東北工業大学名誉教授(地すべり学会東北支部顧問)
理学博士 盛合 禧夫04.土の見せるさまざまな顔
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ラテライト |
A .アンコール遺跡 1000 年余りも前、メコン川のほとりに一大文明が興った。9 世紀から約500 年間にわたったアンコール朝のクメール王国。現在のカンボジア北西部を中心に、一時は今のベトナム南部からラオス、タイ、マレー半島北部までを支配したその文明は、高度な様式美と近隣諸地域に及 |
アンコールワット ぼした影響の大きさから、古代ギリシャに比され、この時代のカンボジアは「東南アジアのギリシャ」とさえ呼ばれる。クメール文明もギリシャのように石造建築に優れ、カンボジア北西部で現在確認されているだけでも大小約1300 の建築遺跡を残した。これがアンコール遺跡群である。「アンコール(Angkor)」はサンスクリット語のNagara (町)から出た言葉で、「都市」を意味する。これらの寺院にはラテライト性赤色土の上に最初は主にレンガを用いて建造されていたが、やがてラテライトが用いられるようになり、最終的には砂岩を主とするようになり、ラテライトは基礎とか塀にだけ使用されるようになった。多くの寺院はピラミッド型の寺院で、これはヒンズー教の神話に登場するメール山(須弥山)を表す。この中で最も有名なものにアンコール・ワットがある。また、ラオスのワット・プーは山の斜面に造られた大遺跡である。5 世紀、この地を征服したクメール族のチェンラ(真臘)はここからカンボジアに入り、一大文明を築き上げる。その象徴的な建物が前述のアンコール・ワットである。ワット・プーもほぼ同時期に完成したから約数百年かかったことになる。現在斜面災害が発生し、危険な状態にある。 |
B .源岩 源岩の推定は困難であるが、鉄・アルミニウムの存在から考えれば、塩基性または超塩基性岩の可能性が最も大きい。しかし、本地域には先古生界・古生界・中生界および各種の火成岩が存在しており、源岩を限定することは極めて困難である。また、ラテライト中には流紋岩や花崗岩および他の石を取り込んでいることも多いので、残積・残留だけではなく運積したものもあり、再堆積して生成されたことも考えられる。また、風化は数メートル〜数十メートルにも及ぶものと想定される。また、通説には数十万年から数百万年、時には第三紀中新世から鮮新世にかけて生成された土壌から残った沈殿物とも言われている。 |
C .性状 上記のような鉄集積層で、内部構造は球状・魚卵状・同心円状を呈したものが多い。これは酸化鉄核によるもので、更に結核が連結して蜂の巣状となる。水分がある時は軟らかく、一度脱水するとレンガのように硬くなり、吸湿しなくなる(ゲル化(膠化体))。これが一般に言われるラテライトである。 |
D .分析値 アンコール遺跡地区では、砂岩が珪酸約70 %であるのに対して、ラテライトは25 〜50 %と非常に少ない。また、ラテライトには鉄分が多量に含まれており、それは三価の鉄である。非常に酸化されやすい環境にあったことが想定される。マンガン、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム(MnO 、MgO 、CaO 、Na2 O 、K2 O )はほとんど溶脱されている。次にラテライトについても、アルミニウムと鉄の関係(Al2 O3 −Fe2 O3 〈酸化第二鉄〉およびAl2 O3 −FeO 〈酸化第一鉄〉)、鉄と珪酸の関係(FeO −SiO2 およびFe2 O3 −SiO2 )をみてみると、酸化第一鉄(FeO )は非常に微量であるのに比して、酸化アルミニウム(Al2 O3 )は11 〜17 %に増加、酸化第二鉄(Fe2 O3 )も20〜49 %台に増加して、いかに酸化されやすい環境下にあったかが裏付けられている。 E .ラテライトと鉄 人類は岩石から種々の道具を作ることを努力してきた。すなわち、岩石は太古から農業・土木工事・武器・宗教に利用されてきた。しかし、紀元前5000 〜6000年頃から金、銀、銅などの金属が発見されて利用されてくると岩石は主な道具の材料ではなくなり、青銅器時代となる。やがて鉄が出現し、鉄器時代へと移っていく。アンコール遺跡には鉄製品がふんだんに使われている。これは何処から持ってきたのであろうか。鉄製品はもしかするとラテライトから抽出精製したのではないかということも考えられた。それはラテライトは無尽蔵にあり、鉄が30〜50 %含有しているからである。また、理論的には炭素で還元すれば容易に抽出できる。それで筆者らは実験室で約100gのラテライトから約40 〜50g の鉄(銑鉄)が簡単に抽出することに成功した。これが事実だとすればラテライトはクメール文明の(武器、農機具、神具など)一大発展に貢献したことになる。 F .共振法によるラテライトの強度 共振法とは筆者らが開発(特許取得済)した非破壊測定法でf =v /21 、f :周波数、v :音速、1 :長さ、この共振周波数から音速を出して圧縮強度を推定する方法である。また、土のような物質は弾性領域と塑性領域との関係で土の劣化や破壊の予測をできるものである。ラテライト(紅土石)はv =1.1 〜2.0km/s でqu =200kgf/cm 2 であり、一般に遺跡に使用している砂岩の強度の70 %程度である。ラテライト性赤色土はv =200 〜300m/s であるが、一般の土よりは強く、特に水の付加によっても強度が低下しない。それ故、太古の昔カンボジアの遺跡の砂地業に用いられていることも解明でき、今更ながら驚く。 参考文献 1 )盛合禧夫:アンコール遺跡の地質学、連合出版,(2000 ) 2 )盛合禧夫・松村吉康・他2 名:地すべりに関する新共振法による研究,地すべり,Vol.38 、No.1 、(2001 ) |
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