協会誌「大地」No45

(株)日本地下探査 事業推進本部 今里 武彦

東北事務所長 神馬 幸夫

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09.物理探査の動向と適用(3)
防災・メンテナンス・環境・温泉地下水・遺跡調査への適用例

4.環境分野(廃棄物・塩淡境界・油類・VOC)

環境に関する調査で物理探査が利用されるケースは少なかったのですが、廃棄物の平面的な広がりや分布深度を明らかにする必要性から物理探査が活用されるようになっています。特に、東北地方では青森県と岩手県境に廃棄された廃棄物が社会問題になっており、実体を調べる一環として物理探査が活用されています3)。最近では、管理型の最終処分場で処分されるようになりましたが、以前は管理することなく処分されたり、不法投棄されることもありました。廃棄物といってもその中身には様々な物があり、コンクリートガラなどの建設廃材、焼却灰、古タイヤ、家庭用電化製品、廃油等が入ったドラムカンなどといった具合です。廃棄物の分布範囲や深度の特定には、文献3)にあるように比抵抗二次元探査や高密度弾性波探査が挙げられますが、その他にもEm探査も活用できます。また、水平磁気探査やマルチ周波数Em探査なども併用することで、廃棄物が金属物であるかどうかや金属物の位置を特定することも可能になるものと思われます。

海岸近くでの大量の地下水の汲み上げによって塩水が内陸にまで浸入し、地下水が塩水化して作物に被害を及ぼしている所もあります。塩水は地下水よりも電気を流しやすいため、比抵抗二次元探査やマルチ周波数Em探査で地下の比抵抗(電導度)分布からその存在範囲を推定4)することが可能です。また、井戸がある場合には電気検層や電導度検層を行って、水質分析の結果と併せて現状を把握することができます。電気検層は、図4-1に示すように電流電極1個と電位電極3個(間隔は0.25m・0.5m・1.0mが一般的)がついたゾンデを孔内に降ろし、井戸近傍の地盤の比抵抗を測定するもので、電導度検層は井戸に電導度計を降ろして地下水の電導度を測定する方法です。いずれも、深度方向に連続した記録が得られるため、塩水が浸入している深度を特定できます。ただし、鉄管や無孔の塩ビ管が挿入されている場合は、電気検層は測定出来なくなります。塩ビ管でも開口率が7%以上の場合は、塩ビ管の影響(塩ビ管は絶縁体であるため、開口率が低いと比抵抗が実際よりも大きめに出る)が非常に小さくなるため、地盤を反映した記録を取得することができます。

油類による地盤汚染は、貯槽タンクなどからの漏れに起因すると言われています。重油を除けば、ガソリンなどは揮発性ですから地下のガスを吸引して分析することで汚染の有無を調べています。物理探査による場合は、油類そのものはは絶縁体であるため、地下にしみ出した場合はその部分が高比抵抗として検出される可能性が大きいものと考えられます。したがって、4極法による比抵抗二次元探査や比抵抗トモグラフィおよびIP法が適用できるものと思われます。

ただし、米国のある汚染現場の井戸で電気検層を行った結果、廃棄ガソリンが濃集する地下水位面付近ではその下位の滞水層の比抵抗よりも低比抵抗になっているとの報告5)もあります。この原因は、油分解バクテリアによってNAPLが分解され、それが地下水に溶けることによると結論づけられています。よって、汚染されてからの時間によって比抵抗が左右される可能性があります。

圧密試験型比抵抗測定装置を使った実験では軽油含有率を変えた場合に比抵抗が変化する様子を捉えており、同時に比抵抗コーン(ウェンナー法によって地盤の比抵抗を測定するコーン)を油汚染調査に適用できる可能性も示しています6)。

VOCは地下水を汚染し、発ガンの元になるということで社会的にクローズアップされました。VOCも原液は非常に電気を通しにくい物質ですが、比重が重いため地下に浸透して拡散します。原液に近い状態であれば高比抵抗として検出7)されるため、4極法による比抵抗二次元探査や比抵抗トモグラフィで検出できるものと思われます。ただし、濃度が低い場合は検出できなくなる可能性が大きいと思われます。

濃度が高い油類やVOCは、周辺地盤よりも比抵抗が高くなり検出できる可能性がありますが、濃度が低い場合は地表からの探査では困難になるものと思われます。ただし、流出場所が特定されれば、比抵抗コーンなどで汚染深度を確認することができるものと思われます。いずれにしても、油類やVOC検出に対する物理探査の適用は、今後の課題と考えられます。

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図4-1 電気検層測定概念図

5.温泉・地下水調査

温泉や地下水の開発は、開発対象となる層に地下水が賦存するか否かと透水性の良否によって決定され、地下水の賦存と透水性の良否は、対象となる層の地質とその状況(亀裂の有無など)に左右されます。電気比抵抗は、地質や同じ地質でも地下水の有無によって大きく異なりますので、地下の比抵抗分布に主眼をおいて調査を行います。温泉の場合、開発対象となる深度が1000〜2000mと深い探査が必要となります。このように深い深度を探査対象とする場合は、図5-1に示すCSAMT 法とよばれる電磁探査法が利用されます。

この方法は、図5-1に示すように測定対象エリアから4〜7km程度離れた場所に長さ1〜2kmのアンテナを張り、アンテナに数A の電流を流し、その際に発生する電場と磁場を測定地点で測定します。流す電流の周波数を変えることで、その周波数に応じた比抵抗を測定します。高い周波数は地下の浅い部分を、低い周波数は深い部分の構造を反映しますが、複数の周波数を設定することで地下浅部から深部までの比抵抗が明らかになります。図5-2に解析の結果例を示します。

