54.EM 探査による堤防浸透危険個所の調査検討事例 川崎地質(株)
太田 史朗・山田 茂治・杉浦 達也
1 .はじめに 一般河川において、安全性の高い堤防構築を行うためには、設計外力に対して耐浸食ならびに耐浸透機能を満足する必要がある。この中で、堤防の耐浸透設計にあたっては、基礎地盤ならびに堤体の土質構造を把握し、浸透危険個所の有無を判断することが重要であるものの、延長の長い河川堤防で、密な地盤調査を行うには限界があり、物理探査を併用することで効率的な調査が可能になるものと思われる。今回は、電気探査に比して簡便であり、高導電率体(低比抵抗体)の検出に優れた、スリングラム式EM (電磁)探査を実施した結果を紹介する。 2 .探査方法 EM (electromagnetic- method )探査とは、電流と磁気との相互作用を利用した電気探査法の総称であり、大地内の電流によって生ずる磁場、または電磁場を観測する方法である。観測される磁場の大きさは大地の導電性(導電率や比抵抗)に相対するため、電気探査等と同じく、「大地の電気構造」を把握することができるが、特に良導電帯の検出に優れ、古くから鉱床調査に使用されて発展してきたため、土木の分野においては、含水比の高い粘性土の検出に優れているものと判断される。スリングラム式EM 探査は、コイルないしはループに電流を流し、この電流によって発生する人工的な誘導電磁場を観測し大地の導電率を算出する方法である。図- 1 に人工電磁場を利用したEM 探査法の観測概念を示す。 |
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図- 1 EM 探査法の観測概念図 |
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3 .使用機械 スリングラムEM 探査の特徴は、非接地型の探査であるため、砂利敷き、アスファルトの堤防でも調査が出来、広域且つ高密度調査を可能にできる機動性を備えていることといえる。弊社の有している機械は、探査深度地下6 〜8m 程までのEM31 、地下30 〜40m 程までのEM34 である。EM31 は写真- 1 に示したように一人の計測員で調査でき、1 日に数百点の観測が可能である。探査深度は地下6 〜8m までが限界であるが、その中でも、地下3m までの導電率情報を分離して計測できることから、堤体構造ならびに表層部の地盤構造に対して、高精度の測定が期待され、広域範囲における導電率異常部の平面マッピングに適する。 |
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EM34 は、送信コイルと受信コイルの間隔を変更できる特徴を持ち、6 深度階の導電率情報を取得できる(EM31 と併用すれば8 深度階の情報が取得できる)。以上のことから、高密度電気探査のように多層構造解析を適用することが可能であり、地下導電率構造を表す映像断面図を作成することができる。 | ||||
4 .探査結果 本事例は、被災履歴を有する堤防での、堤防強化設計のための地盤調査であり、ボーリングに先立ち、EM 探査を実施し、危険箇所の選定を試みたものである。 |
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図- 4 EM 探査結果(2 次元断面) 図- 2 測線位置図 図- 3 測線断面図 |
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探査の結果、図- 4 に示される導電率断面が得られ、川表側では、低導電率を示す「透水性地盤:点線内」が、一方の、川裏側では、高導電率を示す「不透水性地盤」の存在が示唆された。このように、川裏側で不透水性地盤が分布する場合は、耐浸透上問題のある「行き止まり型」地盤となるため、ボーリング調査により、地盤状況・透水性を確認し、耐浸透性に関する諸検討を行うこととした。なお、川裏側に高導電率ゾーンが分布する箇所は、過去の漏水個所と一致することが判明した。 |
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図- 5 地盤構成 |
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5 .考察 ボーリングにより明らかとなった地盤構成は、図- 5 に示す模式図の通りであり、河床から連続する砂・砂礫層からの浸透水が、粘性土Ac により堤防のり尻方向に上昇する浸透機構が想定された。 |
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そこで、基盤漏水時の洪水データを用いた浸透流解析から、耐浸透性の定量化を試みた結果、局所導水勾配ic ≧0.5 となり、パイピングの発生が示唆された。また、計画洪水位(EL21.5m )を想定した検討では、局所導水勾配ic ≒1.0 程度となり、堤防強化の必要性が明らかとなった。 6 .まとめ 本事例では、ノイズが少ない好条件での測定であったことも起因し、EM 探査により「行き止まり型」の地盤構成と被災履歴箇所が一致し、更に、得られた地盤モデルでの浸透解析により、被災状況と、計画洪水時の堤防安定性を定量的に評価することが出来た。堤防は延長が長く、一定間隔でボーリング調査を行うことは費用対効果の面で、必ずしも効率的ではないため、測定条件が整えば、EM 探査を併用することで、効率的な検討位置の選定及び対策範囲の設定に、有効であると考える。 |
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