62.GPS による地すべり計測 国際航業(株)
槇野 豊・山崎 淳


1 .はじめに


GPS で地すべりを計測するというと、正確に計れるという印象を持つ人、かなり精度が悪いと思う人様々だと思う。測量屋さんでは、「基線長」「L1 、L2 周波」「気象条件」「電離層の状態」が結果に影響を与えるといわれているが、どの程度のレベルで影響する話なのだろう。地すべり移動計測値に、実際はどんな影響があったか、分析した。

2 .地すべり計測体制


・モデル地区は、例年の最大積雪深が約2m 以上となるような自然条件が厳しい、東北の農地地すべり対策事業地区とした。
・基準局2 箇所、連続観測局1 箇所、巡回観測局8 箇所の、計11 箇所にGPS を設置して計測を行った。観測地域の配点図を図- 1 に示す。


図- 1 配点図

●GPS 計測システムは、地すべり移動量を連続的にかつリアルタイムに監視することを基本に設計した。
●連続観測局の観測データは、小型特定無線機で無人中継点に送信してから、電話回線により監視所に転送した。連続観測局のGPS と無線の電源は、現地電力線より確保した。
●基準局1 の観測データは、電話回線により監視所に転送し、GPS の電源は、現地の電力線より確保した。
●基準局2 の観測データは、小型特定無線機で無人中継点に送信してから、電話回線により監視所(東北農政局)に転送し、GPS と無線の電源は、ソーラ発電と風力発電により確保した。GPS システム機器構成を、図−2 に示す。


図- 2 GPS システム機器構成

3 .GPS 計測結果


1 )基線長の比較(1 周波)・異なる基線長を持つ2 地点(基準局)から、連続観測局を同時に計測した。

●基準局1 と連続観測局間の5km の基線解析では、計測値のばらつきが水平方向で約40mm 、鉛直方向で約50mmあった。
●基準局2 と連続観測局間の0.7km の基線解析では、計測値のばらつきが水平方向で約20mm 、鉛直方向で約30mm あった。
●この結果から、基線長が短い方が、基線解析の結果のばらつきが小さく、地すべりによる移動をより捉え易いと考えられる。

図- 3 基線長5km での解析結果 図- 4 基線長0.7km での解析結果

2 )1周波2 周波の比較


●GPS から発信されるL1 波のみで計測した場合と、L1 、L2 双方を使った場合の精度の比較を行った。
●観測値のばらつき範囲は、1 周波受信機で30mm (標準偏差0.94mm )、2 周波受信機で50 mm (標準偏差2.07mm )となった。

図- 5 1 周波受信機解析結果 図- 6 2 周波受信機解析結果

●原因は、2 周波のL2 波がL1 波の約2.5倍雑音信号を拾い、それがノイズとして残ることによると思われる。
●この結果から、1 周波GPS の方が2 周波と比べて解析結果のばらつきが小さいと考えられる。

3 )気象条件と基線長の関係
●大気遅延誤差と観測精度の比較をするため、実験地の近傍にあるアメダスデータの降水量・相対湿度と基線長の比較を行った。
●結果、降水量・湿度は計画値に特に影響が認められなかった。

4 )電離層と基線長の関係

●2 周波GPS はL1 、L2 の2 つの波を受信すれば伝搬遅延の差が得られ、電離層の影響を消去できるが、1 周波GPS 測量は出来ない。その影響を分析した。
●電離層のなかでも特に層が厚く、太陽活動が大きく影響を及ぼすF2 層(高度210 〜1000km )の影響があるのかを1 周波GPS の計測値と比較した。
●結果、F2 層の臨海周波数が高くなっても(太陽活動が活発になっても)計測値にあまりばらつきがないことが判明した。

4 .結論

GPS には様々な誤差があり、そのため様々な補正がこれまで実施されている。しかし、今回実施した1 周波GPS 測量は、自然条件の厳しい地域で、電離層の影響も受けず、2 周波と比較して観測値のばらつきが少なく、コストも安く計測できた。基線長が大きくならないようにさえ注意すれば、気象条件を気にすることなく、実用的なデータが得られると考えられる。

引用・参考文献
1 )及川(2000.3 ):1 周波GPS による地すべり計測業務、月刊測量、P21 〜24
2 )日本測地学会(1989.11 ):新訂版GPS −人工衛星による精密測位システム
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