また、開発対象層の透水性を左右する1つの要因に、亀裂の有無が挙げられます。開発対象エリアに断層が存在すれば、地下深部に亀裂が分布する可能性があります。地質図などで調べた断層の有無を、比抵抗二次元探査や自然放射能探査によって確認します。周辺地質や断層の有無および深部の比抵抗を総合的に解釈して、温泉開発の可能性を検討します。

地下水を開発する対象となる深度は数10〜数100m程度ですが、電気比抵抗に主眼をおいた探査という意味では温泉調査と同じです。しかし、対象深度が浅いため、CSAMT 法ではなく図5-3に示すように垂直電気探査(測定地点直下を深度方向に比抵抗を把握する方法)を複数点行い、調査地の地質と比抵抗分布をもとに、地下水開発の可能性を検討します。

垂直電気探査は、探査したい測定点Oを中心に地盤に電流を流すための電流極(A とB )および電位を測定するための電位電極(mとN )を対象に配置し、測定点O の直下の見掛比抵抗分布を測定する方法です。A ・B ・m・N 極をある間隔で広げることで、深度方向にデータ(AB/2の距離と見掛比抵抗を両対数にプロットしますが、これをVES 曲線といいます)を取得します。解析では、このVES 曲線を標準曲線と補助曲線を使って初期モデルになる比抵抗構造を求め、測定したVES 曲線とモデルに対して理論的に計算されたVES 曲線がある程度一致するまでモデルを修正し、最終的なモデルを比抵抗構造とします(図5-4参照)

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送信局は送信ケーブルより通電し、地中に電流を流します。受信局は地中に電流を流すことにより発生する磁場(送信アンテナと直行方向)及び電場(送信アンテナと平行方向)をそれぞれ測定します。

図5-1 CSAMT 法測定概念図

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図5-2 CSAMT 法解析結果の一例

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図5-3 垂直電気探査測定概念図

6.遺跡調査

遺跡には古墳、石室、水路跡、住居跡、貝塚、窯跡、鉄製遺物などさまざまなものがあります。窯跡や鉄製遺物以外の探査では、比抵抗二次元探査・Emなどの電磁探査・地中レーダなどが利用されています。窯跡や鉄製遺物の探査には、磁気探査が使われていますが、全磁力や磁気の傾度を測定する傾度法によって行われています。また、石室の探査には、中が空洞ということもあり、微重力探査なども利用されています。遺跡調査に関しては、マニュアル8)も作成されていますので、参考になるもと思われます。

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図5-4 垂直電気探査解析結果の一例

最後に

物理探査は、地質調査の分野では概査に当たりますが、ある面では精査的な性質も有しています。最近では、社会的に効率性を重視する傾向にありますが、我々の調査分野においても同じ事が言えるのではないでしょうか。物理探査の概要および適用性について2回に渡りご紹介させて頂きましたが、他にもいろいろな使われ方がなされていると思います。ここ数年、地震や台風による被害が年々増えているような気がします。特に、東北地方では宮城県沖地震が懸念されており、被害の観点からすると防災分野の更なる整備が必要かと思われます。また、青森・岩手の両県だけではなく、全国的に産業廃棄物の不法投棄現場の状況把握、地下水や土壌の汚染などの環境問題は深刻なことだと考えられます。

これら防災・環境保全について産学官が一体となって取り組む必要があると思います。

これらの課題に対しては、出来るだけ広域を効率よく安価に調査し、評価できることが要請されています。そのような観点からすると、物理探査はその役割を担うことができると考えています。今後、探査手法の改善に努め、精度を向上させると共に更なる効率化をはかることが重要だと考えています。

最後になりましたが、物理探査の紹介をするにあたり、各関係機関の方々には資料の提供などでお世話になりました。また、執筆の機会を与えて頂きました東北地質調査業協会の関係各位の皆様方に心より感謝申しあげます。

力不足で細かなところまでご紹介できなかったと思いますので、(社)物理探査学会編の「物理探査適用の手引き(とくに土木分野への利用)」や「物理探査ハンドブック」などを参考にしていただけると幸いです。

<参考文献>

4)光畑裕司・内田利弘・松尾公一・大里和己・丸井敦尚・楠瀬勤一郎:物理探査電磁法による沿岸域帯水層における塩水浸入領域調査、2004年秋季講演会講演要旨、地下水学会、172-175、2004.

5)Atekwana,E.A..,Dale Werkema,D.,Jr.,Duris,J.W.,Rossbach,S.,Atekwana,E.A.,Sauck,W.D.,Cassidy,D.P.,Means,J.,and Legall,F.D.:In-situ apparent conductivity measurements and microbialpopulation distribution at a hydrocarbon-contaminated site 、Geophysics 、69、56-63、2004.

6)松本基・森山登・湊太郎・福江正治:電導コーンによる地盤比抵抗の測定、第34回地盤工学研究発表会(東京)、地盤工学会、273-274、1997、7.

7)岩崎智治・西田道夫・萩野晃平・笠水上光博・藤田嵩:比抵抗によるTCE・PCE探知の試み、土壌汚染とその防止対策に関する研究集会、第3回講演集、(社)日本水環境学会(関西支部)、日本地下水学会、91-96、1994、6.

8)沖縄県教育委員会・(社)物理探査学会:平成15年度文化庁支出委任、埋蔵文化財広域発掘手法検討調査事業報告書、物理探査を利用した埋蔵文化財広域発掘調査手法物理探査実施マニュアルおよび解説?、2004、3.

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