日本工営(株)   中條 智

中條 智

08.中国茶の楽しみ

 私が、中国茶の勉強を始めたのは、3年くらい前でした。

 中国茶は、特にここ数年ですっかり日本に広まってきたように思われます。

 今、街中には専門の喫茶店も多くあり、コンビニのショーケースを覗けば日本の緑茶と並んで、いくつもの中国茶のペットボトルを見つけることが出来ます。

 それでも少し前までは、ほとんどの人が「中国茶」といえば「ウーロン茶」か「ジャスミン茶」くらいしか思い浮かばなかったのではないでしょうか。

 もともと私は、お茶の類は緑茶でも紅茶でも大好きで、基本的には面倒くさがりの私が、お茶を入れる時だけは、出来る限り美味しく入れられるように水や手順に気を使っていました。

 4.5 年位前から中国茶がブームになってきていて、私も気になってはいたのです。しかし東京では専門のお茶屋や茶芸館も出来ていたようですが、仙台ではまだ茶葉を扱っているところも少ない状況でした。(私が知らなかっただけなのかもしれませんが・・)いろいろ気になるので、ネットでお店を探して幾つか茶葉を買い求め、自分なりに楽しんでいました。しかしこの「中国茶」というのは間口も広いが奥も深いというシロモノで、茶葉の大分類だけでも発酵度別に6 種類あり、それぞれに入れ方も異なるというのです。当然茶道具もそれに合わせて様々というわけです。

 時々凝り性になる私は、こうなると、自分がいま飲んでいるこのお茶は、この入れ方で本当に合っているのか、もしやもっと美味しく飲む方法があるのではと考えだしてしまったのです。

 それで、勉強、というかまあ、「中国茶講座」というものに通い始めたのでした。

 始めは、おいしい入れ方を教えてもらえれば・・・という軽い気持ちだったのですが、通い始めてみると、先生が熱心な方だったこともあり、ただお茶の入れ方を習うというより、茶葉の製造工程から歴史から文化まで、やたらと本格的なお勉強プログラムになっていたのです。そのうちに、茶芸会の開催や中国茶文化協会の東北支部立ち上げのお手伝いなどもすることになってしまいました。

 と、いうわけで私の中国茶生活が始まったのですが、勉強してみると、それまで普通に飲んでいた緑茶や紅茶についても知らなかった発見がたくさんありました。

 とても基本的なことですが、お茶というのは、緑茶も紅茶も基本的には同じお茶の葉から作るのです。静岡のお茶畑の映像なんかで見る、あのつやつやした濃い緑色の葉っぱです。

 ではどうして、あんなに色も味も違うのかというと、それは製法の違い、主に発酵度の違いによるものです。緑茶は「不発酵」で紅茶は「完全発酵」させて作ります。お茶の葉は、摘んでそのままにしておくと自然に発酵を始めますが、緑茶ではこの発酵を止めてやるのです。その手段はいくつかありますが、釜で炒ったり蒸したりするのが主な方法です。ここで発酵を止めずに、様々な方法でさらに発酵させていくと、これが「半発酵茶」(緑茶や紅茶に対し「青茶」と呼ばれる)となります。烏龍茶など一般に日本で中国茶のイメージをもたれているのはこのタイプです。さらに、発酵が100%になると「完全発酵茶」の紅茶になるわけです。ほかにも「完全後発酵茶」(黒茶)などがあり、これには普耳茶プーアルチャなどがそうです。脂肪を分解してくれる効果の高いお茶です。

「中国茶」というと日本では、イコール烏龍茶つまり半発酵茶「青茶」のイメージが強いようで、実際私もそう思っていました。しかし、広い中国大陸では各地の気候風土や嗜好に合わせ、先ほど上げたすべてのお茶が生産されており、実は一番生産量が多いのは緑茶で消費量も緑茶がトップなのです。

 とはいっても、中国の緑茶は、日本の緑茶を飲みなれた私たちには、これが同じ「緑茶」なの?と感じるくらい違った味わいがあります。これは主に蒸して作ることの多い日本の緑茶に対し、中国では釜炒りで作られるのがほとんどだからです。

 同じお茶の葉が、製造工程の少しの違いでまったく違うお茶に出来上がる。というのもお茶の面白いところでしょう。

 中国茶の楽しみは、その入れ方にもあります。お茶の種類によってさまざまな茶器が使われるのですが、とくに興味を惹かれるのは烏龍茶などの青茶を入れるときに使う茶道具で、小さな茶壷チャフウ(急須)と二種類の茶杯が特徴です。この二つの茶杯は、日本酒の杯のような「飲用杯」と、細長いかたちの「聞香杯もんこうはい」からなるセットです。

 これらは呼んで字のごとく(漢字って便利ですね)香りを楽しむためと味を楽しむための器なのです。まずお茶は茶芸士ちゃげいし(お茶を入れる人)によって、それぞれの客の聞香杯に注がれます。客はそれぞれ自分の聞香杯から飲用杯にお茶を移しかえます。その後聞香杯を鼻に持っていって十分にお茶の香りを楽しみ、続いて飲用杯でお茶の味を楽しむわけです。

 なんだ面倒くさい茶碗なんて一つで良いだろうと言われるかもしれませんが、これが実際やってみると解るのですが、この聞香杯を使うと香りが特に良くわかるように作られているのです。そして青茶というのはそれこそ香りが命といってもよいぐらいのお茶なのです。ですから、よいお茶であればあるほどこの道具で楽しむのがオススメです。烏龍茶などの半発酵茶は、緑茶と違い4.5 煎から物によっては7.8 煎目まで何度もお茶を楽しむことが出来ます。一煎目から徐々に変化していく香りと味を味わうのも良いものです。

 とはいっても、さて茶を飲むかと言う時に、必ずこの茶器セット(「工夫式茶器」といいます)を出すのは面倒なことです。そんな時は別段茶器にこだわらず、茶漉し付きのマグカップで楽しむことも多いのです。私のお茶の基本は、美味しく楽しくなので、それで良いかなと思っています。

 余裕がある時やお客様にお出しする時は、良い茶葉とそれにあった茶道具を揃えて入れてみます。そうするとその入れ方や、飲み方のプロセスというものから、心の安らぎや癒しを知らず知らずに得ているような気がします。そして文字通り「茶飲み友達」となった中国茶仲間たちと、茶会をしたり茶葉の情報を交換したりするのも楽しみの一つです。

 味覚・嗅覚・視覚から、自然の癒しが得られる中国茶の世界。これからも自分なりに楽しんで行きたいと思っています。

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