57.本荘平野の地盤特性と工学的諸問題 奥山ボーリング(株)
佐藤 直行・藤井 登・高橋俊則

1 .はじめに

本荘平野は東北日本海側、秋田県南西部に位置する沖積平野である。平野を流下する幹川は、日本海に注ぐ一級河川子吉川(延長61km )であり、秋田・庄内平野などを流下する河川と較べて流路延長が短い。主な支川として芋川(延長41km )がある。現在、本荘平野では河川災害復旧や自動車専用道路などの大規模な工事が行われており、軟弱な粘性土に起因した諸問題が発生している。ここに、本荘平野の既存地質調査資料を整理し、地質構成、土質特性、工学的諸問題についてとりまとめた結果を報告する。

図- 1 位置案内図 →
2 .地質構成と土質特性

(1 )整理方法

本荘平野においてこれまで実施された調査ボーリングデータのうち、386 本のボーリングデータを収集し、地質構成をとりまとめた。また、68 〜109 試料(試験項目によって異なる)の土質試験データから、土質定数をまとめるとともに、深度と土質定数、土質定数の相関性についてまとめた。

(2 )地質構成

未固結層厚は最大約60m で、上位より軟弱な粘性土、緩い砂礫層、下位粘性土層などから成る。上位の軟弱な粘性土は平野全域に分布し、N 値=0 〜5 程度で層厚は概ね5m 程度である。砂礫層は主に中〜上流域に分布し、概ねN 値=5 〜15 程度
で、最大層厚は約20m であり、基盤岩上に連続して分布する。下位の粘性土は、N 値=10 程度で砂礫層の少ない中〜下流域に広く分布する。層厚は最大で30m 程度である。砂層の分布は少ない。(3 )粘性土の土質特性表- 1 はとりまとめた粘性土の土質定数を、データ数とともに示したものである。また、図- 3 は深度と各土質定数の関係を示したものである。これらより、以下のことがいえる。

・一軸圧縮強度は、ばらつきはあるものの、下位ほど大きい一般的な傾向を示す。
・液性限界は自然含水比に近い試料が多く、不安定な状態にある。
・10m 以浅の湿潤密度は、ばらつきが大きい。

図- 2 模式柱状図 表- 1 土質試験結果一覧表


図- 3 土質試験結果深度分布図

また、図- 4 は土質定数間の相関を示したものである。


図- 3 土質試験結果深度分布図

これらより、以下のことがいえる。

●液性限界と圧縮指数の関係は、相関性が認められ、近似式としてCc=0.009(WL- 11 )を得た。これはスケンプトンによるCc=0.009(WL- 10)に近い結果である。また、遠藤ら1) の秋田平野・庄内平野のデータと比較した場合若干違いが認められた。
●湿潤密度と自然含水比の関係は、飽和度を100%と仮定した理論値曲線に対し、良好な相関を示す。(ρs は平均値である2.536g/cm 3 )・自然含水比と自然間隙比の関係は、良好な相関性が認められ、近似式としてen=0.0244Wn を得た。秋田庄内平野においても、良好な相関が得られている。

●自然間隙比と圧縮指数の関係は、相関関係が認められ、近似式としてCc=0.42 (en- 0.2 )を得た。圧縮指数Cc は、秋田・庄内平野と比較して、en >2 の範囲において小さくなる傾向が認められる。

3 .工学的諸問題


軟弱な粘性土を対象とした土工事において、問題となった事例を紹介する。

(1)軟弱な粘性土盛土の安定

軟弱な粘性土を用いた盛土においては、盛土の安定が問題となる。ここでは排水対策が安定に大きく影響した事例を紹介する。A 現場は、盛土法面付近約50m に不織布を高さ0.5m ピッチで面的に敷設した現場である。B 現場は盛土範囲全体にわたって、上下及び横方向に千鳥状1.5m ピッチで、板状排水材を線的に配置した現場である。B 現場は盛土体に変位が発生した他、湿地状態が長期間継続した。A 現場は排水も良好で安定な盛土体を維持している。軟弱な粘性土よりなる盛土の安定には、排水効果が大きく影響し、特に盛土法面付近からの面的排水工が有効であることが判明した。

(2)施工機械のトラフィカビリティーの確保

軟弱な粘性土を対象とした盛土においては、施工機械のトラフィカビリティーの確保と共に、締固め度が重要な問題となる。C 現場では、自然含水比の高い粘性土を材料に築堤土工が実施された。湿地ブルドーザーを使用して試験施工を実施した結果、自然含水比状態では、所定の締固め密度もトラフィカビリティーも得られなかった。そのため、セメント系固化材による安定処理を計画し、配合量35kg/m 3 と70kg/m 3 の場合について試験施工を実施した。その結果、配合量35kg/m 3で、2 〜4 回の少ない転圧回数により所定の密度比が得られ、経済的な施工が可能となった。

(3)切土法面の安定

軟弱な粘性土を対象とした切土においては、切土法面の安定が問題となる。仮設切土の標準勾配である1:0.5 の勾配では、崩壊・法面の押し出し等が発生しており、安定計算による勾配決定が必要である。ただし、安定計算では算出されにくい形状の変状も発生している。流動性の押し出し変状がこれにあたり、地下水位下の砂分、シルト分優勢箇所に発生しており、留意点として挙げられる。

4 .おわりに

本荘平野における粘性土の土質特性として、@自然含水比が高く液性限界に近いこと、A掘削や捨土等の乱れにより軟弱化し易く、いったん乱した後は、適切な排水工や地盤改良工との併用がなければ強度の回復が遅れることが挙げられる。本荘平野は他の平野に比べて研究・報告された例が少なく、このたび機会を得て地質データ、土質試験データを収集し、とりまとめた。今後、粘性土を粒度構成、含水比等よりさらに細分化し、諸定数あるいはe- logP 曲線等について整理することにより、さらに本荘平野における実用的な指標が得られるものと考えている。工学的には、逆解析及び掘削・切土後、矢板打設後の強度を把握することにより、強度低下について解析し、類似地盤の設計に役立てたいと考えている。また、海岸に近い平野であることから、海成粘土と淡水成粘土の工学的な違いに着目し、解析を進めてゆく考えである。

《引用・参考文献》

1)遠藤、小泉、館山、千坂:「全地連技術フォーラム'96 講演集」、社団法人全国地質調査業協会連合会、pp.229 〜232.
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