協会誌「大地」No48

(株)テクノ長谷 加藤 彰

地すべり学会東北支部
平成19年度現地検討会報告

宮城県白石市小原地内:追久保地すべり

平成19年10月11日〜12日

日本地すべり学会東北支部の現地検討会も回を重ね、本年で22回目を迎えた。

本年度のフィールドは宮城県であり、平成19年7月15日に発生した「追久保地すべり」を対象として開催された。

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冠頂部から移動体内の眺望

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地すべり災害後の空中写真

<追久保地すべりの概要:現地検討会資料より>

被災概要
台風4号による豪雨を誘因として地すべりが発生し、市道小久保平原線が地 すべり滑動によって被災した。地すべり滑動により、延長265mにわたり、市道が流出し、地すべり区域との境界では高さ15mの段差が発生しており、市道は通行止めとなった。

・被災原因

[素因]脆弱な地質(流れ盤構造の砂岩泥岩互層)の分布

(推定)[誘因]台風4号による豪雨(観測所名:白石⇒アメダス雨量計連続雨量169mm)最大24時間雨量169mm,最大時間雨量27mm

・地すべり規模

幅(W)200m、長さ(L)300m、すべり層厚(D)25m(調査前 推定移動土塊量(V)約1,000,000m3(=200×300×25×2/3)

・現地の状況

[地すべり頭部]

滑落崖高さ約30m,幅約100mの円弧形状を呈し,地すべり 側部へ至る。

[地すべり側部]

下流側では延長約300mの滑落崖(最大高さ15m)を呈し、河川へ至る。

上流側では延長約200mの滑落崖(最大高さ10m)を呈し、河川へ至る。

[地すべり末端部]

幅約200mにわたる移動土塊によって、蝦夷倉川河道は左 岸側に押出され、一部閉塞している。

[現地視察会(第一日目午後)]

平成19年10月11日、宮城県の小原温泉「かつらや」旅館に集合した参加メンバー総勢40名は、宮城県大河原土木事務所所長・村井 怜氏のご挨拶および同県防災砂防課技術主査・鈴木秀明氏の概要説明を受けた後、例年通り6班のグループに分かれ、発生後間もない生々しい地すべり現場に向った。従来であれば、バスでの移動となるところであるが、今回は経費節減と参加者の健康増進を考えた事務局側の配慮? により、約20分の徒歩移動で市道小久保平原線の崩壊現場に到着した。

これまでの現地検討会の殆どは,地すべり対策事業概成後や、対策工の施工途上の現場であったが、今回の現場は地すべり滑動の痕跡がほぼ100%残っており、その様相には参加者全員が圧倒された。

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蝦夷倉川左岸に乗り上げた砂防堰堤

地すべり現場における視察は、宮城県および調査担当の日本工営(株)のご協力により準備された案内板に従って、まず下流側の地すべり側部から旧地すべり側方崖を辿りながら主滑落崖(冠頂部)に至る上りコースを取った。主滑落崖(冠頂部)からは、ブロック状に傾動した巨大な岩塊、紙のように千切れた舗装道路,捻じ曲がったガードレール等々を目の当たりすることが出来た。その後、地すべり滑動のメカニズムを議論しながら移動体の内部を縦断し、末端部を流れる蝦夷倉川に向った。蝦夷倉川上流側では,砂防堰堤が地すべり滑動により引き千切られた無残な姿を晒していたが、その巨大な破壊エネルギーを感じつつ、一時的に形成された天然ダムの痕跡を見学した。最後に、蝦夷倉川下流側に露出する地すべり末端部の移動体と不動岩盤の境界部箇所に足を運び、現場視察を無事終えた。

当日の晩は、視察の疲れをかけ流しの温泉で癒した後、恒例の意見交流会で地すべり談義に花を咲かせ、最後に桧垣支部長の特技である万歳で持って初日の幕を閉じた。

[現地討論会(第二日目午前)]

今回の討論会のテーマは、「地すべり発生前の空中写真判読により、地すべり発生後の崩壊地形を予見することが可能であるか」および「地すべり地形の危険度評価(AHP法)による判定結果の重要性」の2点であった。

討論会では、まず最初に参加者全員に発生前後の二組の空中写真を配布し、写真判読してもらうことから始まった。その後、各グループで地形判読結果について話し合い整理し、各グループの代表者が報告後、全体討議するといった手順で進行した。討議内容の概要を以下に紹介すると、

今回の討論会は、若手技術者および学生の参加もあって活気が感じられ、また真剣に討論する熱気に溢れ非常に盛会であった。ここ数年、現地検討会の参加者は概ね固定された人数となっており、さらに若い技術者の参加がまだまだ少ない現状にある。次年度以降は、若い多くの技術者が参加するよう紙面を借りてお願いしたい。

追久保地すべりは、平成15年〜17年度に東北支部が宮城県からの学会受託業務、「地すべり地形の危険度判定手法及び危険度評価業務」(宮城県・日本地すべり学会2006)で作成した危険箇所マップで抽出されていた範囲に位置していた。この危険度評価業務で判読した空中写真は1999年撮影のもので、地すべり頭部付近が農地造成により人口改変がなされていたため、その付近の地形判読が困難であったため、危険度評価の点数(AHP法)は低く(54.2点)評価されていた。地すべり発生後、1964年(農地造成前)の空中写真を用いて再判読を行った結果、75点の評価となった。

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熱気溢れる討論会の様子(2007.10.12)

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