26.平成15 年度日本応用地質学会 東北支部シンポジウムご報告
 東北地質調査業協会の協賛を得て、日本応用地質学会東北支部の平成15 年度シンポジウム「迫り来る宮城県沖地震に備える」今、あなたが居るところは大丈夫?が、平成15 年11 月14 日(金)、仙台市青年文化センター交流ホールにて開催さ
れた。

 近い将来、ほぼ確実に襲うとされる宮城県沖地震、その地盤災害から市民の安全を守ることを目的に、住んでいるところや通勤・通学路など「今、あなたが居るところ」でどんな被害の危険性があるのかを、地形・地質の知見からどれだけ分かるのか、それをもとにして災害を軽減できるのか、基調報告とパネルディスカッションが行なわれた。


開会時の会場の風景

 今回は、話題性と緊急性が高いことから会員はもちろん、広く一般の参加を求めた。支部役員のポスター配り作戦及び新聞報道(11 月6 日河北新報、14 日読売新聞)の効果もあって、開始前から10 数名来場され展示ポスターに見入るなど、関心の高さが伺えた。参加者総数は200名を超え、これまでの支部企画の中では最高を記録した。

11 :00 地盤災害に関連するポスター展示
13 :00 −14 :50 基調講演
(1 )阪神大震災の地盤災害と地形・地質からの教訓 大阪市立大学大学院教授中川康一氏(環境地球学)
(2 )宮城県沖地震に備える地形・地質・地盤の知恵 当学会東北支部代表幹事橋本修一氏
15 :00 〜16 :20 パネルディスカッションパネリストは上記2 氏に加えて
東北大学大学院教授風間基樹氏(地盤工学)
東北大学大学院教授源栄正人氏(地震工学)で、コーディネーターは当支部支部長の日本大学工学部教授田野久貴氏(岩盤工学)が務めた。

 ポスター展示では、強震動が予想される宮城県の地形・地質・活構造の概要、78 年宮城県沖地震での地盤災害、5 月の
三陸南地震、7 月の宮城県北部地震の概要と地盤災害状況、東北地方の地震発生機構と迫り来る宮城県沖地震の予想規模と確率、そして78 年地震以後大きく変貌した仙台周辺の宅地開発状況と造成宅地の切盛地盤図(1/25,000 )が展示され、参加者の注目を集めた。具体的な地域の地盤について熱心な質問が多く、展示各社の担当は丁寧に対応した。

 支部長挨拶では、田野先生自ら持参された実験装置による液状化実験が行なわれ、土中の管構造物の浮き上がり、杭基礎の有無による不等沈下・転倒の違いが大画面で映し出され、会場からはその迫力に驚きの声があがった。実験後、使われた砂に触ってその感触を確かめるなど熱心な参加者もおられた。


展示を食入るように見つめる参加者 目の前の液状化実験に興味深げな参加者
展示を食入るように見つめる参加者 目の前の液状化実験に興味深げな参加者

 中川康一氏は、8 年前の阪神淡路大震災の地盤災害と、その後行なわれた地質調査の結果からなにを学んだかについて講演された。特に、「震災の帯」がその位置に発生した理由は深部から浅部にわたる地質・地盤構造の解明によって判明したことを強調された。また、日本の大都市の地盤は、近年地盤沈下対策によって取水規制された結果、地下水位が上昇し、むしろ液状化の危険性が増しているとの指摘と、適正レベルまで低下してはとの提言をなされた。

 橋本氏は、地形・地質の成り立ち、過去の地盤災害そして応用地質的知見を合わせて自分の地下を知ることが、予想される地震時の地盤災害を軽減に役立つことを、学会支部会員提供の多くのデータを用いて説明した。特にシンポジウム実行WG で新たに作成、配布した「地震災害危険度チェックリスト」及び「地震だ!今いる道、帰る道大丈夫?」を用いて、自分のいる所が地震時にどうなるのかを読み取るための基礎的知識を非専門家向けに解説した。今回は、より地域に密着した防災マップ作成に地質・地盤情報を活用するためのスタート地点に立った状態であり、前述の2 資料も含めて今後より使いやすい、防災マップに反映しやすいように更新される性格のものとの説明があった。

基調講演(1)中川康一教授 基調講演(2)橋本修一氏
基調講演(1)中川康一教授 基調講演(2)橋本修一氏

 パネルディスカッションは上記2 氏に地盤工学、地震工学が専門の2 氏を加えて行なわれ、それぞれ専門の最新の知見を、防災、減災にどのように活かすべきか話しあわれた。

 風間教授からは5 月、7 月の地震時に液状化を起した地域の調査結果などから、緩い砂地盤と、土地利用の変化した地域、洗礼を受けていない地域が要注意であること、地下水位の上昇と密接な関係があり、季節変動に注意すべきとの話があった。源栄教授からは5 月の地震時でのアンケート震度調査から、造成宅地の切土と盛土部分では有意な差が出たとの紹介があり、身近な地盤の状態を知っておくことが防災意識を高め、具体的対策につながるとの認識が示された。さらに、12月に産官学の統合的連携組織である「宮城県沖地震対策研究協議会」が設立されることになっているが、こうした組織を活用し、地質・地盤情報を一つの学会や機関で留めておくのではなく一般市民まで理解、浸透させるべきとの認識を強くした。
(文責 代表幹事 橋本)


 パネルディスカッション風景。左より田野氏、中川氏、風間氏、源栄氏、橋本氏「知識は蓄積されるが、知恵は活かされない」ことのないようにしなければならない
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