e- フォーラム2003」さいたま”が、2003年9月25日〜26日の2日間にわたって、関東地質調査業協会の協力と国土交通省関東地方整備局の後援の もと、本年4月に政令指定都市に移行したばかりの「さいたま市」で開催されました。会場は大宮駅にほど近い大宮ソニックシティで、業界を取り巻く厳しい社会情勢を反映してか、参加者は例年よりもやや少ない約200名でした。東北地質調査業協会からは、技術委員長をはじめとして3名が参加しました。



2回目のe-フォーラム
 今回の技術フォーラムは、昨年に続いて2回目のe-フォーラムとして、参加申込から予稿集の提出、発表まで電子化された大会でした。建設CALS/ECの流れを受けて、業務の電子化は着実に定着していることを実感しました。

1.開会挨拶
 開会時に主催者を代表して、全地連の大矢暁技術委員長から挨拶がありました。
 オランダでの地質情報の開示状況を説明し、地質調査業が日本社会に貢献するための今後の課題として、以下の3項目について言及していました。

<1>地質調査結果の評価には、3Dに時間を加えた時空間的な考え方が必要である。
<2>社会構築の全ての段階・過程で地質調査の知識が役に立つことをPRすべき。
<3>デジタル情報化を推進し、従来の職人技的な地質調査をシステム技術に転換しなければならない。

2.特別講演
特別講演は、埼玉大学の佐々木寧教授が「建設事業と生態系再生」と題して講演されました。主な内容は、建設工事で施工されている緑化は、安易に外来種を導入しており、むしろ生態系の撹乱につながっている。これからは、各地域が本来持っている生態系構成を再生できるような緑化を行うべきである。そのためには、ドイツで法制化されているような、表層土の保全を建設工事で積極的に採用すべきである、というものでした。

講演される埼玉大学佐々木教授
講演される埼玉大学佐々木教授

 スギ人工林を森林とは呼ばないとか、人手を加えない自然を最良とする盲目的と感じるような自然保護発言など、共感しかねる内容も一部にはありましたが、建設業界として、今後進むべき道筋を考える議論の一つとしては示唆に富む内容であったと思いました。

3.技術発表会
今回の技術発表会での講演数は、25のセッションに合計105編であり、そのうち東北地区からの発表は8編でした。全てを発表を聞くことはできませんので、関心のある発表を中心に移動しながらの聴講でした。

技術発表会風景
技術発表会風景

 4つの発表会場はいずれも満員の盛況ぶりでした。自分の業務にすぐに役立ちそうな現場での調査・観測事例や、興味深い新技術開発に関する発表など、一部のセッションではかなり白熱した議論も交わされました。改めて地質調査といっても、その技術の幅や対象が広く、まだまだ研究開発の必要なテーマがあるものだと感じました。
 今回のフォーラムで新たに設けられた「優秀技術発表者賞」では、各セッションから1 名、合計25名が受賞しましたが、東北地区からの受賞者は残念ながら1名もありませんでした。分かり易く見易いPPの作成に加え、発表の際のプレゼンテーション力を高めることも今後の課題の一つになるのではないかと思いました。

技術発表会の最後に示された次回技術e-フォーラム(福岡)のメッセージ
技術発表会の最後に示された次回技術e-フォーラム(福岡)のメッセージ

4.フォーラムシアター
 総合受付のすぐ隣の特設会場はフォーラムシアターとして、1日目に環境関連講演と業界活動報告が行われました。
 環境関連講演では、産総研の今井氏がこれまでの産総研の研究成果を有効に活用した地球科学図の制作と環境汚染評価への利活用について講演しました。続いて、損保ジャパンの関氏が、企業にとっての環境問題と環境リスクについて、損保ジャパンが作成した「社会・環境レポート」を使って説明しました。最後に、地盤環境技術研究センターの西田氏が、同センターが取り組んでいるASTM について紹介しました。特に、保険会社までが商品として環境汚染リスクを取り扱う社会状況であることに改めて驚きました。全地連の技術フォーラムにおいて、こうした環境問題に関する独立した講演テーマが取り上げられたことからも、環境・土壌汚染問題などの社会的な重要性や我々業界の役割についての大きさを感じました。
 業界活動報告では、全地連の情報化委員長が「次世代CALS 」に対する全地連の対応と取り組みについて報告しました。CALS に関しては、既に取り組みがスタートし実務でも急速に進んでいますが、更に次世代の高度利用に関する展望や問題点、電子地質図などのテーマを理解することができ、貴重な発表でした。
 地質調査の役割ワーキンググループによる報告では、刊行されたばかりの「事例に学ぶ地質調査」の紹介や、常に我々の仕事の中で考えられる「いかに効果的・合理的な調査を行うか」という大事な課題に関して、具体的な事例を示した分かりやすい内容かつ重要な提案があり、改めて地質調査の役割と問題点を理解するのに役立つ報告でした。地震が多く軟弱地盤や脆弱な地盤を多く抱える日本では、地質調査の重要性をもっとPR して、我々の存在価値を高めても良いのではないでしょうか。

5.展示会
 総合受付のすぐ前に設定された展示会会場では、国土交通省関東地方整備局の特別展示を含めて計22の展示が行われました。
 今回の展示会の特徴として、「環境コーナー」が設定され、会場の約半分がこの展示であったことが挙げられます。土壌汚染調査技術や環境関連商品、あるいは土壌汚染調査用に開発された各種ボーリングマシンやサンプラー等が紹介されていました。各社が新開発した調査機器やサンプラー、解析ソフトなどを展示した会場を訪れる人は途切れることなく、2日間の開催期間中終始盛況でした。環境をテーマにした分野に力が入れられていること、三次元的な解析技術が進んでいることなどが印象として残りました。
 今回初の取り組みとして、2日目に展示会会場のすぐ隣のフォーラムシアターを使って、出展者によるPR発表がありました。各社が工夫を凝らしたPPを使用して新開発機器や新技術の説明を行うことによって、展示ブースを訪れる前の理解を助けることになり、非常に有意義だと思いました。ただ、出展者発表の時間帯が技術発表と重なってしまったため、各社のPR発表を聞く人が思いのほか少なかったのが残念でした。次回以降も出展者発表を行う場合には、開催時間に何らかの配慮があった方がいいと思いました。

賑わう展示会会場 フォーラムシアターで行われた出展者発表
賑わう展示会会場 フォーラムシアターで行われた出展者発表

6.技術者交流懇親会
 1日目の最後には、4階ホールで技術者交流懇親会が行われました。会長の挨拶やご来賓の方から「地質調査に期待しております」という挨拶を頂いた後、にぎやかにご馳走をいただきながら交流を深めることができました。


懇親会冒頭で行われた鏡開き

おわりに
全体の感想として、厳しい経済社会環境にある中で、多数の技術者が熱心に研究や技術力の向上に取り組んでいることを心強く感じました。また、発表や展示の中で、環境問題や土壌汚染をテーマとしたものが多くあり、社会状況の変化や我々業界のこの分野での役割も大きいものであることを改めて実感しました。
 ”全地連「技術e-フォーラム2003」さいたま”の2日目の昼休みに、会場となった大宮ソニックシティの屋外イベント広場で、地元の埼玉県警察音楽隊によるコンサートが行われました。昼食後のひととき、クラシックからビートルズナンバーまで、約10 曲の素敵な音色が奏でられました。地質だ、地盤だ、環境だ、と日頃の堅くて泥臭い仕事(!?乞御容赦)のことをつかの間忘れ、心安らぐひとときを過ごすことができました。毎月、第4金曜日に同じ場所で開催しているとのことですので、そのタイミングで大宮に出張する機会があれば、また拝聴してみたいと心から思いました。
 最後に、有意義な技術e-フォーラムへ参加する機会を与えて下さった東北地質調査業協会技術委員会に感謝申し上げ、参加報告とさせて頂きます。


埼玉県警察音楽隊によるミニコンサート
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